「価値を決めるのはお客様」-BOJ野口貴裕氏が語る、高付加価値旅行の本質

  • 2026年7月30日

 インバウンド市場の拡大とともに、「高付加価値旅行」という言葉を耳にする機会が増えている。しかし、その価値とは誰が決めるものなのか。社名の由来でもある「Beauty of Japan」を掲げ、欧米豪富裕層市場を中心に日本各地の文化や人との出会いを生かした旅行を提供するBOJ株式会社。野口貴裕代表取締役は、「高付加価値旅行は、旅行会社が決めるものではなく、お客様が価値を感じるもの」だと語る。創業の原点から、高付加価値旅行への考え方、地域との関わり方、そして観光業界への思いについて聞いた。

-最初に、BOJを創業した背景を教えてください。

野口 貴裕 氏(以下敬称略) 私は高校と大学をカナダで過ごし、その後ソニーに入社してアメリカにも赴任しました。合計すると約12年間、北米で生活していました。

 現地で生活する中で、多くの人から日本について質問を受けました。しかし、「鯉のぼりって何?」「茶道はみんなやっているの?」と聞かれても、自分自身が日本のことを十分理解しておらず、うまく説明できないことが多かったんです。そこで、学生時代から社会人になってしばらくの間、日本各地を回るようになりました。

 そうすると、「この日本を実際に海外の人にも見てもらいたい」という思いが強くなりました。実際に日本を訪れた方は、「日本は想像していた国と全然違う。本当に良い国だね」と言ってくださる。その姿を見て、日本の美しさや文化、伝統、人々を海外へ伝えたいと思うようになりました。

 創業した2010年前後は、まだ「インバウンド」という言葉も一般的ではありませんでした。旅行といえば東京・箱根・京都を巡る、いわゆるゴールデンルートが中心で、観光地を回る旅行はあっても、日本を深く知るような体験を提供する会社は少なかったと思います。

 私は英語が話すことができ、欧米の方々の考え方も理解していました。一方で旅行業界の経験はなく、値付けも分からなければ、人脈もありませんでした。それでも、「自分でやってみよう」と思ったのがBOJの始まりです。

-野口さんが考える「高付加価値旅行」とは何でしょうか。

野口 高付加価値旅行は、我々が決めるものではなく、お客様が何に価値を感じるかだと思っています。そこは本当に千差万別です。 ミシュランシェフと鮨作り体験をすることに価値を感じる方もいれば、日本の自然をゆっくり楽しんで過ごす時間に価値を感じる方もいます。

 旅行というのは、自分自身にインスピレーションを与えたり、成長したりするための手段の一つでもあります。今まで見たことのないものを見たり、新しい気付きを得たりすることが、その人にとっての高付加価値になると思っています。ですから、「これが高付加価値旅行です」と一言で定義することはできません。

 ただ、共通して言えるのは、特別感やプライベート感があること、期待以上の体験ができること、そして必ず「人」が関わっているということです。

 例えば、有名ブランドの経営者一家をご案内した際には、普段は一般公開されていない有名アーティストのアトリエを訪問したことがあります。都内のプライベートギャラリーをご案内したこともありますし、日本刀や包丁を購入したいというお客様には、刀鍛冶にオーダーメイドで製作していただき、後日発送したこともあります。

 こうした取り組みは、一朝一夕にできたものではありません。例えば職人さんの工房にも直接足を運び、「お客様を連れてきてもいいでしょうか」とお願いするところから始めました。今でも自分たちで現地へ足を運び、関係づくりを続けています。当然、お断りされることもたくさんありました。

 欧米のお客様は年に2~3回海外旅行へ出掛ける方も多く、世界中を旅しています。その中で日本を訪れる以上、日本でしかできない体験を求めています。自然だけであれば海外にも素晴らしい場所はたくさんあります。しかし、日本には山岳信仰があり、山の中に鳥居があり、宿場町があります。そうした背景やストーリーまで含めて体験したい。それこそが、日本でしか提供できない価値なのだと思います。