オンライン全盛時代に問う、"顔の見える旅行業"の真価-三洋航空サービス中塚裕博社長

  • 2025年6月4日

 2021年、コロナ禍のさなかに話を伺ってから3年。デジタルシフトが進む旅行業界の中で、リアル店舗ならではの価値に注目する動きも見られるようになってきた。神戸市を拠点に全国17店舗を展開する株式会社三洋航空サービスは、リアルでの顧客対応や地域密着型のサービスに徹底してこだわり続ける旅行会社だ。今回は、代表取締役社長の中塚裕博氏に、コロナ禍を経た業績の変化や、今後の事業戦略、業界内での独自のポジションについて話を聞いた。

sanyo
-まずは改めてご自身および御社の紹介と、コロナ禍からの業績回復についてお聞かせください。

中塚 裕博 氏(以下敬称略) 当社は1988年に私が金融機関勤務時代の同僚とともに設立しました。もともと旅行が好きで、もっと多くの人にその楽しさを届けたいという想いが出発点です。『論語』に「これを知る者はこれを好む者に如かず、これを好む者はこれを楽しむ者に如かず」とあるように、好きなことを仕事にするのが一番だと思い、会社を起業しました。

 コロナ前には年間売上が63億円ありましたが、パンデミックで2021年9月期は10億4,600万円まで落ち込みました。2024年9月期は約37億8,000万円まで回復し、2025年9月期は売上41憶5,000万円を予想しています。特に団体旅行の需要が戻ってきており、利益率も向上しています。

 当社の事業は現在、団体旅行、クルーズ旅行、医師会など富裕層向けの旅行、そしてインバウンドという4本柱で構成されています。それぞれに異なるニーズがあり、多様な顧客層に対応できるのが当社の強みです。

-リアル店舗にこだわる背景と、社員教育・事業承継など人材戦略についてお聞かせください。

中塚 実店舗での接客は今でも重要です。特に百貨店や駅前などの利便性の高い場所に店舗を置くことで知名度は上がり、信頼醸成にもつながります。大手各社が非対面・オンラインへの転換を進める中、当社はむしろリアルの強みを活かす方向に舵を切っています。これは差別化戦略の一環であり、地域との密な関係構築や高齢者層への対応力を高めることにもつながっています。

 人材育成では、団体旅行、クルーズや富裕層向け商品の強化を目的に、社員の教育に力を入れています。いずれも専門的なニーズへの対応力が求められ、社員が自信を持って提案できる体制を築くことで、質の高いサービスを目指しています。

-神戸空港の国際化について、どのように捉えていますか?

中塚 神戸空港の国際線就航が始まったことで、兵庫県北部の豊岡や山崎といったエリアからも多くのお問い合わせをいただくようになりました。関西国際空港までのアクセスに2~4時間かかっていた地域の方々にとって、神戸空港の国際化は大きな追い風です。当社としても、こうした動きを後押しすべく、「神戸〜ソウル」間の記念パックツアーを採算度外視で実施するなど、利用促進に取り組んでいます。

 訪日旅行は売上規模としてはまだ大きくありませんが、年平均200%ペースで成長しています。舞妓さんとのお座敷体験を含む京都の老舗料亭ツアーなど、個人では手配が難しい商品が特に人気です。当社では外国語対応スタッフが同行し、安心して参加できるようサポートしています。インバウンド事業は主にBtoBで、クライアントは海外の旅行会社です。今後はより多くの連携先を模索し広げていきたいと考えています。