海外&国内OTAの注目ポイントは?生成AIの活用はどうなった?-WiT Japan & North Asia 2024

国内OTA各社は好調に推移、海外は楽天の予約が増加

国内OTAのセッション「Local View: Trends Driving Online Travel in Japan」の様子

 国内OTAのセッションでは、モデレーターを努めたWiT Japan共同創業者でベンチャーリパブリック代表取締役社長兼CEOの柴田啓氏が、参加した4社に日本市場の現状や今後の展望について質問した。

楽天グループの高野芳行氏

 楽天グループ常務執行役員でトラベル&モビリティ事業ヴァイスプレジデントの高野芳行氏(※高ははしご高)は、2024年7月から8月までの海外旅行予約泊数が前年同期比で約1.9倍になったことを説明。「海外旅行は厳しい状況であるが、1、2年前の国内旅行と同じことが起きている。オフラインからオンラインにシフトしてきて、そのマーケットを楽天トラベルが取れているということでは」と分析した。

 海外旅行については柴田氏が「出国者数が19年並みまたは上回るのはいつか」と質問。これに対し、高野氏は「難しい。為替にもよるから読めないが、数年以内には戻ってほしい」とコメントした。JTB執行役員Web販売事業部長の池口篤志氏も「希望としては今年、来年にも戻ってほしいと思うが徐々に戻っていくのでは。ただしマーケット環境で急に戻ることはありうる」と話した。

JTBの池口篤志氏

 訪日旅行についてはJTBの池口篤志氏が、「国内旅行はツアーを中心に伸びているが、訪日旅行は国内旅行の伸びを上回り、約200%上振れした」と語った。一方、一休執行役員宿泊事業本部長の巻幡隆之介氏は、訪日旅行者の増加に伴い客室単価が平均10%から20%増加していることを説明。リクルートディビジョン統括本部 SaaS領域統括 旅行ディビジョンのヴァイスプレジデントである大野雅矢氏も「じゃらんのADR(客室平均単価)も2桁の伸びを示しており、かなり単価があがってきた」と語った。

 国内旅行については、2024年1月から3月の予約件数や流通総額の前年比を各社が説明。2023年の全国旅行支援の影響を踏まえつつも、じゃらんは1桁の伸び、JTBと一休は2桁の伸びを示したという。なお、楽天は「数字は非公開だが、好調に推移している」(高野氏)。

今年も聞いた「各社の成長機会」、グローバル化やDXなどさまざま

一休の巻幡隆之介氏

 セッションでは柴田氏が「オンライン旅行市場ですら成熟化の兆しがあるなか、5年から10年での目標を考えた時、次の成長機会の分野はどこか」と昨年に引き続き質問した。これに対し楽天の高野氏は、昨年と同じく「グローバル化」と回答。「日本市場のシェアは上がってきたが、上げ続けるのは難しい。2030年には倍にしたいと考えたとき、グローバル化するしかない」と話し、「海外OTAの競合は強いが、戦うことを選択し、市場を拡大していきたい」と意欲を示した。特にインバウンドについては「あと数年で海外の大手OTAと肩を並べられるようになっていきたいと思っているし、それをめざしていかなければならない」と意気込みを述べた。

 一休の巻幡氏は「シェアが他社よりも低いので、国内でまだ伸ばせると考えている」とコメント。「特にYahoo!トラベルでのカジュアル領域を伸ばしていけばシェア拡大できる」と話した。昨年10月にはLINEやヤフーなど5社が合併して「LINEヤフー」になったが、その影響については「ラグジュアリー特化の一休と総合型のYahoo!トラベルというのは変わらないが、(LINEのような)コミュニケーションツールを使って新しい予約体験を生み出せていけたらいいと思う」と語った。

 JTBの池口氏はツアー分野の販売を強化し、着地型ビジネスやインバウンドへの販売をおこなうことで増加をはかる考えを示した。リクルートの大野氏は「タビナカを含む旅行はデジタル化しきれていない部分がある」と語り、観光DXを地域とともにプロジェクトとして実施し、デジタル化していきたい旨を語った。

 このほか、柴田氏は昨年のセッションでJTB以外の3社が「AI」に取り組む方針について言及していたことを改めて指摘し、1年間でのAIへの取り組みについて質問した。これに対し、楽天の高野氏は生成AIにコンテンツのタイトルやサマリーなどを提案してもらい、最適化した上で提供していることを紹介。一休の巻幡氏は検索UXに活用していることを説明した

リクルートの大野雅矢氏

 リクルート大野氏は「じゃらんAIチャット」を試験的にローンチし、AIと会話形式で宿泊先が探せるサービスを展開していることを紹介。今後5年でAIによる旅程の提案がさらに進むとの見方を示すとともに「バックヤード業務は全般的にAIを活用してスリムになっていくのでは」と持論を述べた。

 また、JTBについても池口氏が内部の省力化で活用している旨を説明。「紹介文も含め、マーケティングの領域などでも研究を始めており、お客様の目に触れない内部プロセスの効率化をおこない、お客様の対応時間をどう増やすか、トライアルしている」とした。

 このほか、恒例の一問一答式では、柴田氏が「10年後どこが一番世界旅行の予約を生み出しているか」を質問。参加者からは「Booking.com」「AI専業のサーチエンジン」等の答えがあがった。また、国内ライドシェアの全面解禁については全員が賛同。「民泊に対する規制はなくすべきか」「10年後の旅行観光産業はAIやロボットによって従事する人の数が今の半分以下になる」は全員が「ノー」と答えた。さらに「10年以内に日本はアジアNo.1の観光立国になれるか」については、「ノー」が一人、希望的観測を含めて「イエス」が3名という結果となった。

※訂正案内(編集部 2024年5月29日14時00分)
リクルートの大野様のタイトルを誤って記載しておりました。
お詫びするともに訂正いたします。