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「日本は文化観光だけではなく、自然観光にもっと力点を」星野リゾート代表が語るこれからの観光産業

地方分散と埋蔵需要で国内消費の拡大を

星野 この予測される消費の減少をカバーするためのキーポイントは、今まで消費地になっていなかった地方の振興と埋蔵需要の拡大だ。「ゴールデンウィークの人気観光地は高いから行かない」というのを、休館のタイミングを分散するだけでその部分の需要が増える。いま、時期の分散、地域の分散の両方が本当に必要なのだが、インバウンド増だけしか見えておらず、国内の消費減が見えてないように思える。コロナほどの需要喪失に耐えた意味は大きいが、この国内消費の減少は長期的にみて本当に大変である。

 次世代のために、休みの分散をすれば旅行費用が安くなるので需要が生まれる。たとえば、ゴールデンウィークを一時期にせず、国内を何分割かして順番に休みを取るとかするなどの方法だが、これは政策が必要だ。もう一つは、交通費が高いにもかかわらず、日本は1泊旅行が多い。北海道に高い飛行機代を使っていくなら、1泊しても何泊しても総費用がそう変わらない。連泊すると消費額の地元に落ちるお金が増える。今後は連泊推進を図っていくほうがよいのではないか。

 連泊推進は、宿泊施設の変革ポイントだ。ゲストは、旅館やホテルの食事付プランで毎日、同じ食事を食べたくはない。予約段階で食事に変化をつけたり、ゲストが自由に選べるようにしたりすることはできるだろう。また、 選択制にしたり、地元のレストランと組むという方法もある。ここ「磐梯山温泉ホテル」では、「会津の居酒屋GO!」「喜多方ラーメンGO!」というアクティビティを設けており、夕食や朝食を地元レストランの食事に振り返ることができる。このようなアイデアを実現するには、部門別会計することが必要だ。そうでないと食事が外に取られるという捉え方になる。

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「磐梯山温泉ホテル」の「会津SAKE Bar」、外に行って地元のお酒やラーメンを楽しむアクティビティも

フラットな組織文化で柔軟にアイデアを取り入れる

星野 新しいサービスは、現地でゲストが予期せぬ喜びに出会う様子を見ること。現場でいかに顧客を観察するかである。たとえば、「苔さんぽ」など苔の魅力を全面に出している弊社の「奥入瀬渓流ホテル」で「奥入瀬の苔は、800種類もあってすごい」と教えてくれたのは、顧客だった。施設のスタッフが顧客を観察したことをフラットな組織文化で発信する機会があることが大事である。マサチューセッツ大学の教授だったケン・ブランチャード氏が唱えるように、重要なのは文化であることなのだ。

34もの国立公園のある日本、自然観光の重視を

星野 日本には、34の国立公園があるのにもかかわらず、文化観光は強く、自然観光が弱い。日本での自然観光がブランドとしてもっと醸成できれば地方振興に繋がる。たとえば、現状では富士山の山小屋は雑魚寝することが多いが、ラグジュアリーではなくてもロッキー山脈にあるような山小屋を作れば、新たな需要が生まれる。山小屋改革があってもいいのではないかと思う。

 自然観光の観点でいうと、スイスやカナダは強い。日本は文化観光に偏る傾向があるが、34カ所もの素晴らしい国立公園がある。自然観光は、リピートしやすく、ファンになれば毎年来るのに加えて地方に分散もできる。環境省の国立公園満喫プロジェクトにも合っており、推進できるような宿泊施設や自然観光のための施設を考慮していきたいと思う。




聞き手/ 小野アムスデン道子