世界遺産登録を契機に「持続可能な島」へ、佐渡で進む観光コンテンツの拡充と課題
早ければ今夏の世界遺産登録が期待される「佐渡島の金山」。能登半島地震では一部被害が確認されたが、世界遺産登録含め県は「大きな影響はない」との見解を示している。しかし、一部メディアでは今後数週間以内に佐渡沖で大きな揺れが発生する可能性があると報じており予断を許さない状況だ。1997年に島内有志の「世界文化遺産を考える会」発足以降、世界遺産登録は四半世紀にわたる島民の悲願。登録を目前に迫り昨年12月には、観光庁、文化庁、新潟県が後援を務め佐渡市主催の「佐渡島世界遺産登録・島民団結シンポジウム」が開催され、島民ら100人以上が参加するなど官民一体となって盛り上げる。
シンポジウムに出席した佐渡市長の渡辺竜五氏は冒頭「(世界遺産登録を)なんとしても成し遂げなければならない」と語った一方で、登録されることが目的ではなく「将来の子どもたちに美しい島、美味しい食事、素晴らしい文化を100年200年残していく」と持続可能な発展に繋げることが重要であると示した。現在年間で約50万人の観光客を迎える佐渡。ピーク時の1991年は観光客数約120万人を数えたが、当時は団体での大量誘客など地域のキャパシティを顧みない形で達したもの。今後は年間70万人の観光客数を目標とするなかで、観光素材の磨き上げを行い高付加価値化による稼げる地域へと変貌を目指す。
各地域で進む観光資源の磨き上げ
シンポジウムで基調講演を行った観光庁観光資源課長の竹内大一郎氏は、観光資源を磨き上げた観光コンテンツの効果を、「来訪の目的の創出」「観光消費の場の提供」「より長期の滞在への誘因」「異文化との交流拠点」とした上で、地域一体となった観光資源の磨き上げを求めた。
実際に、地域では官民双方で取り組みが進められている。金山が位置する相川地区では佐渡市や民間企業が一体となり、歴史的資源を活用したまちづくりを行う「相川車座」が立ち上げられた。相川金銀山の工場跡である「北沢浮遊選鉱場」には多くの方が訪れるものの、その他施設がなかったことから写真撮影のみ10分程で切り上げる観光客がほとんどだった。現在では、史跡内にカフェレストランを開設したほかランタンの打ち上げイベントを開催するなど活用が進む。
相川車座事務局長の雨宮隆三氏が大きなKPIとしたのが「滞在時間」。現状は相川地区へ訪れる多くが金山と史跡のみを巡るおよそ3時間の滞在だが、今春にも開業を予定する歴史的建造物を活用した分散型ホテルなど、新規開発施設と既存施設を組み合わせ「相川まちごとミュージアム」として、世界遺産登録をフックに街全体への回遊を図る。雨宮氏は「金山だけでは1回きりになってしまう。体験や食など様々な切り口を提供することでリピートに繋げたい」と述べており、滞在期間は3日間まで伸ばしたい考えだ。
また、島の南西部では廃校となった校舎を再生した珍しい体験コンテンツも。取り組んでいるのは「真野鶴」を製造販売する尾畑酒造で、島内の廃校を酒蔵として再生。日本海をのぞむカフェをオープンしたほか、1週間に及ぶ酒造り体験プログラムの提供も行う。学校蔵としての特徴を活かした学びを提供する体験プログラムで、開始した15年は日本人のみの参加だったが、17年に初めて海外からの参加者を迎え、19年は10名の参加者のうち7名が海外からの参加となり評判が広がっている。
1週間通した同プログラムの1回あたりの参加上限人数は4名。その理由について、尾畑酒造代表取締役社長の平島健氏は「あくまでも体験を提供するもの。これ以上になると見学会になってしまう」。また、平島氏が同プログラムの目的としたのが「ファンづくり」。尾畑酒造や日本酒のファンを作るほか、「1番のポイントは島のファンづくり」で、世界遺産登録により更なる観光客増加が見込まれるなか「(佐渡に)来てくれた方が、また来たいなと思っていただけるかが大事」と語った。
先進事例として、昨年世界遺産登録30週年を迎えた屋久島は、リピート率の低さを課題としている。シンポジウムに登壇した屋久島町役場観光まちづくり課地域振興係長の岩川健氏によると、屋久島のリピーターの割合は19.9%。宮古島が53.5%、奄美大島が43.67%と、その他の離島に比べ低い。岩川氏は「屋久杉以外の観光資源を活かせておらず、再訪する目的や動機が少ない」と要因を分析。同じ離島の先進事例として「佐渡島の金山」以外の観光コンテンツをどこまで提案できるかが重要になりそうだ。