オーストリア現地レポート第2弾、「ザルツカンマーグート地方」のバート・イッシュルの魅力とは?
欧州文化首都へ準備着々
2024年の欧州文化首都では、バート・イッシュルが主役として選ばれているが、実際には周辺の22の街と共同で様々なイベントやプログラムを計画しており、ザルツカンマーグート地方全体で力を合わせて取り組んでいくことになっている。複数の地域が協力して欧州文化首都のプロジェクトを展開するのは史上初で、またオーストリアではリンツのほか2003年にもグラーツが選ばれたが、州都以外の選定も今回が初めてとなる。
そして、2024年に彼らが掲げたテーマは「文化は新しい塩(Culture is the new salt)」。塩が地域全体やオーストリア、そして欧州の歴史や伝統、社会形成の基盤となってきた過去を振り返りつつ、これから未来に向けては文化がその役割を果たすというコンセプトで、文化や芸術、工芸、観光など様々な分野で150ものプロジェクトが進められている。
すでに一部は今年から始まっているが、2024年はリンツ・ブルックナー管弦楽団によるニューイヤーコンサートから始まり、ブルックナーハウスの50周年、アートフェスティバル、映画祭などの各種イベントが多数計画され、さらに現実世界でのハイキングとその行程に合わせて録音された音声ファイルを組み合わせた没入型体験の「Great Space Walk」、バート・イッシュルの人気レストラン「シリウスコーグル(Siriuskogl)」のオーナーシェフによるグルメのプロジェクトなども目白押しだ。
また、バート・ゴイゼルンでは地域のものづくりの文化の維持育成を目的とした施設「HAND.WERK.HAUS Bad Goisern」が中心となり、国内外の芸術家や職人が交流する「SCALA(Salzkammergut Craft Art Lab)」プロジェクトも昨年から継続中。こうしたプロジェクトの数々を通して、ショルダーシーズン対策やオーバーツーリズムの回避など責任ある観光開発の実現も同時に目指している。さらにリンツについても、先述の「ブルックナー・イヤー」が連携して企画が進められているほか、アルス・エレクトロニカなどでも欧州文化首都に合わせたプログラムが用意される予定だ。
課題のインフラも拡充進む
バート・イッシュルを含め23の街々はいずれも小さく、欧州文化首都で予測される訪問者の増加に対してホテルや交通などのインフラが十分整っていないとの懸念もあるが、オーバーエステライヒ州観光局によると現在進行系で改善の取り組みが進んでいるところ。交通では、オンデマンド型の輸送サービス「Traunstein Taxi」や「Salzkammergut Shuttle」が移動を容易にするほか、ザルツカンマーグート地方全体の交通手段についての情報をまとめるウェブサイトも開設予定だ。
宿泊施設でも23地域でそれぞれ拡充が続いており、バート・イッシュルで1791年から営業する名門ホテル「ホテル・ゴールデナー・オックス」が新たな宿泊棟を取得して開業しているほか、こちらも超老舗であるグムンデンの「ゴールデナー・ヒルシュ」も拡張工事を完了済み。同観光局はトラベルビジョンの取材に対し、「ゴールは明確で、オーバーエステライヒ州への旅行の動機として文化体験をこれまで以上に発展させ、長期的に地域全体の観光価値を高めることだ」と説明した。
このほかでも、オペレッタの作曲家として知られるフランツ・レハールの住居を改装したバート・イッシュルの博物館「レハールヴィラ」なども欧州文化首都に向けて改装が進められている。欧州文化首都のプログラムは、リンツもそうだったようにインフラの整備や観光戦略のブラッシュアップをもたらし、そのポジティブな変化は翌年以降もレガシーとして長く恩恵をもたらすと期待できる。