オーストリア現地レポート第2弾、「ザルツカンマーグート地方」のバート・イッシュルの魅力とは?
ここからは2024年の欧州文化首都に選ばれたバート・イッシュルについて見ていこう。
バート・イッシュルってそもそも?
バート・イッシュルは、ウィーンとインスブルックのちょうど中間くらいの山あいにある小さな街。アルプスの山々の間を縫って街をぐるりと囲むように流れている清流の絶景と、冒頭の写真のようにかわいらしい街並みが特徴。また、バート(Bad)とはドイツ語でお風呂や温泉を意味する単語で、その名の通り温泉保養地としても長い歴史を持っている。
バート・イッシュルは何千年もの昔から岩塩の産地として人類が生活の拠点としてきたザルツカンマーグート地方(「塩が多くとれる領地」といった意)の中心地で、バート・イッシュル自体も塩で栄えてきた歴史を持つ。
特に、現代に続くリゾート地として発展したきっかけも、岩塩鉱脈に由来する塩化物泉の効能が国内外で人気となって王侯貴族や富裕層がこぞって訪れるようになったため。特にオーストリア帝国の実質的な最後の皇帝であるフランツ・ヨーゼフ1世はバート・イッシュルと深い関わりで知られている。
例えば、そもそも子宝に恵まれなかったフランツ・ヨーゼフの母が医師の勧めで療養したのがバート・イッシュルであったためその後に生まれた息子たちは「塩の王子」と呼ばれ(街中にはコウノトリが彫り込まれた像も)、また皇后エリザベートに一目惚れするのもバート・イッシュル。フランツ・ヨーゼフはその後も生涯バート・イッシュルを愛し、晩年には第一次世界大戦のきっかけとなったサラエボ事件の悲報を聞いてセルビアに対する宣戦布告書に署名するなど歴史の重要な舞台にもなっている。
かわいさと自然があふれる街
バート・イッシュルの街は1、2時間もあればあらかた歩けてしまうほどの小ささだが、訪れた者を魅了する要素がギュッと詰まっている。
フランツ・ヨーゼフが母から結婚祝いとして贈られ毎年滞在するようになった別荘カイザーヴィラは、館内では皇帝が狩猟で射止めたおびただしい数の鹿の骨や様々な剥製が飾られているので人によって相性はありそうだが、豪華な内装や展示品は当時の皇帝の暮らしを今もリアルに伝える。また、敷地内にはエリザベートのために建てた宮殿もあり、そこへと伸びやかに続く美しい庭だけでも訪れる価値あり。バート・イッシュルは、自然と人間の生活との切れ目のない調和が印象的だ。
そして個人的に心を奪われたのは散策。時期もあるのかもしれないが、訪れた9月中旬には色とりどりの花が街中に咲きほこってひと目で心を奪われるかわいらしさ。2015年にガーデンショーが開催された際に整備されたらしく、今でも何十種類もの花が楽しめるよう丁寧に手入れされているとのこと。加えてオーストリアは日本よりも湿度が低いこともあって「地球沸騰」のなかの9月でも負担は少なく、昼間こそ汗ばんでも夜はエアコンいらずだったのがありがたい。
またグルメやショッピングも楽しい。トラウン川沿いの遊歩道「エスプラナーデ」には、皇室御用達というカフェ・ツァウナーの支店があり(本店は約300m離れたメインストリートに)、シュニッツェルやターフェルシュピッツなどオーストリアの名物料理が揃って絶品だし、チョコレートやケーキの並ぶショーウィンドウは見ているだけでも幸せな気分に。さらに川遊びや後日紹介予定の超充実の温浴施設など、大自然に恵まれた皇帝の避暑地で贅沢な休暇を楽しむことができる。
ちなみにショッピングでは、名産品である塩の土産物ももちろん鉄板だが、1807年創業で王室御用達の薬局クーア・アポテーケ(Kurapotheke)を強くおすすめしたい。薬局と言っても日本のドラッグストアなどとはまったく異なる趣きで、ハーブなど自然の原料に基づいて伝統的医薬品を製造してきた長年の蓄積と最新の医学的知見をもとに、エッセンシャルオイルや軟膏、ヘアケア/スキンケア、薬用酒などのオリジナル商品を販売。
どれもバート・イッシュルならではで、デザインも洒落ているのでお土産の有力な選択肢と断言できる。難点はドイツ語表記で、Google翻訳のカメラ機能を使ってなんとか解読したものの、たくさんある商品のうち半分も理解できなかった気がするので、そこは逆に旅行会社の力の見せどころになるはずだ。