【労務のいろは】2024年4月からの労働関係にかかる法改正に関して
平成25年(2013年)4月に労働契約における「無期転換ルール」が導入されてから10年が経過し、その見直しを含めた法改正が行われました。
今回の改正内容としては、
①無期転換ルールの見直し
②労働契約関係の明確化
③裁量労働制の見直しに関して
以上がメインとなります。今回は実務に向けて確認必須と思われる①と②について、留意事項を整理しておきたいと思います。
〇無期転換ルールとは
同一の使用者との間で締結した2以上の有期労働契約の通算契約期間が5年を超えた場合に無期転換申込権が発生し、有期労働契約者は使用者に申し込みすることで期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換する。申し込みがあった場合、使用者は拒絶することができないというもの。
〇労働条件明示事項に関する追加項目
労働契約を締結する際、雇い入れる側の使用者は、「労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。(労働基準法第15条)」とされています。
具体的にどのようなことを明示しなければならないかは、労働基準法の施行規則に定められています。
このたび、その施行規則の改正に関する「労働基準法施行規則及び労働時間等の設定の改善に関する特別措置法施行規則の一部を改正する省令」が令和5年3月30日に公布されました。これにより、有期契約労働者に対する労働契約締結及び更新における労働条件明示事項として【図1】の内容が追加されました。
1. 就業場所・業務の変更の範囲
全ての労働契約締結時と有期労働契約の更新の度に、「雇い入れ直後」の就業場所・業務の内容に加えて、これらの「変更の範囲」についても明示が追加されました。「変更の範囲」とは、将来の配置転換などにより変わり得る就業場所・業務の範囲を示しています。
これまでは将来の変更は気にせず、現在の就業場所・業務内容だけを明示すればよかったのですが、2024年4月からは、変更する可能性があれば明示しておかなければなりません。これにより労働契約締結時において、「この変更には応じられない」ということで雇用契約が結べないなども起こり得るかもしれません。
2. 更新上限(通算契約期間又は更新回数の上限)の有無と内容
これまで労働契約締結時(更新時においても)に、更新の有無と更新の判断基準を明示してきていると思います。今回これに「上限があれば、上限の記載を追加する」ことが義務化されました。また契約時において、上限を新設する又は短縮する場合には、あらかじめその理由を説明することが必要となりました。
例えば、上限を2年とする場合、これまでは口頭で上限を説明するのみでも大丈夫でしたが、今後は、契約締結時において「通算契約期間の上限は2年とする」等を書面等において明示しなければならなくなります。弊所で見ていても有期労働者の雇用契約書に更新上限に関する記載を見ることはほぼ無いため、上限においてはすぐにでも記載するように変更すべきかもしれません。ただ、今は人材不足で雇用も困難な状況にあるため、上限を記載して雇用契約が結べないよりは、無期転換の申出を覚悟で上限の記載をせず、有期雇用を続けることもあり得ると思います。それぞれの企業にあった対応でよいと思っておりますが、ただ、制度改正の内容はきちんと理解しておいていただくのがよいと思っております。
3. 無期転換申込機会の明示と4無期転換後の労働条件の明示
今回の改正により無期転換申込権が発生する契約更新時において、転換申込機会と無期転換後の労働条件を明示しなければならなくなりました。さらにこの明示は、無期転換申込権が発生する最初の契約更新時に限るものではなく、その後の更新時においても行う必要があります。さらに、無期転換後の労働条件決定については、正規型の労働者(正社員等)及び無期雇用フルタイム労働者とのバランスを考慮したものとして、有期契約労働者に説明するように努めなければならないとされました。(「バランスを考慮したもの」とは、業務の内容、責任の程度、異動の有無や範囲などとなります。)
労働契約締結時に無期転換申込について説明を受けることで、今まで無期転換申込権を認識していなかった人が認識することが想定さます。これにより無期転換する労働者が増えるはずです。
これらを踏まえて、労働条件通知書などの書面を改訂し、かつ、無期転換後の労働条件について、今から検討しておく必要があると思います。当然のことですが、無期転換ルールを意図的に回避することを目的に、無期転換申込権が生じる前に、雇止めや契約期間中の解雇等を行うことは、法の趣旨に反しているため、望ましいものとは言えません。まずは、会社としてどう対応するか、また準備を行っていくかを検討されてはいかがでしょうか。