「だけじゃない」英国の魅力、グルメや新オープンの蒸留所など視察レポート

  • 2023年2月20日

コロナ禍を乗り越えた王道スポット

 視察の後半は湖水地方で、ここでもスコットランド同様に王道に加え新たな可能性が提示された。「王道」側では、英国内で「歴史ある庭への最高賞」を受賞する「ダルメイン・マンション&ヒストリック・ガーデンズ」を訪問。「イギリスで一番美しい庭」としてNHKでも取り上げられるなど庭への注目度が高いが、世界45ヶ国から3000件もの応募があるというマーマレードの世界大会も人気。またスコットランドとの対立時に防衛拠点であった邸宅も歴史を感じさせ、またそこでいただくアフタヌーンティーは家庭的なあたたかみが魅力的だった。

ダルメインの庭園はシーズンに向けて準備が進む。写真のようにドラゴンの形に刈り込むなど遊び心も

 また湖水地方の風景や環境の保護に多大な貢献をした、ピーター・ラビットの生みの親であるビアトリクス・ポターも従来からの重要テーマで、今回はポターが買った農場「ヒルトップファーム」を訪問。これまで無料だった庭園部分の入場が有料となったものの、コロナ禍でも変わらずに保全されている様子が確認できた。

ヒルトップファームの邸内。わらじを履いた蛙の像は日本のもので「かえるのジェレミー」の元になったとか

 ちなみに、湖水地方ではないがハイランドからエジンバラへ向かう途中では「ザ・グレンイーグルス・ホテル」でビアトリクス・ポターをテーマにしたアフタヌーンティーもいただいた。

ザ・グレンイーグルス・ホテル。建物の内装、スタッフの制服、調度品などすべてが映画のセットのような抜群の雰囲気

由緒ある城で城主家族と会食

マンカスター城のダイニングルーム。城内には宿泊可能な部屋も用意される

 一方、新素材として参加者のなかで評価が高かったのは、湖水地方国立公園の西端にある「マンカスター城」。紀元1世紀のローマ人の遺跡をもとに建造された28.3万平方メートルの城と庭園で、少なくとも8世紀以上も城を守り続けてきたペニントン家が今もそこに暮らし訪問者をもてなしている。ペニントン家のこの地での最古の記録は1208年で、日本でいえば源頼朝の没後9年。そのような昔から土地を離れず伝統や文化、歴史を守り続ける家の子孫と触れ合い、食事までともにする体験はやはり特別だ。

右が次期当主の男性。スコットランドの血筋も引いており、わざわざ着替えて見せてくれた

 なお、マンカスター城至近の「レーブングラス・アンド・エスクデール鉄道」は小型蒸気機関車による体験乗車や古き良き時代の客車での宿泊などを提供。英国は鉄道発祥の地であり、ファンにはたまらないだろう。

レーブングラス・アンド・エスクデール鉄道の構内。美しく整備された機関車の姿が印象的だった。またマンカスター城とこの鉄道には看板猫がいることも最近のマーケティングトレンドからして特記事項と言いたい
湖水地方ではバセンスウェイト・レイルウェイ・ステーションも訪問。ジョニー・デップ主演の映画「オリエント急行殺人事件」のために作られた蒸気機関車と客車の模型を買い取ってカフェ兼イベントベニューとして営業している

「実はおいしい」英国グルメ

 最後は、個人的に最大の衝撃だった食事について。「英国といえばマズい飯」というステレオタイプを筆者も信じてしまっていたが、見事にくつがえされた。もちろん観光局に招かれての視察であって優れた店舗が選ばれているのは間違いないが、滞在中の多くの食事が「おいしい!」と思わず声に出してしまうほど。

マンカスター城でのランチから。マッシュルームがクリーミーなガーリックソースで仕上げられていた

 最初に驚いたのは到着初日にロンドンで食べたインド料理で、インターコンチネンタルホテル内のレストランなのでお値段もそれなりだが、カレーもビリヤニも日本の感覚でも値段に見合う美味。

 さらにベジタリアンメニューが衝撃で、例えばブロッコリーのグリルは香ばしく焼き上げられた大きなブロッコリーに複雑なスパイスや蜂蜜で仕上げたコクのあるカレーヨーグルトソースを合わせ、香り高いカシミールチリやナッツが食感のアクセントも添える。ベジタリアンというと何かを我慢しなければならないものと思っていたが、これなら進んで選びたいと価値観まで変えられてしまった。

ウェルカムイベントの会場で提供された一皿。中東料理のファラフェルをベースにしたもので、これもベジタリアンメニューだが物足りなさはゼロ

 インドや香港との関わりがあるからエスニックや中国料理なら、という理屈もあるようだが、スコットランドで何度も食べた羊の内臓料理「ハギス」も商談会での小皿料理も、ハイランドのホテルで供されたスズキのシーフードパスタも、すべて日本でもまた食べたいレベル。

ハイランダーインの前菜。鶏胸肉にハギスを挟んで仕上げた一品で臭みや嫌なクセは皆無

 スーパーで買ってみた定番らしいカップ麺ははっきり言ってひどい味だったのですべてがすべてではないものの、事前の期待が低いということはそれだけチャンスも大きいということ。「実はおいしい」は旅行者へのメッセージとしてとても有望ではないかと思う。

取材協力:英国政府観光庁
取材:松本裕一