人的資本経営の推進、調査をいかに経営施策に落とし込むかが重要-JTBビジネスソリューションEXPO2022

  • 2022年12月21日

人的資本経営を推進して企業価値を向上
情報開示で効果的な採用活動を

結果を出すためには「理想と現実のギャップ埋め」を、EVP提供も



 また、上山氏は多くの企業が抱える課題として「ビジョンや経営戦略は明確で、取り組みはいろいろ行っているが、なかなか社員に伝わらない、伝えきれないジレンマがある」点を指摘。ビジョン・経営戦略は明確だが、人事戦略が未確定だったり、なぜか社員に伝わらなかったり、伝わったとしても社員の意識や行動が変わらなかったり、といった細かな課題があるという。また、社員にサーベイや研修をしても結果がなかなか出ないなどの例もあるという。

 これらの解決策として、上山氏は「組織・社員のAs-Is/To-Beのギャップを把握し、原因を特定して対策計画を策定し、ギャップを埋める取り組みを続けていくことしかない」と訴えた。そのためにはサーベイや人的データを活用しつつSTPDサイクル(See,Think,Plan,Do)をうまく回す必要があるとし、「具体的なアクションがないとギャップは絶対埋まらない。取り組み施策のアクションは必須」と強調した。

 また、上山氏は「組織と多様な個人それぞれに対し、色々な学び直しの機会を提供すべき」と語り、環境を整えるとともに、社員のやる気を引き出すためのアプローチが重要であることを説明。仕事への態度が良く活動水準が高い、生き生きと働く「エンゲージメント」タイプの社員の育成をめざすことが人的資本経営のポイントとした。

 さらに同氏は人的資本経営を実践するためのキーワードとして「EVP(Employee Value Proposition、社員への価値の提案、ひいては社員が共感できるその企業で働く価値の提案)」をあげた。もとは米国のコンサルティング会社・マッキンゼー・アンド・カンパニーが提唱したもので、具体的には熱意を持って取り組める仕事、一流の企業文化・リーダーたち、優秀な同僚や職場の仲間、実力に見合った報酬、成長機会と能力開発、ワークライフバランスなどを指すという。

 上山氏は「社員にEVPをどう提供していくかが人的資本経営の実践に必要なもの」と解説。具体的には「会社ビジョン」「風土」「労働環境」「各種制度」「人材活用」の5大要素をあげ、各要素で社員が共感できる体験・経験ができる仕組み作りをし、社員のモチベーションを上げるよう提案した。

3つの事例から見る人的資本開示の方法

セッションの様子

 セッションでは最後に、上山氏と小林氏が人的資本開示の具体的な取り組み事例を3つ紹介した。1つ目は、最適なサーベイを導入した従業員1万人規模の企業の事例。この企業は「組織の風土改革の推進」のために従業員サーベイを実施していたが、調査に手間がかかりすぎており、サーベイを十分活用できていなかった。

 この企業ではサーベイをアウトソーシングするとともに施策の検討・実施に注力。既存のサーベイをベースにして、目的に応じたKGI(重要業績評価指標)とKPI(重要目標達成指標)を再設定して設問を設計し、課題の洗い出しと解決に向けた取り組みを検討した。上山氏によると、この際にポイントになったのが経営層の理解と複数部署横断での企画チームの存在、核となるアンバサダーの選定だったという。

 2番目の「周年のタイミングでビジョン浸透を図った事例」については「周年行事式典でビジョンを共有し、社員一丸で決起する会にしたい」という企業側の要望に応えた事例だ。このケースでは式典前にサーベイを実施し、ビジョンに対する社員の共感度や将来に対する思いを可視化。サーベイの結果を踏まえ、式典では経営者が事業や組織のビジョンを語ったところ、盛り上がるとともに社員に一体感が生まれたという。この事例を踏まえ、上山氏は「周年事業は記念式典だけにフォーカスがあたりやすいが、ぜひ周年イヤーの前後に取り組みを実行し、社内外に情報発信してほしい。それが企業としての人的資本経営の取り組みのアピールにつながる」と語った。

 3つ目の事例は「社員意識調査をフル活用した事例」。小林氏は「サーベイとコアで数字を取ってデータ集めることも需要だが、それをいかに経営に反映させるのかと、STPDサイクルを適切に回すことが大切」と話した。そのためには事務局はもちろん、経営陣が自ら関わる必要があるという。

 最後に上村氏は人的資本経営の推進と開示のメリットを整理。コストも手間もかかるが、推進すれば社員のエンゲージメントが高まり、自立型の人材が増えることで生産性が高まりイノベーション創出力が向上するという。同氏は「それらを社員や社会を通じて世の中に伝えることで、ブランディングが培われ企業価値が向上する。ビジョンに共感した人が集まるので、効果的な採用活動につながり、社員の定着率の向上につながる」とメリットを改めて強調。「ぜひ開示したくなる、アピールしたくなる取り組みと成果をめざしてほしい」と締めくくった。