海外旅行は行きたいけれど、最初の一歩を阻むのは「不安」、Z世代が旅行会社に求めるものは?
コロナ明けの初海外は王道の旅行先が人気
手軽さよりも丁寧なケアを重視
ポストコロナの海外旅行を考えるうえで、今後消費の中心層へと成長していくZ世代への期待は大きい。さきごろ開催されたツーリズムEXPOジャパン2022では「緊急報告『Z世代の海外旅行意識調査』」と題して、日本旅行業協会(JATA)と若年層の旅行マーケティングを手掛けるバリーズによるZ世代の海外旅行への意識調査結果の発表と、Z世代の学生によるパネルディスカッションが行われた。1つ上のミレニアル世代とは異なる彼らの意識や嗜好を知ることが、これからの旅行スタイルやプロモーション展開を考えるヒントになりそうだ。
今回の調査は7月21日から31日の間、東洋大学国際観光学部の学生440名を対象にアンケートを実施した。調査を主導した同学部教授の越智良典氏は、パネルディスカッションに先立ち9月22日に開かれた記者会見で「Z世代の人々は、コロナでの我慢を取り返すように留学やゼミ旅行などに積極的に動き始めている段階にある。Z世代の情報の取り方や考え方、旅行の仕方がこれから旅行スタイルの羅針盤になるのではないかと、このプロジェクトを立ち上げた」と経緯を説明した。
バリーズCEOの野々村菜美氏は、調査結果からZ世代には大きく5つの傾向が読み取れると分析した。1つ目は「初心者ゆえに、まずは定番デスティネーションから行きたい」という点。「いま海外に行きたいか」という質問に対し、90%以上が「2023年の春休みまでに行きたい」と回答しており、コロナ明けの初海外は王道のハワイ、グアム、韓国、東南アジアの人気が高いという結果だった。これについて野々村氏はミレニアル世代と大きな違いはない印象を受けたというが、「どんな旅行スタイルを求めるか」の問いに対しては、「充実した予定を詰め込んだ弾丸2泊3日旅」に多くの票が集まったことから、Z世代では「コスパがいい旅のニーズが高い」との考えを示した。なお、ミレニアル世代に求められる「インスタ映え」「ステイケーション」「デジタルデトックス」は低調。また「SDGs」や「社会貢献」などZ世代と相性の良いとされるキーワードも浸透しておらず、やはり価格が重要になるという回答が多かったという。
2つ目は「予算のボリュームゾーンは1回あたり10~15万円」。アンケート後に行ったインタビュー調査では「予算上限は最大20万円」「親族からの5万円程度のサポートが期待できるかもしれない」との声が聞かれたという。加えて、類似の条件の旅行であればマスク着用が徹底されている国・都市を選ぶという意見が多数を占めたことから、野々村氏は「東南アジア諸国に誘客のチャンスが期待できるのではないか」との見方を示した。
3つ目は「海外旅行促進にはInstagramが影響力大」。アンケートでは「この国・都市に行きたい」と感じるきっかけの圧倒的1位がSNSで、なかでもInstagramとYouTubeに票が集まった。Z世代のマーケティングではTikTokも注目されているが、TikTokの票は22.6%に止まっており、旅行においてはInstagramの影響力が強いようだ。一方で野々村氏は、Z世代が評価するのは人工的なこれまでの「インスタ映え」ではなくリアルな投稿であることがポイントだと指摘し、「『作り物でないリアル』の観点から、動画によるユーザー生成コンテンツ(UGC)の重要性がますます高まる気配を感じている」と話した。
4つ目は「経験がなく、不安なのでパッケージツアーがありがたい」。野々村氏は調査のなかで「ホテルが予約されていなかったら」「コロナに感染したら」など、個人旅行に対する不安を強く感じたという。海外旅行の予約方法を問う質問でも「安心の大手旅行代理店のフリープランで保険もセットになっていて、日系エアラインを選択できるのであれば、最安値でなくとも選びたい」という声が大勢を占め、OTAは使わないという結果だった(ただし、国内旅行では「楽天トラベル」と「じゃらんnet」が人気を集めている)。
5つ目は「治安、言語、料金、衛生に対する過剰なまでの恐怖心」。アンケートのフリーコメント欄には300を超える「海外に対する漠然とした不安」という回答が寄せられたという。野々村氏は「今回は観光学部の学生という日本全体で見ても旅行が好きな方を中心にアンケートを取ったが、それでも不安を感じているという結果だった。最初の一歩をどう踏み出してもらうかが非常に大切だと思う。アウトバウンド業界では更なる啓蒙活動が必要で、余計な恐怖心を取り除いてあげることで、海外旅行者数年間2000万人の早期回復の重要な担い手としてZ世代トラベラーに期待したい」と結んだ。
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