札幌クリエイティブホテルアライアンスが初のイベント開催、気鋭の若手3人が描く「コンセプチュアルなホテル」とは
ホテルのコンセプトは採用にも影響?
松下氏は「コンセプチュアルなホテルである分、”らしさ”を出すためには働いてくれる人がより大事になってくる。自分たちの行動指針に当てはまる人の採用に課題を感じている」という。これについて山崎氏は、「ホテルのコンセプトを大事にしているのは、対外的な面もあるが、『その世界観に共感して集まってくれるスタッフがいるだろう』という副次的な効果も視野に入れている。良いスタッフを集めるためにもコンセプトが明確化されていることが大事」と応じた。
龍崎氏は「大事にしているのは”バイブス”が合うかどうか。第一線で動いてくれる人たちなので、世界観をより濃くしてくれる方を採用する」と答えた一方で、「ただ好きなだけでは、そのホテルの世界観を濃くできるとは限らないし、こだわりすぎると採用がどんどん狭き門になり、自分たちの首を絞めてしまう」と指摘し、星野リゾートの星野佳路氏の言葉である「笑顔採用」に言及。「能力や志望動機はいくらでも繕えるので、笑顔や第一印象を信じて採用を行い、その後ホテルの世界観を浸透させていくと割り切るのも選択肢の1つではないか」との考えを示した。
「刺さる」コンセプトはいかにして生まれるか
続いて濱田氏は、「コンセプトとはどうやって作っていくものなのか?」と質問。山崎氏は「パッとアイデアが下りてくるときもあれば、悶々と悩むこともある。悩む場合は因数分解して要素ごとに考える」と答えた。例えばイベントの会場となったUNWIND HOTEL&BAR 札幌もグローバルエージェンツの運営だが、元々はグランピングが盛り上がり始めた頃に起案したコンセプトだった。「キャンプやロッジ滞在の魅力は自分でテントを組み立てるワクワク感や自然体験だが、それが面倒という要素にもなり得る。都市型ホテルのスペックとサービスでロッジの世界観を再現したら面白いなと考えた」(山崎氏)。そこを起点に暖炉やレンガをデザインに取り入れ、世界観を構築していったという。
龍崎氏は「平均して3ヶ月ほど悩むが、他の土地と比較することを重要視している」と回答。湯河原でホテルを展開した際は、近場の熱海と比較。すると熱海にはかつての新婚旅行や慰安旅行などの「パブリックな旅行地」のイメージが、湯河原には「文豪の逗留や、ひっそりとした親密な旅行に利用されている」というイメージが浮かんだ。また熱海は商店街など外に出ることを前提とした作りになっているが、湯河原は宿に籠るスタイルが馴染むと感じたため、「湯河原チルアウト」というコンセプトで都会の喧騒を離れて創作に集中できる「原稿執筆プラン」を売り出したところ、好評を博したという。
松下氏は「プロセスは龍崎氏と似ているが、原体験は旅。海外に長く住み60ヶ国を旅した経験から、比較する場所がより遠くにある」と説明した。LINNAS Kanazawaも、デンマーク語で「満ち足りた」や「居心地のよい」を意味する「ヒュッゲ」がコンセプトだ。松下氏は現地の音や会話を聞いてその文化を理解するというプロセスを大切にしているといい、「『ヒュッゲ』という言葉も地元の人たちが言語化できなかった良さを再定義し、今ではホテルの周囲の人々にも浸透しつつある」と語った。
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