【労務のいろは】4月1日より全企業がパワハラ措置義務化! 中小企業はどう対応するべきか
3.事業主が講ずべき措置
2022年4月1日より、中小企業にはこれまで努力義務だったパワハラ防止対策が義務となりました。現状、この法令違反に対して罰則こそありませんが、パワハラについては暴行罪や名誉毀損罪など刑法に抵触することがあり、厚生労働大臣は違反した事業主に対し勧告ののち勧告に従わない事業主を公表することができるとしています。
事業主に求められるパワハラ防止措置
今回の中小企業のパワハラ防止対策義務化により、パワハラの行為者に対しての処分を就業規則等に規定することが必要とされました。既に各種ハラスメントに対しての懲戒処分を規定している事業主は多いと思いますが、まだ行っていない事業主は早急に就業規則の改定を行い、労働者にパワハラに対する指針だけでなく懲戒処分の内容等についても周知する必要があります。また規定するだけではなく、周知・啓発まで行うことが必要です。
就業規則に規定があっても、パワハラの相談窓口体制整備や周知等ができていない会社が多くみられます。相談窓口は会社の人事部や外部に委託など様々な対応が考えられると思います。こちらについても早急に対応が必要です。
【相談・苦情への対応の流れ】
相談窓口担当者についてはパワハラが発生したときに、素早く解決を図ることが必要です。現実の問題として、中小企業で相談窓口担当者が人事のスペシャリストである可能性はとても低いのが現状です。まずは厚生労働省が提供している次の資料などを使って研修・啓発を行うことを会社として検討すべきではないでしょうか。ただ、なかなかそんな時間を作るのは難しく、放置されているのが現場の状況だと思います。助成金など利用してセミナーを受講させることや外部講師に依頼する等も方法の一つです。どのようなことが会社としてできるか、一度ご検討いただくとよいと思います。
労働者自体にパワハラを理解させ、パワハラを行う者が、パワハラを受ける者から訴えられることなど、そのリスクを伝えていくことも今後は必要となります。弊所でもまずパワハラ相談がある場合には、どういったことがパワハラなのか、またパワハラを行う者がどのような対応を受けることがあるのかといったことを、掲示等を使って伝えるなどした事例もあります。パワハラを行っている者は、社会的地位を失うことになり得ることまで考えていません。そういったことから理解させるのも、働きやすい職場を作るための手段としてお考えいただくとよいでしょう。またパワハラの発生の原因や背景には、労働者同士のコミュニケーションの希薄化などの職場環境の問題があると考えられます。このため、これらを幅広く解消していくことも、職場におけるパワハラの防止の効果を高める上では重要だと思われます。
パワハラと言っても、言動を受けた労働者の主観により受け取り方は様々です。管理職や上司は職務として、部下に業務指導を行うのはもちろんのことで、その方法・範囲が逸脱したものがパワハラと呼ばれています。管理職や上司はパワハラに該当するもの・しないものを正確に把握し、すべての労働者にとってより良い環境で働ける社会となればと切に願っています。
特定社会保険労務士。医療労務コンサルタント。岡部社会保険労務士事務所代表/合同会社Deyコンサルティング代表社員。
東京都八王子市出身。大学卒業後、建設会社、サービス業を経験し、2006年社会保険労務士登録。2011年より岡部社会保険労務士事務所設立。手続き業務、給与計算、規程作成、助成金申請、労務相談を行いながらクライアントに寄り添うサービスを目指す。