【労務のいろは】4月1日より全企業がパワハラ措置義務化! 中小企業はどう対応するべきか

2.職場におけるパワハラの内容

 ここでは前出の3つの要素を詳しく見ていきます。

(1)優越的な関係を背景とした言動とは
「優越的な関係」とは、多くの人がイメージしやすい上司・部下の関係のみならず、同僚や部下といった関係も含まれてきます。このような関係にある者からの抵抗や拒絶することができないような行為が、パワハラとして考えられる可能性があります。

【例】
・職務上の地位が上位の者による言動
・同僚又は部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
・同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの

(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動とは
業務を行う上で必要のない範囲、つまり逆をいえば業務上必要な範囲に収まる業務指導等についてはパワハラに該当しないということです。しかしこの判断は、様々な要素(当該言動の目的、当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況、職種・業態、業務の内容・性質、当該言動の様態・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、対象者の関係性等)を総合的に考慮することも必要となります。なお、労働者に問題行動があった場合であっても、人格を否定するような言動など業務上必要、かつ、相当な範囲を超えた言動がなされれば、当然職場におけるパワハラに該当します。管理職者等は、部下を指揮・管理する立場で、業務遂行や生産性向上を職責として有していることから、常に業務指導をする必要性があります。管理職に対するパワハラ防止研修により、どういった行為がパワハラに該当するのか、業務指導の回数や状況の具体例を出しつつ研修を行うこともパワハラ防止に重要となります。

(3)「労働者の就業環境が害される」とは
当該言動により、労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等の当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを言います。つまり労働者の主観に基づきパワハラが認められるのではなく、「平均的な労働者の感じ方」、すなわち、「同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうか」を基準とすることが定義づけされました。言動の頻度や継続性は考慮されますが、強い身体的又は精神的苦痛を与える態様の言動の場合には、1回であっても就業環境を害する場合があり得るとされています。

 厚生労働省は、代表的なパワハラの類型について6つの類型があり、類型ごとに典型的にパワハラに該当し又は該当しないと考えられる例を示しています。
※個別の案件の状況等により判断が異なることもあります。

(出典:厚生労働省

弊所で対応したパワハラ実例

(2)に該当した例
ある会社で、一生懸命であるが、少し行動が遅く作業がゆっくり気味の社員(A)に対して、社員(B)が不満を持っていました。社員(B)は社員(A)の先輩である社員(C)と仲が良く、色々話をしている間に、特に何の感情もない社員(A)に対して、不満を持つようになりました。ある日、社員(A)の先輩である社員(C)の気分が悪い日に、ロッカーの陰で社員(C)が(A)に対して大声をあげて厳しい叱責をしていました。「あなたなんてここの業務に必要ないのよ。ここで大きい声で、『おはようございます』『おつかれさまです』だけずっと言っていればいいのよ。」この叱責があまりに大きな声だったため、他の社員が事態に気づき、事態を事業主に報告しました。後日事情を聴くと、数回このようなことが過去にあったこともわかりました。

(3)に該当した例
ある会社において、業務上先輩たる社員(A)は、入社してまもない社員(B)からの業務上の質問や挨拶をたびたび無視する行為がありました。社員(B)から好意的に話しかけられても、社員(A)は険のある物言いをする態度がみられていました。また、社員(B)の些細な言動を社員(A)は陰で揶揄し、さらには他の社員に同意を求めるような行為をくり返し行っていました。そのような事が度重なり、社員(B)は社員(A)と同じ職場で働き続けることが心苦しくなり、部署の変更を事業主に申し出てくれたことで、状況を把握することができました。

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