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ホテルを造るの、もう止めませんか―宿屋大学 近藤寛和氏寄稿

  • 2022年5月13日

数を追う薄利多売ではなく、質を高めて厚利少売を

 ハコだけかっこいいというチープなホテルでは高く売れない。よって、安売りせざるを得ず薄利多売になり、利益率が下がっていく。悪循環です。いい加減、気付きましょう。大資本を持つ大手の宿泊特化型ホテルは別として、そのほかの多くの中小企業によるホテル・旅館は、数を追う薄利多売ではなく、質を高めて厚利少売を目指していくべきではないでしょうか。そうしないと社員の所得、満足度も上げられず、人材確保もできなくなります。

 経済優先、売上至上主義の資本主義においては、荒唐無稽な夢物語になりそうですが、「宿泊施設の開発抑制」という議論も起こってもよいのではないでしょうか。「日本にはもう十分に素敵なホテル・旅館がある。これ以上数を増やすよりも、一軒一軒の質を高めていこう」という・・・。新規に創るのではなく、リノベーションやリブラディングングで単価アップしていく。サービスレベルを高めて単価アップしていく。軒数をむやみに増やすのではなく、老朽化して魅力が低下しているホテル・旅館を建て直しする・・・、そんな方向性です。

 「SDGsの推進」と言っておきながら、環境に大きな負担がかかるホテルを次から次へと開発するという矛盾。いまのような宿泊業界の過当競争においては、開発を担うデベロッパーとゼネコンばかりが儲かって、運営企業は薄利多売で儲からないという構図になりがちです。こうしたことをクリティカルに考える必要があると思うのです。

 そうです。冒頭の強羅花扇の素晴らしいビジネス事例を見習うべきです。<数>のために<質>を落としちゃダメなのです。ホテルの数を増やすことよりも、既存のホテル・旅館の質を高めていくことを業界全体で考えたいと思います。

 もちろん、宿泊業の人材育成を担う宿屋大学は、人材確保(アトラクション&リテンション)の方向性で業界貢献していくつもりですが、一方で、働くヒトの問題やオペレーションの課題を無視して続けられる開発に警鐘を鳴らしたいと思います。

 もう、ホテルを造るの、止めませんか?

近藤寛和
1967年生まれ。ホテル業界の専門出版社であるオータパブリケイションズで記者を18年勤めた後に起業し、ホテル・旅館のマネジャーや経営者の育成を目的としたビジネススクール「宿屋大学」を運営。東京YMCA国際ホテル専門学校講師、立教大学観光学部兼任講師も務めている。