ポストコロナ、宿泊業界はどう変わるのか? 4つの大転換とは―宿屋大学 近藤寛和氏寄稿

  • 2022年2月17日

④ホテル業界におけるニュータイプの登場

 最後に、「ニュータイプのホテル業界人」を挙げたいと思います。私がこの1年で知り合ったホテル経営者、ホテルパーソンには、明らかに今までいなかったタイプの人材がいます。昨年上梓した拙著新刊『惚れるホテルを創る愛されるホテリエたち』では、その代表的な若手を5人紹介しました。

 私がこれまでお付き合いしてきたホテル業界人は、ほとんどが「おもてなしをしたくてホテルパーソンになった」方々です。しかし、ここで紹介しているニュータイプは、豊かさやライフスタイルの表現ができるといった「ホテル事業」の面白さに惹かれてホテルをプロデュースしたり、経営・運営したりしています。デジタルネイティブな彼らは、一様にクレバーで純粋で一生懸命でワーカホリックです。

 そして、注目すべきは、みなさん仕事を楽しんでいるということです。昭和の時代は、努力と根性で頑張ることで成長・成果を上げてきましたが、辛いだけの職場からはもうなにも生まれないでしょう。経営者やマネジャーがホテルの仕事を楽しむ。人生を楽しむ。それを見てスタッフが仕事を楽しいものとして行う。そんなスタッフが創る現場をお客さんも楽しく感じる。そんなお客さんが顧客になって企業に利益をもたらしてくれる。そんな循環です。

 ホテルは採用よりも定着という課題に優先的に取り組んでいただきたいということも、私は切に願います。ニュータイプがやっているホテルは、スタッフも楽しく働いています。目指すものは何かというゴール、パーパスやベクトルが共有されている職場の離職率は極めて低いのです。

 また、彼らを見ていて感じるのは、「守破離は古いのかもしれない」ということです。先人の教えやノウハウをまずはマスターしろというのが日本古来の教訓ですが、その苦労や時間をかけるよりも、<好き>を好きなだけ自由にやらせた方が成長するし、アウトプットは面白いものになるかもしれません。昭和と今が違うのは、情報に簡単にアクセスできることです。最低限の基本をインターネットで入手し、それを自分流にアレンジしていける器用さを、彼らは持ち合わせています。こうしたニュータイプのホテルビジネスパーソンが、宿泊業界の新しい潮流を創ってくれると期待しています。

増殖し続けるホテル業界において、ホテルを育てるプロを増やしたい

 ホテルは、建物とサービスオペレーションという2つで構成されます。そこには2種類のプロが必要です。

 「創るプロ」と「育てるプロ」。

 ここ数年、日本各地に新しいホテルが誕生しています。ところが、ホテルを「育てるプロ」は、残念ながら増えていません。どんなに素晴らしい建築とインテリアを装ったホテルも、そこに魂と哲学を注入し、サービススタッフをモチベートしてゲストをもてなし、そこでしかできない顧客体験価値を提供することができなければ、ホテルは単なるハコに終わります。

 オペレーショナル・アセットと呼ばれるホテルの価値を高め、収益を恒久的に上げるアセットに育てられるのは、プロのホテリエなのです。日本は、ホテルというハコの増え方に対してのホテリエ(プロフェッショナルホテルマネジャー)という“ヒト” の数が明らかに少ない。その「育てるプロ」を増やしたいと、宿屋大学では、「プロフェッショナルホテルマネジャー養成講座(PHM講座)」を10年以上続けています。11回目を4月から開講しますので、興味のある方は検索してみてください。

近藤寛和
1967年生まれ。ホテル業界の専門出版社であるオータパブリケイションズで記者を18年勤めた後に起業し、ホテル・旅館のマネジャーや経営者の育成を目的としたビジネススクール「宿屋大学」を運営。東京YMCA国際ホテル専門学校講師、立教大学観光学部兼任講師も務めている。