タテ糸とヨコ糸が織りなす芸術 京都市上京区に「西陣織国際美術館」がオープン
織物で日本の美術史を再現
京都を代表する伝統工芸の西陣織。絹糸で繊細に織り上げられた着物は多くの人を魅了してきた。ただ着物が日常から離れて久しく、コロナ禍にあって成人式など“ハレの日”の多くが中止や延期が追い打ちをかけ、織物のまち京都・西陣は衰退が著しい。最盛期に2千軒あった織物工房が今は100軒ほどに激減している。
そんななか10月1日、京都市上京区に「西陣織国際美術館」がオープンした。展示しているのは、通常の5分の1という細い絹糸で織り上げた仏像を再現した美術織物。西陣織でつくった源氏物語の絵巻や日本画などもあり、日本の美術史を約200坪の館内で表現している。
開館に至った経緯を「西陣織職人を守り、その技を後世に伝え、世界に発信したい」と話すのは館長の蔦田文男さん。西陣織の繊細さに魅せられ20年ほど前から、西陣織の新たな可能性を美術作品の再現に見い出し取り組んできた。
最初に職人と手がけた作品は聖林寺(奈良県桜井市)の国宝・十一面観音像。「白洲正子さんが愛した観音様で、ほぼ等身大の2・8センチに織り上げました。お寺に奉納し東京の国立博物館で観音像が特別展示されている間は身代わりも務めさせていただきました」。そう言って蔦田さんが見せてくれた織物の観音像の写真は立体感が際立ち、リアルに観音様がお立ちになっているかのよう。
「写真から忠実に織り上げます。タテ糸は黒一色で2700本、ヨコ糸は15色を使って1万本です。作品をルーペで見ていただくと分かるのですが、タテ糸とヨコ糸が織りなす点描のようなものです。これを職人が織機を使って、細かな陰影なども忠実に再現していきます」
館内には今、多くの国宝級の仏像をはじめ、有名な風神雷神画や源氏物語絵巻全19点、葛飾北斎の富嶽などの浮世絵、平山郁夫のシルクロード画など約200点を展示する。「日本の美術史が西陣織によって展示されています」と蔦田さん。そう、徳島県鳴門市の大塚美術館が陶板で世界の美術作品を展示しているが、その西陣織版を想像すればいい。
西陣織国際美術館は、西陣の七本松通中立売上ルのとみや織物ビル6階。開館は10︱16時で、月曜休み。入館料は500円。18歳以下は無料で、12月末までは開館記念として300円で入館できる。
蔦田さんは、職人の技を継承するためにもう一つ、西陣織のペット用着物をつくり犬の七五三詣でなども企画している。その取り組みは、またの機会に…。
情報提供:トラベルニュース社