【会計士の視点】コロナ禍でも旅行事業で増収増益、カギは「GoTo」と「アプリ」-アドベンチャー編
非常に様々な経営上の工夫が功を奏す
「GoTo」に合わせツアー造成、テレビCMからアプリ戦略へ
今回はコロナ禍の中でも増収・増益を達成し、「skyticket」などを運営するアドベンチャー社について、「何故コロナ禍の中でもそんなにうまくいったのか?」というのを分析したいと思います。
これまでは「コロナ禍で大赤字を出した会社の分析」だったので貸借対照表(資産・負債の状況)やキャッシュ・フロー計算書(資金の動き)も分析し、「どのくらいダメージを受けたのか」「実際倒産しないか?」という点も見ていたのですが、今回は普通に利益も出ている会社で、「何故うまくいったのか?」というのがテーマなので、損益計算書を中心に見ていきたいと思います。
また、以前から「ビジネスモデルを理解する上で、セグメント情報を見ましょう」ということを言っていたのですが、実はアドベンチャー社については、そこを見てもいまいちよく分からなかったので、分からない時にどうやって「会社の儲け方」を分析するのかについて、より深い調べ方も説明していくので、是非最後までご覧いただければと思います。
なお、恒例の注意事項ですが、筆者はアドベンチャー社との間に特別な関係はなく、内部情報は一切知りませんが、「外部情報からでもこのくらいのことは分かる」ということを解説させて頂きます。また、当記事はあくまで筆者の私見であり、筆者の所属する団体や、掲載媒体であるトラベルビジョンの見解ではなく、また特定の銘柄への投資の推奨等を目的としたものでもないので、その点はご了承頂ければと思います。
2021年6月期に増収増益
アドベンチャー社の決算を見ると、まず収益が前期357億円から当期362億円と増収しており、税引前当期純利益は13億円から9億円と減少しているものの、親会社の所有者に帰属する当期利益(一昔前で言う「当期純利益」。ややこしい名前してますが、最終損益のことと思ってもらえると大丈夫です)だと7204万円から8億5042万円というように、増収増益を達成しています。
増益については、前期には子会社ののれんの減損損失5億8000万円(株式会社wundou及び株式会社ギャラリーレアにかかるのれん。減損は大体の場合一回で終わりの臨時的な損失)があったこと等が原因であり、実際に税引前当期純利益で見ると若干減少しているので、おそらく会社としてそれほど喜んでいるようなことではないと思いますが、とはいえこのコロナ禍でどこも「大幅収益減・大赤字」となっている中で、利益を確保できたこと自体が十分に凄いと思います。
では、何故そんな利益を出せたのかということを調べようと、まず普段通りビジネスの理解から始めようとセグメント情報を見たところ、同社のセグメントは「コンシューマ事業」「投資事業」の2つに分かれていて、前期、当期ともに収益も利益もほとんどが「コンシューマ事業」によるものだと分かります。
なるほど!確かにコンシューマ事業なら利益が出るな!納得である!
・・・・・となるはずはなく、ほとんどの人が「コンシューマ事業って何だ?」となると思います(笑)
そこでいつも通り「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」を見ると、以下のような文章がありました。
(コンシューマ事業)
コンシューマ事業につきましては、新型コロナウイルス感染症の感染拡大、及びそれによる政府の緊急事態宣言の発出により、国内の移動自粛や海外への渡航制限、商業施設の休業や映画、美術館、コンサートなどの興行の中止などが当社グループの業績にマイナスに働き、セグメント収益は前連結会計年度比で微増となったものの、セグメント利益につきましては前連結会計年度比で減少となりました。
その結果、当セグメントの収益は36,318,814千円(前年同期比2.0%増)、セグメント利益は1,062,678千円(前年同期比12.1%減)となりました。
(投資事業)
投資事業につきましては、成長企業等への投資を引き続き実施しておりますが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受けて、株式市場全体の株価が下落し、保有している営業投資有価証券の株価の下落が生じた結果、当セグメントの収益及び利益は△79,360千円(前年同期のセグメントの収益及び利益は、175,948千円及び166,120千円)となりました。
コンシューマ事業はコロナ禍や緊急事態宣言の影響を受けたものの、セグメント収益は微増、セグメント利益は減少となったことが分かりました。
・・・・やっぱり何も分からないですね(笑)
ここで「アドベンチャー社の決算を読んでみましたが、なぜ収益が微増、利益も確保できたのか分かりませんでした。でもコロナ禍でも収益が増えて、利益も出るのは凄いですね」で終わるとさすがにプロとして恥ずかしいので、もう少し色々と粘りながら調べていくことにします。
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