【会計士の視点】コロナ禍でも旅行事業で増収増益、カギは「GoTo」と「アプリ」-アドベンチャー編
非常に様々な経営上の工夫が功を奏す
「GoTo」に合わせツアー造成、テレビCMからアプリ戦略へ
コロナ禍でも黒字を確保できた要因
また決算説明資料を読んでいき、次に注目すべきはP15の単体コンシューマ事業内訳のところで、ここには「アドベンチャー社単体の、コンシューマ事業の内訳」という、まさにドンピシャで見たかったものが載っていました。
これを見ると、
- 航空券は国内半減、海外はマイナスに転じるというように、大幅減
- ホテル、レンタカーは減少しているとは言え、航空券に比べるとまだマシ
- 当期に新しく「ツアー」というものができて、これが17億円稼いだおかげで70億円の収益を確保しており、もしこれがなければ前期95億円→当期53億円と前期▲45%とほぼ半減状態になっていた
ということが分かります。
これまで分析してきた航空会社やJTBは3月決算で、航空券需要がおそらく一番低かったであろう2020年4-6月の数字(コロナがまだどのようなものか、そこまで分かってない中で世界的に拡大し、緊急事態宣言が初めて出たあたり)が2021年度に入り、2020年度は最後の2-3月くらいの影響しかなかったのに対し、アドベンチャー社は6月決算なので、2020年度の決算に2-6月の数字が入り、2021年度の決算には2020年7月以降のものが含まれている点で、減少幅等は若干違いますが、ただ傾向として「国際線壊滅、国内線も大幅減少」という点は変わらないかなと思います。
また、コロナ禍の中で「近場への少人数の旅行」をする人が増えた影響もあり、ホテルやレンタカーについては、減少したものの航空券程のインパクトはないということも分かります。
そして最後に、2021年に新しく出たツアーですが、これはP18を見ると、2020年9-12月に集中して発生していることが分かります。
これについては、7月22日から開始し、10月から地域共通クーポンも発行されるようになったGoToトラベルキャンペーンの影響が非常に大きいのではないかと考えられ、実際GoToトラベルキャンペーンが中断された2021年以降はほとんど発生していないことも分かります。
GoToトラベルキャンペーンは交通費は単独では対象とならないものの、ツアーとして交通と宿泊がまとめられると対象となるというものであったので、そこに合わせてツアー事業を開始し、実際に大きく収益を出せたのではないかと推測されます。
収益サイドは分かったので、次に費用サイドを見ていくと、決算短信・決算説明書だけを見ることができる時点ではまだ単体損益計算書を見ることができないので、そのまま決算説明書で分析していくと、P20では人員推移、P21では広告宣伝費について記載がありました。
人員推移については、連結で348名から337名と微減ではありますが、そこまで大きく人は減っておらず、コメントでも「子会社売却により一時減少したが、新入社員採用により増加し大きな変動なし」となっています。
一方、広告宣伝費については、2020年6月期の58億円から、2021年6月期には26億円と大幅削減に成功しており、営業利益/広告比率も、61%から47%と大幅に減っていて、これについては「アプリをダウンロード」→「リピート率の増加」→「広告宣伝費率の低下」→「利益の拡大」とコメントされています。
広告宣伝費については、時系列的に決算説明資料での代表的なコメントを拾っていくと、
・2019年12月時点(2020年6月期第2四半期)の決算説明資料では、発表時の2020年3月13日時点では既に新型コロナも発生していた影響か、「同業他社はCM、オーガニック、リスティング広告へ投資を行っているが、 当社は、YouTube、facebook、Instagram、LINE、Twitter等のアプリ広告を中心に集中して投資を行う方針」「アプリ比率向上により広告費率が減少し、利益が拡大していくフェーズになる」とある
・2020年3月時点(2020年6月期第3四半期)では「CM広告廃止し、当面の間リスティング広告、アプリ広告、その他広告も全て大幅削減」
・2020年12月時点(2021年第2四半期)では「アプリ比率の向上による広告宣伝費の効率化」「アプリDL数増加に伴いアプリ経由での申込比率が増加傾向」「広告効率化、アプリシフト等により広告比率が減少」
というように、コロナ禍の中で、テレビCM等による拡大から、アプリに移行させることで、利益を確保していく戦略にシフトしていき、その戦略が実際にうまく機能していることが分かります。
会計士の視点
- 増収については、旅行業というよりは金券・商品券・ギフトカードによる部分が大きい
- 旅行業については、GoToトラベルに合わせて新規でツアーを取り扱うようにしたことで、大幅減少を避けることに成功
- 増益については前期にのれんの減損があったことが大きいが、ただしこのコロナ禍の中で利益を確保できたのは旅行業部分できちんと稼げたからである
- 旅行業で稼げた大きな要因は、上記のツアー事業の成功と、コロナ禍の中での広告宣伝費の削減(テレビCM等からアプリへのシフト)に成功したことによる
<過去の記事はこちら>
【会計士の視点】コロナ禍の決算書を読み解く-JTB編
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東京大学経済学部卒業後、大手監査法人、コンサルティング会社を経て、現在は玉置公認会計士事務所に所属。監査業務の他、非上場会社の株価算定やデューデリジェンス、企業へのコンサルティング、決算支援、再生支援等をおこなう。