複眼で見たホテルビジネスの今ーいちご地所 代表取締役社長 細野康英氏

コロナ禍でもホテルへの投資意欲は鈍らず
ホスピタリティ・アセットマネージャー協会会長として観光産業に向けセミナーも

-ホテルのオーナーとして、客室平均単価を一定以下にしないように、といった指示は出すのですか。

細野 それは言いません。一部のオペレーターさんには当社のレベニューマネジメントシステムを使っていただいているケースはありますが、料金設定などは基本的にオペレーターさんにお任せしています。また「ホテルでは必ずディナーも出してくれ」といったリクエストもしません。状況次第で朝食だけでも構わないし、それは各ホテルにおける判断を優先していただきます。ただしホテルのビジネスが厳しい現状がありますので、どうしていくかを考えていくため毎月定例会議を開き、一緒になって対策を考える場を設けています。

 大手オペレーターさんの場合、ホテルのオペレーション現場より本部のやり方を優先する場合がありますが、そうした場合にはオーナーとして現場の意見を聞いたうえで本部と我々が交渉することもあります。通常の状況なら本部主導でかまわないのですが、コロナ禍のような状況下では、むしろ現場の方が状況を正しく把握している面もあるので、そう判断した場合は我々も助言します。その結果、現場の意見が採用されて上手くいった事例も少なくありません。

-固定賃料の値下げを求めるオペレーターはいますか。

細野 昨年はそうした交渉がありましたが、今年はほぼ皆さんと合意できています。

-今後の需要回復について、2019年比で元に戻るのはいつ頃だと想定していますか。

細野 ワクチン接種が完了して感染拡大が第5波までで終われば、旅行需要はそれなりに戻ると見ています。来年は国内需要だけ見れば2019年を上回るのではないでしょうか。2年間も旅行をできなかったマグマが溜まっているのですから。ただしインバウンドに関しては各国の国境政策にもよりますし、いつ戻って来るかを予想するのは困難です。たとえばシンガポールでは感染者数が再拡大しているものの発症する人は少なく、日常生活に支障がない状態、つまり普通の風邪のような存在になったという見方があるようです。そうした状況になっていけばインバウンドの回復もかなり期待できそうです。

-ホテルビジネスについてはこれまでも数年に一度は需要が激減する出来事があり、今回はコロナ禍で極めて大きな打撃を被っています。それでもホテルへの投資意欲は高いですか。

細野 強い投資意欲を持っています。こういう時にしか投資できない機会もあります。ホテルの形態やグレードを限定しているわけではなく全般的にホテルへの投資機会を逃さないようにと考えています。また積極的にオペレーションを増やそうという意図はないものの、オペレーターさんが撤退して結果的に直営ホテルが増えている面があるので、我々が持っているアセットやオペレーションのプラットフォームを活かしてビジネス展開を強化していきます。

-力を入れていきたい地域はありますか。

細野 我々のオペレーション会社は「博多ホテルズ」です。その名称通り博多のホテルが多く、九州および西日本を中心にホテル展開してきました。その意味で九州は好きなエリアと言えるかもしれません。ただし現在は大阪や東京にもホテルがあります。リゾートホテルに関してはリスクもあるので、これまで手掛けてきませんでしたが、コロナ禍の状況を見るとリゾートホテルの方が健闘しています。将来的にはリゾートホテルも手掛けていきたいと思います。

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