旅の力で青少年の成長を支援する施設にー京都市宇多野ユースホステル 佐藤隆芳氏
教育旅行向けにさまざまな体験を提供
コロナ禍で家族利用も増加
京都市の北西部、平安時代の風景が今も色濃く残る北嵯峨エリアにある「京都市宇多野ユースホステル」。ドミトリーから個室までを用意し、さまざまな地元体験プログラムを提供し、若者を中心に人気を集めている。金閣寺、龍安寺、嵐山など京都を代表する観光名所も近いが、所長の佐藤隆芳氏は「ユースホステルは、旅のなかでの学びや経験を通して若者の成長を支援するところ」と話す。宿泊施設ながら意外と知られていないユースホステル。その本来の役割や目指す姿を聞いた。(聞き手:弊社代表取締役社長兼トラベルビジョン発行人 岡田直樹)
佐藤隆芳氏(以下敬称略) 宇多野ユースホステルは、京都市の公営ユースホステルとして1959年に開所し、2008年には全面リニューアルを行いました。現在は(一財)京都ユースホステル協会が指定管理者として運営にあたっています。リニューアル以前は2段ベッド4つで8人が泊まれる大部屋がほとんどでした。それが2、3、4人部屋などニーズに合わせて泊まれる施設になったことで使い勝手がよくなり利用も増えました。
また施設が新しくなったことと併せて、泊まり合わせた人同士やスタッフ、地域のボランティアなど、いろいろな人との出会いや交流が思い出となり、高評価につながっているのかと思っています。
佐藤 周辺は歴史的風土特別保存地区にもなっており、1000年以上前の自然の風景が色濃く残っています。そんな自然環境と共に京都の文化や歴史をゆっくりとじっくりと楽しみたいという旅人には魅力的なロケーションだと考えます。世界遺産の仁和寺も歩いて15分ほどです。市内各所へのアクセスも問題ありません。
佐藤 京都とは縁もゆかりもない東京の出身です。20代半ばまでは広告デザイナーをしていました。それまでは海外どころか旅行にもあまり興味はありませんでしたが、ある機会に単身海外に行ったときに、自分の世界が広がったのを感じました。もっといろいろなことを知りたいという思いが募り、仕事を辞め、ワーホリでオーストラリアに1年、その後東南アジアや国内を旅しました。よくある話かもしれませんが、その道中、自分がいかに日本のことを知らないかにも気付かされました。
旅の途中で多くの人にお世話になりましたが、そのときはお返しが何もできなかったので、帰国後、今度は旅人に恩返しをしたいという思いと、日本の文化もきちんと知りたいという思いから、短絡的に日本の文化の中心である京都に来ました。そこで1998年から半年ほど宇多野ユースホステルでボランティア活動に参加、その後一旦離れましたが、1999年に職員として戻ってきました。
佐藤 当時安価で泊まれる宿は京都市内では限られており、大学生を中心とした若者が個人旅行で利用するケースが多かったです。もちろんボーイ・ガールスカウトなどの青少年団体の利用も多くありました。外国人の割合は3割から4割。その比率は今もあまり変わっていません。
その後、ここ10年ほどで京都市内に同価格帯のゲストハウスが多く開業し、そこに国内外の個人旅行者が流れたという側面はあります。しかし宇多野ユースホステルもリニューアル後、170名ある定員と併せて大型バスの乗り入れができるようになったことから、団体の誘致も積極的に行うようになりました。
団体は修学旅行も含めた教育旅行やスポーツ団体、各種NPOや大学のゼミ合宿など幅広いです。特に教育旅行は国内では小中学校や特別支援学校、海外からも日本語を学ぶ学生や姉妹校が日本にある学校団体などにご利用いただいています。地元学校への訪問や生徒同士の交流プログラムのアレンジ等もしています。
また、コロナ禍では家族の利用も増えています。人数に応じて1室を家族で使え、価格もリーズナブル。駐車場も無料で、談話コーナーや中庭などオープンスペースが多く、小さな子がいてもゆっくり過ごせるなど、メリットは多いと思います。
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