【現地レポート:イギリス】2021年イギリスの夏を振り返って
地方とロンドン、明暗の分かれた国内旅行
王室所有の歴史的建造物を管理するHRPにインタビュー
この度フォトニュースで取り上げているケンジントン宮殿をはじめ、世界遺産のロンドン塔、バンケティングホール、キュー・パレス、ハンプトンコート宮殿、そして北アイルランドにあるヒルズバラ城と、王室所有の6つの歴史的建造物を管理する非営利団体、ヒストリック・ロイヤル・パレス(HRP)の営業統括責任者であるアン・ウィルソン氏。私も長年、旅行会社勤務時代からのお世話になっている方にお話しを伺う機会がありましたので、その内容の一部を皆さんにもご紹介したいと思います。
アン・ウィルソン氏(以降アン) 19年から20年シーズンは全6ヶ所トータルで470万人ものビジターをお迎えしました。しかし20年から21年は33万5000人に激減、今年はまだ流動的ですが今のところ130万人が目標です。但し、昨年はロックダウンで実質営業期間はほぼ6ヶ月間のみ、かつハンプトンコートとヒルズバラは庭園のみのオープンという特殊な状況でしたが。
アン 残念ながら現在は全体でコロナ以前より40%少ないスタッフとなりました。
アン 事前予約制は今も継続中です。ケンジントン宮殿は30分毎のスロットで毎回最大130名まで、ロンドン塔はこの下期現在、1日に3回、10時、12時、14時のみの入場となり、各スロットで最大465名までとなっています。(筆者注:冬季でも冬休みなど学校が休みのピーク時は1時間ごとの入場予約が可能)
アン 新規予約は多少あるものの、まだ以前のレベルには程遠い状況で、元に戻るには相当な時間がかかることを覚悟しています。ただ、団体は1グループ30名という上限はなくなりました。契約のある旅行会社はFIT、団体ともB2Bポータルサイトで、また契約の有無にかかわらずB2CサイトでもFITおよび15名以上の団体の予約が可能になりました。
アン 基本的には各宮殿内に今もハンドジェルの消毒液を設置し、各部屋の大きさに応じて見学者数が増え過ぎないよう注意を払っています。また、スタッフや来場者には現在もマスク着用や、英国保健省の追跡アプリのスキャンをお願いしていますが、法律ではないのであくまでも各自の判断にお任せしています。
アン HRPは元々非営利のチャリティー団体で、通常はギフトエイドという納税者の入場料還付金を除けば、政府からの補助金はなく、収入は入場料やショップ、ケータリング、イベントからの収益が中心です。その他スポンサーの支援、寄付、メンバーシップ会費、あとはボランティアのサポートで運営しています。ただ、私たちの事業の柱はあくまでも、この大切な文化遺産の保護と維持、未来の世代に残す使命であることから、今回に限っては建物の安全性を保つ最低限の修繕費用と融資は確保できましたが、経済的にはまだ大変厳しい状況です。このパンデミックにより、改めて海外からの来場者の重要性を再認識したのと同時に、世界中にワクチンが行き渡り、安全な海外旅行が復活するまで、事業が存続するたに、ビジネスの形態と収入源の確保を考え続けなくてはなりません。
アン 日本は欧州、北米と共に世界で最も重要な市場の1つであり、長年日本のオペレーター各社を通じて学生、一般旅行者からVIPまであらゆるお客様をお迎えして参りました。このパートナーシップを大切にし、まだ実際にはもう少し時間がかかるかもしれませんが、また日本の皆さんにお目にかかること心から楽しみにしています。
【取材協力】
Historic Royal Palaces(ヒストリック・ロイヤル・パレス)
Visit Britain (英国政府観光庁)
1989年渡英後ロンドンで長年旅行会社に勤務。2015年からはフリーで訪日やインバウンドの通訳コーディネーターとして活動しつつ、現在はロンドン公認ガイド資格に挑戦中の傍ら、地域のボランティアとして、野菜や庭作りも楽しんでいます。