【弁護士に聞く】ワクチン接種を参加条件にしたツアー募集は許されるか
菅総理によれば、「ワクチン接種回数1日100万回」も超えてきたというし、高齢者接種は予定どおり7月末にはほぼ終わりそうだ。となると当然、質問にあるように「ワクチン接種者限定ツアー」は、今流行りの「PCR検査付きツアー」よりも参加者の安心感は遥かに増すだろうから集客の強力なインセンティブになるかも知れない。
平等原則は他者の「自由」の制約原理
問題は、ワクチン未接種者(接種できない健康上の理由のある者と副反応を恐れて接種しない者等、理由は別にして未だ接種していない者)は参加できないことから、ワクチン未接種者への差別という非難を受けないかだ。日本国憲法第14条1項は「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と謳っている。
誤解のないよう急いでつけ加えると、一部野党の「憲法は国家の権力を縛るためのもの」という主張は、珍しくも正論である。近代憲法における「自由」とは「国家権力からの解放」と定義されているくらいだ。ただし、ここで、ややっこしいのは、平等原理のみは、自由の基盤となる基本的な原理であることから、民・民の間にも適用されると解されているため、民・民の取引でも平等原理の禁止する差別に当たらないように、注意する必要がある。
ところで、平等原理は自由の基盤(貧しい者には自由は絵に描いた餅になる)ではあるものの、それを貫徹すると常に他者の自由を制約することになる。仮に「ワクチン接種者限定ツアー」が平等原理の禁止する差別に当たり許されないとすれば、旅行会社の営業の自由(日本国憲法第22条1項で保障されている。民事的には契約自由の原則)はそれだけ制約されるという訳だ。そこで最高裁判所は、日本国憲法第14条1項につき、「国民に対し絶対的な平等を保障したものではなく、差別すべき合理的理由なくして差別することを禁止している趣旨と解すべきであるから、事柄の性質に即応して合理的と認められる差別的取扱をすることは、なんら右各法条を否定するところではない」として、その射程範囲を限定した。これまで「平等原理の禁止する差別」と表現してきた所以である。
ツアー参加者をワクチン接種者に限定することの合理的理由の説明は、現時の新型コロナウィルスの感染状況と医療体制の逼迫度からすれば、それほど難しくないだろう。新型コロナに感染すれば14日間の自主隔離を余儀なくされること、発症した場合の決定的な治療薬のないこと、高齢者や基礎疾患のある者は重症化する危険が高いこと、地域によっては医療体制が逼迫していて感染したときに適切な医療を受けられない恐れのあること、ワクチン接種者も感染の可能性はあるがその可能性は極めて低いこと、ワクチン接種は希望すれば順次受けられる態勢になっていること等からすれば、より感染のリスクの低いワクチン接種者のみのツアーを作ることは人々の希望を叶えるものであり、公衆衛生の観点からも合理的理由があると言えるだろう。
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