【弁護士に聞く】テレワーク通達の意義とその内容
「5月12日に観光庁が発出した、いわゆるテレワーク通達の意義とその内容をかいつまんで教えて下さい。」
観光庁による旅行業法の解釈運用は、同法施行要領という通達で詳細が明らかにされている。しかし、テレワークは、従前からあったものの、一般的にはコロナ禍への対応として急激に浮上した新しい働き方なので、施行要領にはテレワークを前提とした説明はなく、旅行業法上どこまで適法なのかが明確ではなかった(というより、事実上できないと解される余地があった)。
今回の通達は、旅行業法上もテレワーク(ICTを活用しての在宅勤務、モバイルワーク、サテライトオフィスでの勤務等)は適法にできるものであり、その限界も明確に示されたことにより、旅行業者及び旅行業者代理業者(旅行業者等)も積極的にテレワークを導入することができ、かつ新しい態様の旅行業等の出来も期待される。なお、施行要領の定めと今回の通達との整合性が問題となる場面もありうるが、とりあえずテレワークに関しては、今回の通達が基準になると理解して良いだろう(一般法と特別法の関係と同様である)。
営業所登録を要しない在宅勤務
通達は、旅行業者等の従業員が、「旅行者との取引」、専ら「企画旅行に関する計画の作成」、「企画旅行の広告の作成」又は「法第12条の10による企画旅行の円滑な実施のための措置」等の各業務の一部に限り取り扱うことは、自宅等営業所以外の場所であっても、営業所登録しないで差し支えないとしている。自宅につき営業所登録を要しないことが明確になったことで、従業員は旅行業務取扱管理者の資格が不要となり、テレワークの大きな壁が取り除かれたことになる。
問題は「一部」とは、「各業務」にあげられた個々の業務のことを指すのか、個々の業務の一部を指すのかは、必ずしも明確ではない。しかし、通達は、同時に「旅行者との取引」については、営業所外での取引なので、外務員証の携行を求めていることからすれば、旅行契約の申込を受付け、申込金の一部又は全部を受領する行為までは一部と解される余地があるし、個々の業務の一部に限ることは、実務的に非効率になり意味がなく、法的にも根拠はないことから、一部とは個々の業務を指すものと解したい。
もちろん、自宅等営業所外での旅行業務は、営業所での旅行業務の例外であるから、特に旅行者との取引については常態化してはならないと、通達は釘を刺している。
旅行業務取扱管理者の遠隔管理・監督
通達は、旅行業務取扱管理者の「旅行業法施行規則第10条で定める事項についての管理及び監督に関する事務をテレワークにより行う場合には、以下の措置を講じること」として、テレワークによる遠隔管理・監督も認めている(通達は規制改革推進会議からの「資格保有者の営業所等への必置義務を緩和するよう見直すべきである」との指摘に基づき発せられたもので、こちらが本命である)。
通達が要求する講ずべき措置とは、次の3点である。
(1) 少なくとも営業所の営業時間内に、旅行業務取扱管理者とそれ以外の従業員が常時連絡をとることができる体制を構築すること。
(2) 営業所に不在の場合でも、旅行業務取扱管理者が営業所における旅行業務に関する管理及び監督を適切に実施することができるよう、営業所における旅行業務の実施状況を確認するために必要な環境を整えるとともに、必要があれば直ちに営業所に出勤できるようにすること。
(3) 旅行者からの依頼があれば、速やかに旅行業務取扱管理者から説明を行うこと。
いずれも、どのような体制にするかは旅行業者等の工夫に委ねられているが、肝心なのは、そうした工夫の「足跡」をたどれるようにしておくことだ。そうでなければ、観光庁の立入調査等に対応できないからだ。一番、簡単なのは、旅行業務取扱管理者が自身の業務日誌に年月日時刻ごとに管理・監督した事項を記載し、それに対応する通信ログを保存しておくことである。そうすれば、上記3点の体制を証明することは容易であるし、フィードバックによる業務の改善にも資するだろう。
旅行サービス手配業も同様の扱い
通達は、旅行業等を主として記述されているが、旅行サービス手配業にも同様の扱いがされるとしている。
旅行サービス手配業は、旅行業者等と旅行サービス提供事業者との間をとりもつ業態で、旅行者とは直接には接しないことから、旅行業等以上にICTの業務への活用は進んでいると思われる。その意味で、より一層のテレワーク化が進むことが期待される。
75年司法試験合格。76年明治大学法学部卒業。78年東京弁護士会に弁護士登録。91年に社団法人日本旅行業協会(JATA)「90年代の旅行業法制を考える会」、92年に運輸省「旅行業務適正化対策研究会」、93年に運輸省「旅行業問題研究会」、02年に国土交通省「旅行業法等検討懇談会」の各委員を歴任。15年2月観光庁「OTAガイドライン策定検討委員会」委員、同年11月国土交通省・厚生労働省「「民泊サービス」のあり方に関する検討会」委員、16年1月国土交通省「軽井沢バス事故対策検討委員会」委員、同年10月観光庁「新たな時代の旅行業法制に関する検討会」委員、17年6月新宿区民泊問題対策検討会議副議長、世田谷区民泊検討委員会委員長に各就任。