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【コラム】ホテルは社会資本となれるか

アカデミアからの提言

ご寄贈いただいた報告書

 京都大学の高山佳奈子教授から「ホテル利用学」と銘打った報告書をご寄贈頂きました。これは、高山教授が研究代表者を務める「京都大学ホテル利用学研究会」が今年3月に発行したものです。今回は報告書の中の「ホテル利用と人権保護の諸側面(第6章/高山教授著)」の内容からご紹介します。

 これまでホテル利用の主体の中心は観光旅行者・出張者と供給側のホテル・観光事業者であったが、感染症対策に伴い、これまでとは違う利用形態が発生或いは発生の可能性が有ると言う事実と想定を前提に、試論が展開されています。報告書の中には、それらの新たな利用形態を実現するために必要な行政の支援や法整備に触れられていますが、ここでは新たな利用形態にフォーカスをあてて、その一部をご紹介します。

1.生活コストを抑えるための「ホテル暮らし」

 感染症対策により景気が悪化しても、住居の家賃等は容易に低下しない「下方硬直性」を有するに対して、ホテルの利用料は需要の減退に即応する形で低下している。よって、マンションやアパート等賃貸住宅に住み続けるよりも、格安のマンスリーホテルを利用したほうが住居費が安くなるケースも有り、生活コストを抑えることを目的とした「ホテル暮らし」ニーズが発生。
※経済活動の制限が強化・延長されれば、困窮の度合いは進み、一定期間行政的支援等による無償提供等も必要となる可能性も有り

2.エッセンシャルワーカーの感染対策

 高齢者や基礎疾患等の事情がある同居家族がいるエッセンシャルワーカーが、自宅に帰らずに(出来る限り公共交通機関も使わずに)出勤出来る環境を実現するためのホテル利用。

3.待機場所としての利用

 無症状や軽症のウイルス陽性者や濃厚接触者の待機場所としての利用は既に一部実現されていますが、DVシェルターとしての利用の可能性にも触れられています。コロナにより在宅時間・ストレス共に増加し、家庭内暴力が増えていると言う報告も国内外で有り、DV被害者向けのシェルター収容人数増大にホテルの活用が考えられる(厳格な情報管理等実現にはハードルは有る)。

 コロナ禍中はもとより、ポストコロナにおいても従来型需要がどこまで戻るのか誰にも想像出来ない以上、新たなニーズ、それも社会的に必要とされるものは何なのか、アカデミアはじめ産業外からのお知恵も拝借しつつ、自らも知恵を絞り、とにかくトライしていく、これが今我々観光産業には求められているのだと思います。

岡田直樹
㈱エフネス代表取締役社長兼トラベルビジョン発行人。27歳でエフネスの前身㈱ルゥエストを創業し、31周年にあたる今年に至る。旅行素材のホールセール、観光関連企業への決済サービス提供、緊急対応代行、業界誌トラベルビジョン運営等々、主に観光産業内のB2B事業に携わる。
㈱ティ・エス・ディ代表取締役、一般社団法人インバウンドデジタルマーケティング協議会理事