「儲かるビジネス遺伝子を持っている」観光的なモノづくりの実現目指す-鶴田ホテル 経営企画室長 鶴田宏和氏
ウェルビーイング・ビジネスの強化も視野に
ポストコロナは超のつく遊び人に観光のプレーヤーとして参加してほしい
鶴田 鶴田家はもともと明治期に県南から別府へやってきた移住組。最初は漁業に携わり網元になって得た資金で、別府にやって来る行商たちのために船を宿として提供し、漁業と兼業の宿泊事業者になりました。その後、1918年に鶴田旅館を創業し現在に至ります。言いたいのは、もともと鶴田はトレンドに合わせて生業を変え、儲かる分野を追求してきたビジネス遺伝子を持っているわけです。ですから将来にわたってずっと宿泊業だけにこだわる必要はない。あるのは代々受け継いできたこの土地を活かしたビジネスをおこなうことと鶴田の看板をつないでいく責任です。
しかし1社の中小企業として宿泊業に特化して成長のため常に投資し続けていくにはビジネススケールが足りない。投資とリターンについて真剣に試算し、宿泊事業とその他の事業のバランスを見極めていく必要があります。
たとえば建物をリノベーションしてウェルビーイング・ビジネスを強化することを考えています。日本ではまだまだですが、欧米ではウェルビーイング・ビジネスは市場性が認められ投資も活発な分野です。自分の体を資本と考え、健康であることの価値を知る人が顧客となります。温泉地との相性もいい。
コロナ禍中ににわかに湧き上がってきたワーケーションやブレジャーにしても、ウェルビーイングを組み合わせた方がよほどいい。仕事をする場所だけ変えて少しばかり観光して、それがワーケーションだとしたら何が魅力か分かりません。それなら別府温泉へ来て、仕事もしてより良い暮らしの体験をして、お土産としてより健康になった自分を持ち帰れた方がよほど価値ある滞在になるはずです。
別府内で競争環境が激化する宿泊を中心としたビジネスからいかに抜け出し、ホテルの建物や敷地をウェルビーイングなホスピタリティサービスや製造小売の場、また体験施設、オフィスなどとして自社活用したりリーシングしていく形で他社と協業しながら資産価値を最大化させていくことが重要だと考えています。
鶴田 コロナ禍で唯一良かったのは、これまで慣性で続いてきた流れがクラッシュし、観光産業のジェネレーション交代のきかっけとなる可能性が出てきたことです。外資の参入からは刺激も受けますし、民泊事業の分野では若い世代の人材が新しい価値観で活躍するようになってきましたが、観光産業全体ではまだまだ変化が足りない。
たとえば土産物分野では、土産物の作り手も売り手もプレーヤーが変わっておらず、昔から同じものを作り同じものを同じように売っている。あれだけインバウンドが来ていた時にも新しい売り物を作ってこなかった。だから、売りものを考え販売も手掛けてみたいと感じています。そこで手始めにウェルビーイングにもつながり、私自身がほしいと感じていた”モノ”を売ることにしました。それがこれまでにない斬新なデザインの極上な肌触りの浴衣です。
それなりの高級ホテルでも浴衣はなぜかガサガサ。朝起きると前がはだけてしまい身体は冷えてしまう。なぜ感触が良く日常でも着たくなる浴衣がないのか疑問でした。だからそれを気鋭の服飾デザイナーと協業し共同開発して宿のアメニティとして提供、気に入ったら購入して土産として持ち帰ってもらう。あるいは宿泊客が地元に戻ってからウェブから購入してもらったりギフトとして使ってもらってもいい。宿泊業を衣食住ライフスタイルのプロモーションメディアとして捉えたビジネスチャンスも取り込んでいきたいと考えています。
最近は若い世代を中心にモノづくりをしなくなっています。だから僕は逆にサブカルチャーとしての観光モノづくりを提起したい。1990年代の裏原宿で、若者たちがそれまでのDCブランドとは異なる価値観に基づき、自分たちが着たい服を自分たちで作って売って、一時代を成した裏原宿ムーブメントが参考になります。それを観光の枠組みの中で、観光的なモノづくりとして実現できないか。ポストコロナの取り組みとして、そんなことを考えています。
それと、遊びを知る人に観光を委ねられるようにしていきたい。本当の遊びを体験していない人がウェブ上の情報だけで作った観光商品に誰が魅力を感じるでしょうか。観光にはもっともっと遊びが必要です。快適で楽しさを追求するのが観光であってほしい。最近では観光がなぜか学びになっていませんか。超のつく遊び人に観光のプレーヤーとして参加してもらいたい。そうなれば別府の観光も、日本の観光も変わってくるのではないでしょうか。