海外医療通信2021年1月号【東京医科大学病院 渡航者医療センター】

  • 2021年1月25日

※当コンテンツは、東京医科大学病院・渡航者医療センターが発行するメールマガジン「海外医療通信」を一部転載しているものです

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東京医科大学病院・渡航者医療センター

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(1)全世界:新型コロナウイルスの流行状況

新型コロナウイルスの累積感染者数は1月下旬までに約9800万人、死亡者数は約210万人にのぼっています(米国ジョンホプキンス大学 2021-1-24)。1か月前に比べて感染者は約2000万人、死亡者は40万人増えました。WHOの報告では、感染者数は米州とヨーロッパが全体の80%以上を占めていますが、ここ1か月は西太平洋(日本、マレーシアなど)とアフリカ(南アフリカ、ナイジェリアなど)での増加がみられています(WHO Corona virus disease 2021-1-19)。

世界各地で複数の変異ウイルスの流行がみられており、英国で発生した変異型(B1-1.7)は世界60か国に、南アフリカで発生した変異型(B1-351)は世界23か国に拡大しています((WHO Corona virus disease 2021-1-19)。いずれの変異ウイルスも感染力は強いことが明らかになっていますが、病原性については調査中です。ワクチンに関しては、英国型には効果があるとされています。日本でも1月に英国型の国内感染者が5名確認されました(2020年1月24日現在)。こうした変異ウイルスの流行にともない、日本政府は水際対策を強化しており、外国人の入国が原則的にできなくなりました。また、日本国籍者が入国する際は、入国時にコロナ検査の陰性証明書の提出を求められます。詳細は下記の厚労省ホームページなどをご参照ください。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00209.html

(2)北半球:インフルエンザの流行

北米、ヨーロッパ、東アジアでは、1月もインフルエンザの流行が報告されていません(WHO Influenza 2021-1-18)。一方、インド、ネパールではA(H3N2)型、イランではB型の患者が散発しています。なお、国立感染症研究所の報告では、日本でもインフルエンザの流行は発生していません(国立感染症研究所 2021-1-8)。

(3)アジア:中国でトリインフルエンザの患者発生

中国・重慶で12月中旬に51歳男性がトリインフルエンザH5N6型を発病し、重症になっています。中国では今までにH5N6型の患者が27人確認されています(Outbreak News Today 2021-1-16)。広東省でも1歳男児がトリインフルエンザH9N2型を発病しており、この型の患者数は42人になりました。いずれも家禽に接触して感染したものとみられています。

(4)アフリカ:西アフリカでコレラが流行

西アフリカ各地でコレラが流行しており、2020年は2万人が発病し、400人以上が死亡しました(Outbreak News Today 2020-12-31)。トーゴでは11月中旬から年末までに67人の患者が確認され(WHO outbreak news 2021-1-4)、ナイジェリアではBenue州やDelta州で30人以上が死亡した模様です(Outbreak News Today 2021-1-17,21)

(5)南米:ペルーでデング熱患者が増加

ペルーでは2020年にデング熱患者が南東部を中心に5万6000人発生しました(Outbreak News Today 2021-1-15)。これは2017年以来となる多い患者数です。南米各国では新型コロナ対応に追われているため、デング熱の患者数が増加傾向にあります。

・日本国内での輸入感染症の発生状況(2020年12月7日~2021年1月10日)

最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査を参考に作成しました。出典:https://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr-dl/2020.html

新型コロナウイルス感染症の輸入例については、厚労省発表の検疫実績(2021年1月13日)を参考にしています。出典:https://www.mhlw.go.jp/content/000723510.pdf

(1)経口感染症:輸入例としては赤痢アメーバが1人でした。

(2)昆虫が媒介する感染症:デング熱は1人で、ベトナムでの感染でした。なお、2020年のデング熱輸入例は累積45人で、2019年の416人に比べて大幅に減少しました。

(3)新型コロナウイルス感染症:2020年12月6日~2021年1月2日までに341人が輸入例として報告されています。このうち日本国籍者は166人で、滞在国で多かったのは米国84人、インドネシア36人、英国24人、フィリピン20人、ネパール19人でした。英国滞在者は前月(3人)から増加しており、全例が日本国籍者でした。

・今月の海外医療トピックス

東京・上野のジェンナー像
1月26日はエドワード・ジェンナーの命日です。ジェンナーは、紀元前より恐れられていた天然痘ワクチン(種痘)を1796年に開発し、1823年にこの世を去りました。1848年には日本にも種痘が入りましたが、国内の患者発生は1956 年まで続き、その後1980年にようやく地球上から根絶されました。

さて、上野の国立博物館東洋館前のトイレ脇に、ひっそりとジェンナー像が建っています。土台には明治37年と彫刻されています。この像は、明治29年(1896年)に上野公園で開催された善那(ジェンナー)氏種痘発明百年記念会で建立が計画されました。誰一人ジェンナーの風貌を知らぬ中、英国から彼の写真を取寄せたそうで、当時の日本人の種痘への感謝と熱意を感じさせます。現在は新型コロナの流行に世界が疲労困憊している状況ですが、天然痘の時代と比較して科学や医学の進歩は目覚ましく、この1年でコロナワクチンが開発され、すでに海外では接種が開始されています。天然痘撲滅には長い時間を要しましたが、コロナワクチンの速やかな流通と接種による新型コロナの終息を期待しています。(臨床助教 栗田直) 

(参考)日本医史学雑誌55-3,2009;291–301 http://jsmh.umin.jp/journal/55-3/291.pdf

・渡航者医療センターからのお知らせ

(1) オンラインによるワクチン相談
渡航者医療センターではオンラインによるワクチン相談サービスを提供しています(有料)。オンライン診療で、渡航地域に応じたワクチン接種プランの提示や、留学に必要な書類の作成アドバイスを行います。詳細は下記をご覧ください。https://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/news/shinryo/20200729_2.html

(2)海外在留邦人向け新型コロナウイルス感染症よろず相談窓口のお知らせ
渡航者医療センターでは海外在留邦人向けに「新型コロナウイルス感染症よろず相談窓口」を開設しています。海外在留邦人の方ならどなたでも、電子メールによる相談が受けられます(無料)。詳細は下記をご覧ください。https://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/news/shinryo/20200421.html

(3)連載コラムのご紹介
渡航者医療センターの濱田部長が時事メデイカルで「新型コロナ流行の本質~歴史地理の視点で読み解く~」を毎週連載しています。https://medical.jiji.com/column4/37