JTB、中間決算は782億円の純損失、コロナ後を見据えた新・中期経営計画を発表
JTBは11月20日、2020年4月~9月期のグループ連結決算を発表した。売上高は前期比81.1%減の1298億3700万円、売上総利益は同77.5%減の332億7500万円にとどまった。これに対し販売費を52.1%削減して98億4200万円、人件費を24.0%削減して671億5700万円、管理費を15.7%削減して273億4600万円、合計で前期比26.2%に相当する369億7500万円削減して販売管理費を全体で1043億4500万円に抑えたものの、営業損益は710億7000万円の損失となった。また経常損益は580億300万円の赤字、当期純利益も781億7200万円の赤字となった。
2020年度通期については経常損失が1000億円程度になる見通しを明らかにしたが、営業利益等の見通しについては、コロナ禍の状況など変動要素が大きいこともあり非公開とした。
商品別売上高は、国内旅行が第2四半期以降はやや上向いており、GoToトラベルにより1040億円を取り扱う(10月28日現在)など回復の兆しがあるものの前期比85.0%減の399億4800万円だった。また3月中旬から基本的に催行がない海外旅行は90.8%減の218億9600万円、国内事業会社による取り扱いがほぼない訪日旅行が92.6%減の27億8800万円、日本以外の第3国間における旅行事業であるグローバル旅行も79.4%減の108億8500万円(海外事業会社の会計期間は1月~12月であるため、コロナ禍の影響が少なかった1月~3月までの売上高を含む)となった。非旅行事業に分類されるMICEも76.2%減の74億7300万円、商事や出版、地域交流事業を含む「その他事業」も22.2%減の468億4700万円となった。
財務状況については、4月の銀行からの資金調達800億円と資金支出抑制により手元流動資金は前年同期の3200億円超の水準を維持。別途コミットメントライン600億円を確保しており当面の資金繰りに問題はないとしている。自己資本比率は上期の業績悪化に伴う利益剰余金の減少及び有利子負債の増加により12.9ポイント低下して11.4%となった。
2020年度の足元の概況について、国内・海外・国際主力企画商品の販売状況も公表された。それによるとエースJTBがGoToトラベルの効果をあって10月~12月の第3四半期は前年同期比10.3%減まで持ち直したのに対し、ルックJTBは100%減、サンライズは99.7%減となっている。なお企画商品についてJTBではダイナミック化を前提に考えており、たとえば国内旅行商品のダイナミック化率は現在22%だが21年度期末には比率を80%まで高めていく計画だ。ただし既存ブランドのエースJTBやルックJTBについて「商品造成をマス型から自由度の高い個人型へ転換する必要はあるが、高品質商品などもありブランドそのものをやめるつもりはない」(山北栄二郎社長)としてブランドを存続する方針だ。
今回の中間決算は、連結ベースの決算を発表するようになって以降、最大の赤字幅という危機的状況だが、JTBでは2021年度の黒字化を目指しまずは経費構造改革を急ぎ、当面の経費抑制による利益回復を図る。このため21年度までに、19年度実績と比較して経費を約1400億円削減する。改革メニューは8項目で、国内グループ会社の統廃合や外部化の改革により10社以上を削減。海外グループ会社改革では、海外190拠点以上を削減。組織改革については間接機能の最適化によるスリム化を図る。
販売機能改革としては国内店舗の統廃合により22年度期首までに115店舗を削減し、店舗数を19年度比で75%まで縮小。5年前との比較では店舗数を3分の2まで絞り込むことになる。要員構造改革として人員削減にも手を付け、グループ全体で国内2800名、海外3700名の合計6500名を削減する。これにより年間平均要員数を19年度の2万9000名から21年度は2万2500人まで減らす。削減目標の6500名のうち2000名程度の自然減を見込むほか、早期退職や出向の拡大などにも取り組む。早期退職については既存の制度で用意している退職割増金の引き上げや再就職支援の強化により、40歳以上の早期退職を勧奨する。さらに、すでに自治体などを中心に300名に及んでいる外部出向をさらに増やす。なお22年度の新卒採用は見合わせる方針だ。
システム改革ではクラウド化とスリム化を進めるほかダイナミック化への対応によりシステムコストの削減を図り、オフィス改革・働き方改革ではリモート接客やテレワーク等の拡大によりコスト削減を目指す。
人件費も改革対象で、20年度と21年度の期間限定で一時的な人件費削減にも手を付ける。対象となるのは役員報酬や賞与等。内容は労働組合と協議中としているが、1400億円分の経費構造改革を達成するためには、現在の月例給与と賞与を合わせた年収について平均30%程度の減額が必要になると見積もっている。
中期経営計画「『新』交流創造ビジョン」
JTBはコロナ禍を機に激変した経営環境に対応するため、新たなグループ経営戦略に基づく中期経営計画「『新』交流創造ビジョン」を発表した。フェーズ1で経費構造改革を済ませ営業利益の黒字化を果たした後に、2025年度を目途とするフェーズ2で「回復・成長」に取り組み、既存ビジネスモデルを変革し売上総利益率の大幅改善と新規ビジネスへの投資加重を行い、営業利益300億円規模を目指す。さらに28年度を目途とするフェーズ3では「成長・飛躍」を念頭に、既存ビジネスの売上総利益を拡大すると共に新規ビジネスの経費率向上にも取り組む。その結果として中期経営計画の終了段階では「営業利益450億円を安定的に創出できるグループへの再生を実現する」(山北社長)。
ツーリズム領域ではデジタル化を進め、オンラインとオフラインを統合したシームレスな購買体験を実現するほか、パーソナルなニーズに応えつつ日常や旅アトを含む旅行体験を総合的にサポートできる体制を整備する。
エリアソリューションの領域では、これまでの観光ビジネスで培ってきた自治体やDMO、観光関連事業者といったステークホルダーとのつながりを活かし、人流に依存しない「ストック型」のビジネスモデルを拡大する。具体的には、たとえば地域の予約プラットフォームの開発や提供により収益を上げるビジネスモデルなどを想定している。
ビジネスソリューションの領域では、これまでの法人顧客との関係性をより深めながら、各企業の課題の発見段階から、ニーズに合ったソリューションの提供や効果検証までにかかわる。
3領域のビジネス構成比については、28年度にツーリズムで利益全体の40%、ビジネスソリューションで40%、エリアソリューションで20%を創出することを目指す。