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海外医療通信 2019年11月号【東京医科大学病院 渡航者医療センター】

  • 2019年11月25日

 ※当コンテンツは、東京医科大学病院・渡航者医療センターが発行するメールマガジン「海外医療通信」を一部転載しているものです

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東京医科大学病院・渡航者医療センター

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海外医療通信 2019年11月号          東京医科大学病院 渡航者医療センター

海外感染症流行情報 2019年11月号

(1)アジア:中国でペスト患者が発生

中国の保健当局は11月13日に北京の病院にペスト患者2人が入院していることを明らかにしました(厚生労働省検疫所 2019-11-15)。両名とも中国の内モンゴル自治区で発病し、肺ペストをおこしているため北京の病院に搬送された模様です(ProMED 2019-11-13)。現時点で周囲への感染拡大はおきていません。なお、中国では本症例以外に、腺ペスト患者が内モンゴル自治区と甘粛省で11月にそれぞれ1人ずつ発生しています(Outbreak news today 2019-11-7,12)。ペストはネズミなどげっ歯類の感染症でネズミノミにより媒介されます。このノミにヒトが刺されると腺ペストを発症します。腺ペストはリンパ節の腫脹とともに肺炎をおこすことがあり、この状態を肺ペストと呼びます。肺ペスト患者は飛沫感染でペスト菌を拡散させますが、今回の事例で周囲への拡大はおきていません。なお、ペストは抗菌薬による治療が可能です。

(2)アジア:日本で髄膜炎菌感染症の患者が発生

11月に日本を訪問中のオーストラリア人旅行者(50歳代男性)が髄膜炎菌感染症を発病しました(厚生労働省感染症情報 2019-11-15)。報道機関からの発表によれば、この旅行者はラグビーワールドカップ日本大会の観戦で来日しており、日本国内で感染した可能性があります(産経新聞 2019-11-16)。髄膜炎菌感染症は飛沫感染する病気で、国際的なスポーツ大会の際に感染することがあります。発病すると髄膜炎だけでなく菌血症やショックをおこし、致死率が高くなります。来年の東京五輪でも注意すべき感染症の一つにあげられており、大会関係者や参加者はワクチン接種などの対策を検討する必要があります。

(3)アジア:各地のデング熱流行状況

11月になりアジア各地でおきていたデング熱の流行は終息してきています。11月上旬までにマレーシアで11万人、フィリピンで37万人、ベトナムで12万人の患者が報告されており、いずれも例年の2~3倍の数になります(WHO西太平洋 2019-11-7)。シンガポールでも1万人以上の患者が発生しており、10月末からはやや増加傾向です(Outbreak news today 2019-11-22)。今年はパキスタンでも7月以来、デング熱の患者数が増加しており、11月中旬までに5万人近くになりました(WHO Outbreak news 2019-11-19)。

(4)大洋州:南太平洋での麻疹流行

南太平洋で麻疹の流行が発生しています。サモアでは1000人以上の患者が発生し、トンガやフィジーでも患者数が増加している模様です(UNICEF News note 2019-11-18)。ニュージーランドでは今年1月から2000人以上の麻疹患者が報告されており、この流行が南太平洋の島々に波及したとみられています(英国FitForTravel 2019-11-19)。なお、オーストラリア東部のクイーンズランド州でも麻疹が流行しており、ブリスベンやケアンズでも患者が確認されています(厚生労働省検疫所 2019-11-19)。麻疹の流行地域に滞在する際にはワクチン接種をご検討ください。

(5)アフリカ:コンゴのエボラ熱流行は鎮静化

コンゴ民主共和国で流行中のエボラ熱は鎮静化しつつあります。最近の患者発生数は毎週10人前後で、4月に毎週100人以上の患者が発生していたのに比べると大幅に減少しています(WHO Outbreak news 2019-11-21)。ただし、新たな地域での患者発生もみられているため、引き続き注意が必要です。昨年8月の流行発生以来、累積患者数は3298人(疑い含む)で、このうち2197人が死亡しました。

(6)中南米:デング熱の患者数が過去最多に

米州保健機関の報告によれば今年は中南米各地でデング熱が大流行しています。10月中旬までの患者数は過去最多の270万人になり、このうち200万人がブラジルでの発生でした(Pan American Health Org. 2019-11-11)。ブラジルのリオデジャネイロでは昨年の倍以上になる3万人以上の患者が確認されています(Outbreak news today 2019-11-6)。

 

・日本国内での輸入感染症の発生状況(2019年10 月7日~11月10日)

最近約1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査を参考に作成しました。出典:https://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr-dl/2018.html

(1)経口感染症:輸入例としてはコレラ1例、細菌性赤痢6例、腸管出血性大腸感染症10例、腸チフス・パラチフス4例、アメーバ赤痢3例、ジアルジア1例、A型肝炎5例、E型肝炎3例が報告されています。腸管出血性大腸感染症は8例が韓国での感染でした。

(2)昆虫が媒介する感染症:デング熱は34例で、前月(55例)より減っていま。感染国はフィリピン(10例)、ベトナム(6例)、インド(4例)が多くなっています。今年のデング熱累積患者数(輸入例)は414例で、今までの最多患者数だった2016年の年間338例を大幅に越えました。チクングニア熱は6例で、感染国はミャンマー(4例)が前月同様に多くなっています。ジカ熱は1例でタイでの感染でした。マラリアは3例で全例がアフリカでの感染でした。

(3)その他:麻疹が2例で感染国はベトナムとタイ、風疹は3例でフィリピン(2例)と中国での感染でした。レプトスピラが1例(インドネシアでの感染)、ライム病が1例(オランダでの感染)報告されています。

 

・今月の海外医療トピックス

「旅の醍醐味と健康リスク」

検疫所で仕事をしていた頃、下痢に悩む二人の若い男性が相談に来たことがあります。彼らはモンゴル旅行でゲルに滞在し、現地の方からネズミのような謎の動物の料理をすすめられ、それを食べてから下痢をしたようです。その動物が一体何だったのか気になったので、友人のモンゴル人留学生に聞いてみました。彼女は可愛らしいマーモットの写真を私に見せながら、モンゴルの田舎ではマーモットを食べると教えてくれました。都会育ちの彼女も一度だけ食べたことがあり、毛をむしって焼いてしまえば、結構美味しいと言っていました。旅の醍醐味というのは、その土地の文化や料理に触れることだと思います。しかし、そこには思いもよらぬリスクも潜んでいます。現地の人に歓待されて出された料理を危険だと思えば、きっぱり「NO」と断ることも大切です。11月中旬、中国で内モンゴル自治区の人が肺ペストを発症したという報道がありました。ペストはマーモットのようなげっ歯類との接触で感染します。げっ歯類を食べても感染するわけではありませんが、それを調理する環境にはできるだけ近寄らない方がいいでしょう。海外渡航者はこうした感染症情報を出国前にチェックし、身の安全を確保しながら旅の醍醐味を満喫していただきたいと思います。(医師 栗田直) 

 

・渡航者医療センターからのお知らせ

第24回渡航医学実用セミナー(当センター主催)

次回のセミナーは下記の日程で開催します。テーマとしては「海外での昆虫による被害」、「海外からの医療搬送」を予定しています。プログラムなどの詳細は次号の本メルマガか当センターのホームページ(http://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/tokou/seminar.html)で後日お知らせします。

・日時:2019年2月27日(木) 午後2時~4時半(予定)

・会場:東京医科大学病院9階 臨床講堂