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海外医療通信 2019年10月号【東京医科大学病院 渡航者医療センター】

  • 2019年10月25日

 ※当コンテンツは、東京医科大学病院・渡航者医療センターが発行するメールマガジン「海外医療通信」を一部転載しているものです

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東京医科大学病院・渡航者医療センター

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海外医療通信 2019年10月号          東京医科大学病院 渡航者医療センター

・海外感染症流行情報 2019年10月号

(1)全世界:ポリオ患者の増加

世界的にポリオ患者数が増加しています。パキスタンとアフガニスタンでは今年になり73人の患者が発生しており、昨年同期に比べ4倍以上に増えています(WHO Outbreak news 2019-10-3)。ポリオワクチン由来のウイルスによる流行も、アジア、アフリカなどで発生しており、フィリピンではダバオ近郊の南ラナオ州やマニラ南部のラグナ州で患者が確認されました(WHO Outbreak news 2019-9-24)。また、マニラ市内の下水などからもポリオウイルスが検出されています(Outbreak news today 2019-10-17)

アジアではフィリピン以外にも中国(四川省など)、インドネシア(パプア州)、ミャンマー(Kayin州など)でワクチン由来のポリオウイルスの患者が確認されています。ポリオの流行地域に滞在する際には、ワクチンの追加接種をご検討ください。とくに1975年~1977年生まれの方は、小児期に接種したワクチンの効果が弱いため、流行地域に短期滞在する場合でもワクチン接種をお奨めしています。

(2)アジア:各国のデング熱患者数は減少傾向

今年はアジア各国でデング熱患者数が例年の2倍~3倍発生しましたが、10月下旬になり減少傾向にあります。フィリピンでは32万人、マレーシアでは10万人、タイで10万人、シンガポールで1万人以上の患者が確認されました(WHO西太平洋 2019-10-10、Outbreak news today 2019-10-17)。日本国内への輸入例も今年は371人で、昨年の2倍以上に増えています((IDWR 2019-40週)。さらに、今年の9月中旬、京都と奈良を修学旅行で訪問した都内の高校生2人がデング熱を発症しました(東京都福祉保健局 2019-10-16)。2014年以来の国内感染例です。実際の患者数はもっと多かった可能性もありますが、10月下旬には媒介するヒトスジシマカが少なくなるため、これ以上の国内流行はおきないものと予想されています。

(3)アジア:パキスタンで多剤耐性の腸チフス菌が増加

パキスタンのカラチなどを中心に多剤耐性の腸チフス菌が流行しており、患者数は2016年から2018年8月までに1万人以上にのぼっています(WHO東地中海 2019-8-25)。この腸チフス菌はほとんどの抗菌薬が効かないため、パキスタンや隣国のインドに滞在する際にはワクチン接種を受けておくことを推奨します。今年は欧米諸国での輸入例も報告されており、アイルランドでは9月中旬までにパキスタンからの帰国者3人の感染が明らかになりました(ヨーロッパCDC 2019-10-9)。

(4)アフリカ:コンゴのエボラ熱流行は緊急事態続行

WHOは10月18日に緊急委員会を開催し、コンゴ民主共和国で流行中のエボラ熱について、引き続き公衆衛生上の緊急事態であるとの結論を出しました(WHO News 2019-10-18)。今年の7月17日にWHOは緊急事態宣言を発しましたが、その後、患者発生数は減少し、最近は1週間で15人になっています。4月は週に100人以上の患者が発生しており、大幅な減少です。しかし、地域によっては流行がコントロールされていないため、緊急事態の続行となりました。今回の流行での累積患者数は10月中旬までに3,227人で、このうち2,154人が死亡しています(WHO Outbreak news 2019-10-17)。

(5)ヨーロッパ:フランスでデング熱とジカ熱の国内感染が発生

フランス南部のカンヌとリヨン近郊で8月~9月にデング熱患者が6人確認されました(米国CDC 2019-10-9)。いずれも国内感染と考えられています。またカンヌとマルセイユの中間にあるイエールで、ジカ熱の国内感染例が2名確認されました(ヨーロッパCDC 2019-10-23)。フランス南部にはヒトスジシマカが棲息しており、デング熱とジカ熱はこの蚊によって媒介された模様です。フランス南部は10月には蚊が少なくなるため、これ以上の流行拡大はおきないと予想されています。

 

・日本国内での輸入感染症の発生状況(2019年9月9日~2019年10月6日)

最近約1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査を参考に作成しました。出典:https://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr-dl/2018.html

(1)経口感染症:輸入例としては細菌性赤痢3例、腸管出血性大腸感染症9例、腸チフス・パラチフス5例、アメーバ赤痢9例、A型肝炎7例、E型肝炎1例が報告されています。A型肝炎は前月(3例)からやや増加しましたが、感染地域はアジア全域に分散しています。

(2)昆虫が媒介する感染症:デング熱は55例で、前月(100例)より減っていますが、相変わらず多い数です。感染国はフィリピン(10例)、ベトナム(9例)、カンボジア(7例)、ネパール(7例)が多くなっています。今年のデング熱累積患者数は371例で、今までの年間最多患者数だった2016年の338例を既に越えました。チクングニア熱は9例で、感染国はミャンマー(5例)が前月と同様に多くなっています。マラリアは4例で、3例がアフリカでの感染でした。

(3)その他:麻疹が3例で、感染国はベトナム(2例)と韓国(1例)、風疹は1例で、フィリピンでの感染でした。ライム病がスウエーデンと米国で1例ずつ報告されています。この病気はマダニに媒介される細菌感染症で発熱、発疹、関節炎などをおこします。髄膜炎菌感染症の事例が1例報告されており、ロシア(あるいはバルト海諸国)での感染でした。

 

・今月の海外医療トピックス

海外渡航中の災害 

この度の台風19号(ハギビス)で被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。

私には、研究を通じて知り合ったモンゴル人留学生の知人がいます。彼女は来日3か月の19歳です。先の台風19号が東京を通過する前、都心のパンや水が品薄になっているのを知り、私は「大きな台風がくるけれど大丈夫?」と彼女にSNSで連絡をしました。「人生で初めての台風だからワクワクする」と言ってはいるものの、次々送られてくるコメントから、彼女のとても不安な様子が伺えました。彼女は無事でしたが、異国で目の当たりにした災害による精神的負担は大きかったろうと思います。テレビでは、時々英語の情報が出ていましたし、駅の構内にも英語の張り紙がありましたが、外国人が災害の詳細を知るのは難しい印象を受けました。

海外渡航の際には、万が一の災害に備えることも重要です。滞在先の地元住民との日常的な交流が大切かと思います。さらに、外務省は2013年のアルジェリア人質事件をきっかけに、2014年から滞在先の災害や事件、感染症などの緊急情報を受けられる「たびレジ」というメール配信サービスを提供しています。既に、ご存知の方も多いでしょうが、渡航前の「たびレジ」登録をいま一度、強くお勧めします。(医師 栗田直) 参考;外務省 海外安全情報配信サービス https://www.ezairyu.mofa.go.jp/

 

・渡航者医療センターからのお知らせ

JAMSNET東京・勉強会のお知らせ (渡航者医療センター共催)

テーマ:「海外の邦人、日本の外国人~異文化の中で生活するということ~」

日時:2019年11月21日(木)18:00~19:20

会場:東京医科大学・教育研究棟4階 セミナー室3 (最寄り駅:西新宿) 参加費:無料 

詳細はジャムズネット東京ホームページをご覧ください。https://www.jamsnettokyo.org/