海外医療通信 2019年7月号【東京医科大学病院 渡航者医療センター】

  • 2019年7月25日

 ※当コンテンツは、東京医科大学病院・渡航者医療センターが発行するメールマガジン「海外医療通信」を一部転載しているものです

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東京医科大学病院・渡航者医療センター

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・海外感染症流行情報 2019年7月

(1)アフリカ:WHOがコンゴのエボラ熱流行に緊急事態宣言

7月17日にWHOは、コンゴ民主共和国の北東部で流行しているエボラ熱の流行について、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」の宣言を出しました(WHO News release 2019-7-17)。この地域では2018年8月よりエボラ熱の流行が発生しており、今年の7月中旬までに2500人以上の患者と1698人の死亡者が報告されています(WHO Outbreak news 2019-7-18)。6月中旬には隣国のウガンダでも患者が確認されており、7月には中部のゴーマでも患者が確認されたため、国際的な感染拡大を懸念し、今回の宣言に至りました。ゴーマは人口が100万人以上の大都市で、ルワンダとの国境に接しているため、人の往来が多い町です。このWHOの宣言に伴い、日本の厚生労働省検疫所ではコンゴ民主共和国やウガンダからの入国者に対する検疫を強化しています(厚生労働省検疫所 2019-7-18)。日本からの渡航者がエボラ熱に感染するリスクは低いと考えますが、流行国に滞在する際には、手洗いを励行するとともに、発熱している患者などには近づかないように注意してください。なお、PHEIC宣言の詳細は「今月の海外医療トッピクス」を参照ください。

(2)アジア:東南アジアでデング熱患者が増加

今年は東南アジア各地でデング熱患者が例年より多く発生しています。マレーシアは6万人、フィリピンは10万人、ベトナムは8万人、タイは5万人で、いずれも昨年の2~3倍の数になります(WHO西太平洋 2019-7-8, Outbreak news today 2019-7-21)。台湾でも高雄や台南で58人の患者が発生しました(Outbreak news today 2019-7-22)。夏休みに東南アジアなどに滞在する際は、蚊に刺されない注意を心がけてください。

(3)アジア:中国でポリオ患者発生

中国の四川省でポリオ患者が1名発生しました(英国Fit For Travel 2019-7-15)。原因になったのはワクチン由来の2型ウイルスで、2018年に新疆ウイグル自治区で環境中から分離されたウイルスと同一のものです。中国内陸部でこのウイルスが拡大している可能性もあります。この事例発生を受けて英国の保健当局(NaTHNaC)は中国への渡航者にポリオワクチンの追加接種を推奨しています。

(4)アジア:アジアでのジカウイルス感染症の流行状況

WHOが最近のジカウイルス感染症の流行状況を発表しました(WHO Zika virus disease 2019-7-2)。アジア地域については、全体的に患者数は減少傾向ですが、インド北部のRajasthan州やMadhya Pradesh 州で2018年に280人以上の患者が確認されました。また、新たな知見として、アジアでは2000年代初頭からジカウイルスが流行していることや、不顕性感染者の多いことが明らかになっています。さらに、アジア地域のウイルスの特徴として、妊婦が感染した場合の胎児への影響が、中南米諸国で流行しているウイルスに比べて少ないことがあげられています。

(5)アジア:フィリピンで偽造狂犬病ワクチンが流通

フィリピンで偽造された狂犬病ワクチンが流通していることが明らかになりました(英国Fit For Travel 2019-7-8)。今回明らかになったのはRabipurの偽造品ですが、すでにVerorab、Speeda、狂犬病用の免疫グロブリン(Equirab)の偽造品も確認されています。これはフィリピンでの狂犬病ワクチンの不足が原因の一つと考えられています。フィリピンなど狂犬病の多発国に滞在する際には、出国前に暴露前接種を受けておくことを推奨します。

 

・日本国内での輸入感染症の発生状況(2019年6月10日~2019年7月7日)

最近約1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査を参考に作成しました。出典:https://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr-dl/2018.html

(1)経口感染症:輸入例としては細菌性赤痢5例、腸管出血性大腸感染症19例、腸チフス・パラチフス1例、アメーバ赤痢2例、ジアルジア1例、A型肝炎1例、E型肝炎1例が報告されています。腸管出血性大腸感染症は前月(9例)より大幅に増加しており、14例が韓国での感染でした。

(2)昆虫が媒介する感染症:デング熱は22例で、カンボジア(6例)、フィリピン(4例)、ベトナム(3例)での感染が多くなっています。今年のデング熱累積患者数は161例で、昨年同期(65例)に比べて大幅に増えています。マラリアは3例で、全例がアフリカ(ウガンダ、マダガスカル)での感染でした。チクングニア熱は4例で、ミャンマーでの感染が3例と多くなっています。

(3)その他:麻疹が2例で、前月(14例)より減少しています。感染国はベトナムとフィリピンでした。風疹は4例で、感染国はタイ、台湾、英国、中国でした。

 

・今月の海外医療トピックス

「公衆衛生上の緊急事態」とは

7月17日、WHOはコンゴ民主共和国のエボラ熱(EVD)の流行について、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC:Public Health Emergency of International Concern)」を宣言しました。PHEICは国際保健規則(IHR)に基づき、「①感染症の国際的拡大で他国に公衆衛生上の危険をもたらすと認められる事態」、「②緊急に国際的対策が必要な事態」の発生時に宣言されます。2009年は新型インフルエンザ、2014年はポリオと西アフリカのEVD、2016年はジカウイルス感染症と、過去4回発令されました。では、PHEICの宣言によって、日本にはどのような影響があるのでしょうか?日本でEVDの患者が診断された場合、国は24時間以内にWHOへ通告する義務があります。このため、厚生労働省・検疫所はコンゴ民主共和国とウガンダからの入国者に対して検疫強化を行っています。入国者で発熱などの症状がある場合は隔離措置を、症状はなくても感染の可能性があれば21日間の健康監視を行います。

コンゴ民主共和国とウガンダは豊かな自然が残り、ゴリラ保護区などもある魅力的な国です。今回のPHEIC発令後も、観光などで渡航する人が当センターを受診していますが、そんな渡航者には、滞在国がエボラ熱の流行国であることを認識し、十分な健康上の注意をとるようにお伝えしています。(栗田直)<参考>厚生労働省HP:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_05795.html

 

・渡航者医療センターからのお知らせ

第23回渡航医学実用セミナー(当センター主催)

今回は「蚊媒介ウイルス感染症」と「海外の医療情報」をテーマに下記の日程で開催します。本年7月から診療を開始した新病院の渡航者医療センターもあわせて見学できます。是非、ご参加ください。

・日時:2019年9月19日(木) 午後2時00分~ 午後4時45分

・場所:東京医科大学病院9階臨床講堂(西新宿の旧病院に隣接する新病院になります)

・対象:職種は問いません(どなたでも参加できます) ・参加費:無料 ・定員:約200名

・申込方法:当センターのメールアドレス(travel@tokyo-med.ac.jp)まで、お名前と所属をお送りください。ご返信はいたしませんのでよろしくお願いします。

・プログラム(詳細は当センターHPをご参照ください)

http://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/tokou/seminar.html

「近年のデング熱およびジカウイルス感染症の流行域の拡大」 国立感染症研究所 林昌宏先生

 「検疫所ホームページFORTHの活用法」 成田空港検疫所 田中一成先生

 「外務省が発信する海外の医療・安全情報」外務省診療所 金武和人先生