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海外医療通信 2018年10月号【東京医科大学病院 渡航者医療センター】

  • 2018年10月25日

 ※当コンテンツは、東京医科大学病院・渡航者医療センターが発行するメールマガジン「海外医療通信」を一部転載しているものです

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東京医科大学病院・渡航者医療センター

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海外医療通信 2018年10月号 東京医科大学病院 渡航者医療センター

・海外感染症流行情報 2018年10月

(1)日本で風疹の流行が発生

今年の8月から関東地方を中心に風疹の流行が発生しています。10月17日までに患者数は1,287人にのぼっており、昨年の年間患者数の10倍以上になりました(国立感染症研究所 2018-10-23)。この状況を受けて、米国のCDCはLevel 2の警告を発し、風疹に免疫のない妊婦の日本への渡航を控えることを推奨しています(米国CDC Travelers Health 2018-10-22)。この警告は米国以外の国の旅行者も参考にするため、このままの流行が続くと、訪日旅行者数が減少する可能性があります。

(2)インド北部でのジカウイルス感染症の流行

インド北部のジャイプールでジカウイルス感染症の流行が確認されました(英国NaTHNac 2018-10-17)。10月上旬までに22人の患者が報告されています。インドでは中部のグジャラート州、南部のタミール・ナードゥ州でジカウイルス感染症の流行が既に報告されています。ジャイプールは日本からの観光客が多い町で、滞在中は蚊に刺されない注意をするとともに、妊婦は滞在を控えるようにしましょう。

(3)サウジアラビアでのMERS患者の発生

サウジアラビアでは今年の6月から9月中旬までに、中東呼吸器症候群(MERS)の患者が32人発生し、このうち10人が死亡しました(WHO outbreak news 2018-10-3)。2012年にMERSの流行が確認されてから、今年の9月までに全世界で2,260人の患者が確認されていますが、このうち1,882人はサウジアラビアからの報告です(WHO outbreak news 2018-10-16)。最近の傾向としては院内感染が減少し、ラクダに接触して感染する事例が増えています。なお、今年9月、韓国で中東からの帰国者にMERS患者が1名確認されましたが、その後、二次感染者はみられていません。

(4)アジアでのデング熱流行状況

10月は南アジア各地でデング熱の流行が報告されています(ProMED 2018-10-21)。バングラデイッシュのダッカでは10月中旬までに6,000人以上の患者が発生し、2002年以来の大流行になっています。インドではニューデリーで1,600人、チェンナイで2,200人の患者が確認されました。

(5)コンゴ民主共和国のエボラ熱流行

コンゴ民主共和国の北東部で8月から発生しているエボラ熱の流行は、10月も続いています(WHO outbreak news 2018-10-18)。10月中旬までに累積患者数は220人(疑いも含む)で、このうち142人が死亡しました。患者の発生数は10月に再び増えている模様で、国境を接するウガンダなへの流行拡大も懸念されています。なお、10月17日にWHOで専門家会議が開催されましたが、今回のエボラ熱の流行は、2014年に西アフリカで発生したような公衆衛生上の緊急事態には至っていないとの結論でした(WHO news 2018-10-17)。

(6)スペイン、フランスでデング熱患者が発生

スペイン南部のムルシアでデング熱の患者が3人発生しました(ヨーロッパCDC 2018-10-22)。いずれも海外渡航例はなく、国内感染例と考えられています。フランス南部のニース近郊やモンペリエなどでもデング熱の患者が6人発生しており、こちらも国内で感染した模様です。スペインやフランスの地中海沿岸では、デング熱を媒介するヒトスジシマカが12月頃まで棲息しており、今後も患者数が増える可能性があります。

 

・日本国内での輸入感染症の発生状況(2018年9月3日~2018年10月7日)

最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査を参考に作成しました。出典:https://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr-dl/2018.html

(1)経口感染症:輸入例としては細菌性赤痢9例、腸管出血性大腸菌感染症7例、腸チフス・パラチフス6例、アメーバ赤痢6例、A型肝炎6例、E型肝炎2例が報告されています。腸チフスは前月(2例)よりも増加しており、インドでの感染が5例と多くなっています。

(2)昆虫が媒介する感染症:デング熱は28例で、前月(22例)より増加しています。感染国は前月と同様にフィリピンが6例と最も多く、カンボジア(5例)、インド(4例)と続いています。マラリアは6例で、ナイジェリアでの感染が3例と多くなっています。マダニから感染するライム病が1例報告されており、ポーランドでの感染でした。

(3)その他:麻疹が10例と前月(2例)より大幅に増えています。感染国はタイ5例、フィリピン3例、ベトナム2例でした。風疹は韓国での感染例が1例報告されています。百日咳が3例報告されており、マレーシア、シンガポール、カンボジアでの感染例でした。

 

・今月の海外医療トピックス

(1)海外出張中の疲労に関与するストレス要因

渡航者医療センターの松永医師らが、海外出張中のストレス因子に関する調査結果を日本職業災害医学会誌(66:398-403,2018)に発表しました。調査対象はインターネット調査会社のモニターで「過去2年以内に海外出張を経験した者」1,000人です。海外出張のイメージを「疲れる」と回答したのは428人(43%)で、出張中のストレス要因のうち「言葉の違い」、「時差」、「現地スタッフとの調整」、「プライベートな時間の減少」に有意な相関を認めました。これらのストレス因子への対策を行うことで、海外出張中の疲労を軽減できる可能性があります。

(2)旅客の「臭い」で緊急着陸 ~続報~

9月号に、本年5月、国際線旅客機が乗客の「臭い」を原因に緊急着陸したニュースをお伝えしました。その後の情報によると、この乗客は有名なロシアのギタリストで、スペインのカナリア諸島滞在中に怪我を負っていました。その傷が原因で、急速に進行する重症の壊死性感染症へ移行し、「臭い」を発していたようです。結局、この患者は病院で1ヶ月ほど治療をしたものの、6月下旬に亡くなりました。同じ旅客機に同乗した人たちにとって、緊急着陸したのは辛いことだったでしょうが、ご本人にとっては大変に痛ましい結果になってしまいました。なお、前号で旅客機はオランダからスペイン行きと記載しましたが、正しくはスペインからオランダ行きでした。お詫びをするとともに、ここに訂正させていただきます。(医師 栗田 直) 参考:https://www.newsweek.com/smelly-airline-passenger-dies-tissue-necrosis-forced-emergency-landing-997359

 

・渡航者医療センターからのお知らせ

(1)第20回海外医療情報交換会(海外邦人医療基金主催)

今回はシンガポール、マニラの日本人会診療所医師からの現地医療報告とともに、当センター教授の濱田が「最近の海外医療事情~インバウンドも含めて」を講演します。

・日時:2018年10月31日(水) 午後2時30分 ~ 午後5時15分

・会場:学士会館 302号室(千代田区)

・プログラム、申込み方法:海外邦人医療基金のホームページ(http://jomf.or.jp/)をご覧ください。

(2)第3回人事労務担当者のための海外勤務者メンタルヘルス対応ワークショップ(海外勤務者メンタルヘルスネットワーク主催)

「海外勤務者からみたメンタルヘルス」をテーマに、ワークショップを下記の日程で開催します。

・日時:2018年11月17日(土) 午後2時~午後4時30分 

・会場:明治学院大学・白金キャンパス2号館(港区)

・お問い合わせ、申し込み:海外勤務者メンタルヘルスネットワーク事務局(kmhnetworkATgmail.com)までご連絡ください。