旅行業の人材戦略、女性・若手の活躍に必要な視点-経営フォーラム

  • 2018年3月14日

働き方改革やダイバーシティ推進などに加えて
業界の魅力と将来性を伝える努力を

パネルディスカッションの様子  先ごろ開催された日本旅行業協会(JATA)経営フォーラム分科会Bのテーマは、人材戦略。今回は「女性と若手社員の活躍」に焦点を絞り、ディスカッションが行なわれた。モデレーターを務めた山梨大学教授の田中敦氏は、旅行会社の実態を示すため、事前に行なった参加者アンケートの結果を紹介。課題として、女性社員は「勤続年数が短い」「管理職を希望しない人が多い」、若手社員は「責任のある役割に就くことを望まない」などの意見が多かった。

田中氏  田中氏は、女性活躍の課題については「社員自身にも阻害要因があるのではないか」、若手については「部下マネジメントで困っている。若手社員に対する理解が進んでいないのではないか」と言及。転居を伴う人事や残業・休日出勤が多い旅行業の構造的な問題が助長させている可能性はあるものの、まずは他業種と同じ課題を有していることを示し、分科会をスタートさせた。

・モデレーター
山梨大学生命環境学部地域社会システム学科観光政策科学特別コース教授 田中敦氏
・パネリスト
日経BP社執行役員 麓幸子氏
ベルトラ取締役最高執行責任者 萬年良子氏
横浜商科大学商学部観光マネジメント学科教授 宍戸学氏
日本旅行業協会(JATA)広報室長(産学連携担当) 矢嶋敏朗氏


なぜ女性と若手の活躍が必要なのか

麓氏  日経BP社の麓氏は、「人材戦略は『女性活躍』と『働き方改革』、この2つを抜きに語れない」と主張。「本気でやることが、旅行・観光業界のパラダイムシフトになる」とまで語った。

 なぜ必要なのか。麓氏は人口減少による必然的な問題を提示した上で、「それよりも大切なのは質的な観点」とその重要性を強調。「産業構造が大きく変わり、複雑化するこれからの時代に今までの成功体験は通用しない。めざすべきはダイバーシティマネジメント。多様な声を経営のなかに活かし、経営の質を向上させることが大切」というのが理由だ。「モノカルチャーなところからはイノベーションは起こりにくい」とも語り、ダイバーシティのなかでも遅れている女性登用が不可欠で、全社員と管理職のそれぞれに占める女性比率が同等となって、女性活躍の企業であると訴える。

 一方、若手については「皆さん(経営陣)の若手の頃とは違う」と説明。日本では共働き世帯の数が専業主婦世帯を逆転しており、若手男性社員も家事・育児を担っている。そのため「家事・育児・介護は誰かに任せられ、時間制約のない以前の男性中心型労働慣行のマネジメントでは、若手社員のモチベーションが落ち、エンゲージメントを下げる」と指摘する。

 麓氏は、「働き方改革は制度充実だけではない」と注意しながら、実際に女性を登用して活躍推進が進む企業ほど経営指標が良く、家事・育児を含む私生活のワークライフバランスに取り組むことで生産性が上昇するなど、財務的な効果もあると言及。先進企業の例を紹介しつつ、ダイバーシティ経営成功のポイントとして、次の5点を示した。なかでも最も大切なのは「働きがい」だという。

1.トップのコミットメント:経営陣が自分の言葉で重要性を発信。形だけにならないことが大切
2.課題を正しく抽出:自社の課題を正しく把握し、改善する
3.意識改革・行動変容を促進:無意識の性差意識をなくす研修など
4.働き方改革の推進:「働きやすさ」や「働き続けやすさ」を高める
5.「働きがい」を創出:仕事のやりがいを作り、会社に対する誇りを高める