新春トップインタビュー:日本旅行業協会会長の田川博己氏
旅行業にも「ものづくり力」を
リスク対策、コンプラ遵守、「外交」も
-昨年は業界を代表するJTBグループとKNTグループが、それぞれ正反対の方向性による再編を発表しました。エイチ・アイ・エス(HIS)も一昨年末から再編を進めています
田川 日本の大手旅行会社は、これまでは「JTBに追いつけ追い越せ」とばかりに、同じ歩みで成長を求めてきたが、そもそも各社の方向性は違っていて良いはずだ。例えば欧州ではTUIやトーマス・クックなど、大手各社でカラーは異なる。今日は規模さえ追えば良い時代ではないのだから、各社がそれぞれの得意分野を見つければ良いと思う。
中小の旅行会社は、例えば「ものづくり」と呼ばれる分野で生き残っている中小企業がどのような会社なのかを考えてみてほしい。それらはいずれも、他社には真似できない商品や技術を持つ特徴のある会社だ。特徴を生み出す手法は市場により異なるし、決められたレールの上に乗る必要はない。今日はまさにダイバーシティの時代なので、経営者による新しいチャレンジは大いに結構。その際には国内旅行や訪日旅行を含む世界のツーリズム市場をどのように観ているかが、5年後、10年後の明暗を分ける。
日本の旅行業界はようやく再構築の時代が始まったところだ。戦後からの70年以上の歴史を持つ他業界が20年前や30年前に経験したようなことを、海外旅行自由化後の50年程度の歴史しかない我々が、今日になって初めて経験している。
-「ものづくり力」を磨くための新たな試みが、昨年からのアウトバウンド促進協議会ということになりますか
田川 その通り。これまでは旅行会社の企画担当者ばかりが「どのようにして海外旅行を売るか」と考えていたが、この1年間で航空会社や観光局などさまざまな立場の人々がそのことについて考え、ロードマップを示して動き始めたことは大きかった。一定の結果を出すには3年から5年程度はかかるが、その間には国内外で大規模スポーツイベントなどによる人流が続くので、チャンスはあると思う。
ただし最近の企画旅行商品を見ていると、「旅行」ではなく5泊6日などの「日程」を作っている商品が多い。本来は「こんな旅行を作りたいから1週間は必要」「いや、2週間必要」と考えながら企画すべきところが、日程ありきになってしまっている。理想を言えば、「旅行」を作る担当者は観光資源だけではなく出発から帰国までの時間なども計算に入れて企画し、さらに自身が添乗に行けるくらいでなくてはいけないのかもしれない。そしてその商品にはもちろん、収益力がなくてはいけない。難しいことではあるが。
-若い世代の企画担当者は育っていると思いますか
田川 育っていない。若い担当者には、海外旅行に行く日本人が少なかった時代に、各社の先達が「兼高かおる世界の旅」やFMラジオ番組の「JET・ STREAM」などから着想を得て、知恵を絞って商品を企画してきたことを知ってほしい。インターネットで情報だけを集めて、方程式に当てはめて商品を造成するような手法では市場は活発化しないし、旅行会社も「大した事ない」と言われてしまう。
担当者が自ら現地を訪れ、添乗員やランドオペレーター、市場の声に耳を傾けて商品を企画する本来の「企画力」に立ち返り、企画旅行の質を向上させていることをアピールしないと、インターネット時代のお客様は「自分で作った旅行の方がいい」と離れていく。そのことについては避けられない部分もあるだろう。しかしそれでも、日本人は依然として年間1800万人程度しか海外に行っていないのだから、伸びしろは十分にあると思う。