海外医療通信2017年10月号【東京医科大学病院 渡航者医療センター】

※当コンテンツは、東京医科大学病院・渡航者医療センターが発行するメールマガジン「海外医療通信」を一部転載しているものです

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東京医科大学病院・渡航者医療センター

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海外感染症流行情報 2017年10月

1)マダガスカルでペストの流行が拡大

アフリカ南部のマダガスカルで8月中旬からペストが流行しています。10月15日までに患者数は849人(疑いを含む)にのぼっており、このうち67人が死亡しました(WHOアフリカ 2017-10-17、外務省海外安全ホームページ 2017-10-20)。患者の6割以上は感染力の強い肺ペストをおこしています。マダガスカルでは毎年9月~4月に高原地帯でペストの流行がみられますが、今回の流行は首都のアンタナナリボなどの都市部にも波及しており、同市で開催された国際スポーツ大会の外国人参加者にも患者が発生しました(WHO 2017-10-2)。隣国のセイシェルでも、マダカスカルから入国した者の中に、ペストを疑う患者が発生した模様です((WHO 2017-10-15)。現時点でWHOは同国への渡航制限などの措置をとっていませんが、今後の流行状況には十分な注意が必要です。なお、ペストの予防対策については下記の「今月の海外医療トピックス」をご参照ください。

2)アジアでのデング熱流行状況

東南アジアでの今年のデング熱流行は全体的に鎮静化しています(WHO西太平洋 2017-10-10)。マレーシアやシンガポールでは昨年よりも患者数が少なくなっていますが、ベトナムやラオスでは昨年よりも患者数が増えています。また、今年はスリランカでデング熱の大流行が発生しており、9月末までに患者数は15万人を越えました(WHO南東アジア事務局 2017-10)。

3)中国での鳥インフルエンザH7N9型の流行

中国では昨年秋から鳥インフルエンザH7N9型の5回目の流行がみられていましたが、9月は患者が確認されませんでした(外務省務省海外安全ホームページ 2017-10-8)。今後、冬の到来とともに、再び患者数の増加が予測されます。

本来、H7N9型ウイルスは鳥に低病原性でしたが、昨年からの流行で高病原性への変異がみられました。東京大学の河岡らの研究チームは、この変異したH7N9型ウイルスが、以前のウイルスよりも飛沫感染や空気感染をおこしやすくなっていることを、動物実験で確認しました(Cell Host & Microbe 2017-10-16)。H7N9型ウイルスは、次の新型インフルエンザの有力候補とされており、監視をさらに強化する必要があります。

4)イタリアで蚊媒介感染症が増加

イタリアのローマ周辺で9月からチクングニア熱の患者が発生していることを前号で報告しました。その後も患者発生は続いており、10月初旬までに患者数は300人近くにのぼっています(ヨーロッパCDC 2017-10-19)。また、イタリア南部のターラントでマラリア患者が4人発生しました。いずれの患者もイタリア国内で感染した模様です(ProMED 2017-10-6)。チクングニア熱やマラリアは蚊に媒介される感染症ですが、イタリア南部に滞在する際には蚊に刺されないようにご注意ください。

5)ブラジルでマラリアの患者が増加

今年はブラジルでマラリア患者が増加しており、7月までに全土で8万人以上の患者数になっています(英国FitForTravel 2017-10-7)。とくに、アマゾン川周辺のパラ州やアマゾナス州では昨年より患者数が倍増している模様です。これらの地域に滞在する際には、予防内服を検討する必要があります。なお、今年のブラジルではデング熱の患者が21万人(米州保健機関 2017-9-22)、チクングニア熱の患者が17万人(英国FitForTravel 2017-9-29)と、蚊に媒介される感染症が増加しています。

・日本国内での輸入感染症の発生状況(2017年9月4日~2017年10月8日)

最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査を参考に作成しました。出典:https://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr-dl/2017.html

1)経口感染症:輸入例としてはコレラ1例、細菌性赤痢15例、腸管出血性大腸菌感染症14例、腸・パラチフス6例、アメーバ赤痢5例、A型肝炎3例が報告されています。前月に比べ細菌性赤痢は3倍以上、腸管出血性大腸菌感染症は2倍近くに増加しました。細菌性赤痢の感染国はインドネシアとインドが多く、腸管出血性大腸菌感染症の感染国は韓国が3例と多くなっています。腸・パラチフスは5例がインドでの感染でした。

2)蚊が媒介する感染症:デング熱は輸入例が37例で、前月(36例)と変化ありません。感染国は前月と同様にインドが13例と最も多く、フィリピン、ベトナムが各5例で続いています。マラリアは6例で、アフリカでの感染が5例、インドでの感染が1例でした。チクングニア熱は1例でインドでの感染、ジカウイルス感染症は1例で、カリブ海諸国での感染でした。

3)その他:麻疹が3例で、感染国はタイ(2例)とインド(1例)でした。風疹は1例でフィリピンでの感染でした。皮膚から感染するレプトスピラ症が1例報告されており、タイの河川で感染した模様です。

・今月の海外医療トピックス

1)11月19日は世界トイレの日

国連は2013年から11月19日を世界トイレの日と定めました。トイレの問題は、多くの方々が海外旅行をした際に直面する問題の1つですが、世界では深刻な公衆衛生上の課題です。このサイトによると、世界の45億人が今もなお清潔なトイレのない生活をしています。安全な水やトイレ、衛生習慣がないことで多くの子どもたちが下痢症を患い、命を失っています。
2017年のテーマは“wastewater(廃水)”です。トイレで排泄されたものが下水を通り、処理施設で屎尿処理されるのは先進国では当然ですが、そのような設備のない国が多いのが現状です。トイレのない環境が様々な感染症伝播の原因となっていることから、2030年までに全ての人が衛生的なトイレにアクセス出来ることが目標となっています。予防接種で防げる病気がある一方、このような社会インフラの向上も必要とされています。
兼任講師 古賀才博
参考 http://www.worldtoiletday.info/

2)ペストの予防対策

海外感染症流行情報でもご紹介したように、マダガスカルで2017年8月からペストの流行が発生しています。ペストはペスト菌を保有するネズミなどの小動物からノミを介してヒトに感染します。感染した場合、潜伏期間は1-7日間で、最初にインフルエンザ様症状が起こり、腺ペストでは有痛性リンパ節腫脹を、ペスト菌が肺に移行しておこる肺ペストでは肺炎を起こし、未治療の場合は死に至ります。また、肺ペスト患者の飛沫により感染が起こる可能性もあります。感染を予防するには、ノミ咬刺を防ぐことが第一にあげられます。虫よけ剤(DEET25%以上)の使用や、小動物に近寄らないことが大切です。もし、肺ペスト患者と濃厚接触した場合には、抗菌薬の予防内服が必要になります。成人に対しては、(1)ドキシサイクリン100mg×2/日を7日間内服、或いは(2)シプロフロキサシン500mg×2/日を7日間内服が、米国CDCなどから推奨されています。
医師 栗田直
参考 https://www.cdc.gov/plague/healthcare/clinicians.html
                          
・渡航者医療センターからのお知らせ

グローバルヘルス合同大会(日本渡航医学会、日本熱帯医学会、日本国際保健医療学会主催)
日本のグローバルヘルスに関係する学会の合同学術集会が下記日程で開催されます。渡航医学に関する特別講演やシンポジウムが数多く予定されています。日本渡航医学会の会長は当センター教授の濱田が務めます。多くの方々の参加をお待ちしています。
・日時:2017年11月24日(金)~26日(日)
・会場:東京大学・本郷キャンパス
・プログラムや参加方法はグローバルヘルス合同大会のホームページをご覧ください。
 http://www.pco-prime.com/globalhealth2017/