新春トップインタビュー:日本旅行業協会会長 田川博己氏
旅行業の基盤を見直し、仕掛ける1年に
リスク対策はコストでなく「投資」
―2016年はテロや天災、情報流出など様々なリスクが表出しました
田川 常にリスクはある。テロや天災についていえば、安全は保証できないものの、安心は保証できる。そのためには、やはり添乗員や斡旋力などお客様をちゃんとケアできる体制が大事だ。FITにはそれがない。パッケージの価値をもう一度再認識してもらうためのアピールが必要だと思う。
同じパッケージツアーでも、最近は添乗員付きの旅行が増えている。また、欧州でテロがあった際、空港でテレビのインタビューを受けたお客様が「僕は添乗員付きのツアーだから大丈夫」と答えられていた。これまでは安全といえば保険だったが、これからは旅行中の安心感のために添乗員の価値が評価されるようになるのではないか。
そうしたなかでは、繰り返しになるが企画力、提案力、斡旋力、添乗員力がトータルで我々の現場力となる。現場力がないものに安心は生まれないと思っている。はっきりいって日本を含めて絶対に安全なところなどないわけで、安心して旅行をできることが大事だ。
インバウンドを含めて、もし何かあっても無事に帰ることができる、というようなリスク管理はある意味では旅行会社の役割、機能であり、今年はより取り上げて強化していく。会員会社にとっても金のかかる話だが、これをコストと見ていると生き残れないだろう。サイバー攻撃対策なども同様で、投資と考えて、それに見合ったものをお客様から頂戴しなければならない。
―アウトバウンドとインバウンド、双方向の成長へ向けた課題とチャンスはどのようにお考えですか
田川 インバウンドは2020年に4000万人とすると、これからの4年間であと1600万人、毎年400万人ずつ増やさないといけない。少なくとも19年と20年はオリンピックなどの効果があると思う。18年にはまず3000万人を目指し、17年と18年にどのくらいの数字を作れるかということが1つのポイントになるかと思う。
課題としては、まずアジア以外の地域に対するマーケティングが不十分だ。また、地方分散もこれからの課題だ。さらに、FIT化への対応というのは事業者の課題として大きくのしかかってくるだろう。
そうしたなかで、例えばアウトバウンドで「ヨーロッパの美しい村30選」をしたが、日本版をやってもいいかもしれない。日本政府観光局(JNTO)と日本観光振興協会と三位一体で取り組むと決めたわけで、ツーリズムEXPOジャパンの期間だけでなく共同でやっていく流れを作りたい。
アウトバウンドについては、JATAとしては、18年までに2000万人を目指し、インバウンドの3000万人を加え、“相互交流” 5000万人を目指したい。すでに双方向で約4000万人が日本の空と海で行き来していて、海路には限界があるなかで、今後の航空座席をどのようにバランスを取るのかという点が課題となろう。
例えば地方創生にはインバウンドだという話になると、必ず地方の出国率に話が及ぶだろう。大臣会合などの関係がある韓国、中国、あるいは台湾については政治課題もあるわけで国には是非取り組んでほしいと思う。
また、テロで打撃を受けた地域への送客にも取り組む。16年は10月と12月にパリに行ったが、率直な感想として「パリに勝るものはなし」と言いたくなるほどの魅力を備えている。また、ルーアンにも行って、モネが描いた大聖堂なども見てきた。そして、改めてフランスが持つ魅力をまだ十分に引き出せていないと感じた。
お客様がパリに行きたいからパリの商品だけ作ろうというのでは旅行会社の名に恥じる。そういう意味で、旅行会社という業種について代理店ではなく、「旅行会社」として再生し、真価を発揮する、そういう17年にしたい。
―ありがとうございました