海外医療通信2016年4月号【東京医科大学病院 渡航者医療センター】
※当コンテンツは、東京医科大学病院・渡航者医療センターが発行するメールマガジン「海外医療通信」を一部転載しているものです
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東京医科大学病院・渡航者医療センター
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・海外感染症流行情報(2016年4月)
(1)中国で黄熱の輸入症例が増加
中国で黄熱の輸入症例が3月以降、増加しています。4月末までに患者数は11人にのぼっており、いずれの患者もアンゴラに滞在していました(WHO 2016-3-29, 4-6, 22)。アンゴラでは昨年12月から黄熱の流行が発生しており、4月中旬までに1700人以上の患者(死亡238人)が確認されています(WHO 2016-4-13)。今回の中国の輸入症例は、ほとんどが首都のルアンダ周辺に滞在しており、黄熱のワクチン接種を受けていませんでした。この事例以外にもアンゴラでは中国人6人が黄熱で死亡した模様です(Europe CDC 2016-4-1)。なお、アンゴラからの輸入症例はケニア、コンゴ民主共和国でも増加しています(WHO 2016-4-6, 11)。
黄熱はネッタイシマカに媒介される感染症で、ワクチン接種により予防することができます。現在、アンゴラに入国する際にはワクチン接種証明書の提示が要求されます。なお、今回の中国の輸入症例のうち7人は福建省で発病しています。この地域は夏になるとネッタイシマカが発生するため、今後も輸入例が増加する場合は、中国での国内流行への警戒が必要になります。
(2)東南アジアでのデング熱流行状況
マレーシアやシンガポールでは1月以来、デング熱の流行が発生していましたが、4月になり患者数は減少傾向にあります(WHO西太平洋 2016-3-8)。両国とも今年の累計患者数は昨年よりも多く、シンガポールでは過去5年間で最も患者数が多くなっています。その他の東南アジア諸国でも、これから本格的な雨季を迎えるため注意が必要です。
(3)サウジアラビアでのMERS患者の発生
中東のサウジアラビアでMERSの患者発生が続いています。3月中旬から1か月間の患者数は26人で、2月に集団感染が発生した同国中部のBuraidahでも10人の患者が確認されました(WHO 2016-4-14, 22)。前月の患者数(53人)に比べると減少していますが、感染源となるラクダに近づかないなどの注意が引き続き必要です。
(4)東アフリカでコレラの流行が拡大
タンザニアで昨年12月からコレラの流行が発生しています。4月末までに患者数は全土で2万4000人にのぼっており、うち378人が死亡しました(WHO 2016-4-22)。隣国のケニアでも1万人以上の患者が発生している模様です(ProMED 2016-4-5)。東アフリカは6月頃まで雨季になるため、さらに流行が拡大する可能性があります。夏休みにはケニアやタンザニアを訪問する日本人旅行者が増えますが、飲食物には十分な注意をしてください。
(5)西アフリカでのエボラ熱の大規模な流行は終息
WHOは3月29日にエボラ熱に関する国際会議を開催し、現在の西アフリカの状況は2014年8月に発表された「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」にあたらないとの見解を発表しました(WHO 2016-3-30)。西アフリカでは3月以降もギニアやリベリアでエボラ熱の患者が発生していますが、以前のような大規模な流行はみられていません(WHO 2016-3-22,4-1)。
(6)ジカウイルス感染症の流行状況
中南米などで発生しているジカウイルス感染症の流行は4月も拡大しており、流行国(地域を含む)は66か所となりました(WHO 2016-4-21)。ただし、3月末の時点での流行国は61か所だったので、拡大の速度は落ちている模様です。4月中旬にはベトナムのホーチミンなどで国内感染例が発生しました(WHO 2016-4-12)。
なお、米国CDCの調査によれば、今年の2~3月に流行国に滞在した旅行者4534人(このうち3353人は妊婦)の血液検査を行ったところ、4%の旅行者にジカウイルスの感染が確認されました(米国CDC-MMWR 2016-4-13)。また、米国CDCはジカウイルスの感染が胎児の脳に異常をおこすことを正式に認めました(米国CDC 2016-4-13)。このように、流行国でジカウイルスに感染する頻度は比較的高く、また、妊婦が感染すると胎児の脳に影響を及ぼす可能性があるため、妊娠している女性は流行国に滞在するのを極力控えるようにしてください。
・日本国内での輸入感染症の発生状況(2016年3 月7日~2016年4月7日)
最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査を参考に作成しました。出典:http://www.nih.go.jp/niid/ja/idwr.htmll
1)経口感染症:輸入例としては細菌性赤痢4例、腸管出血性大腸菌5例、腸・パラチフス5例、アメーバ赤痢6例、A型肝炎9例、ジアルジア1例が報告されています。腸チフスが5例と前月(1例)より増加しており、4例がインドでの感染でした。
2)蚊が媒介する感染症:デング熱は輸入例が33例で、前月(12例)より大きく増加しました。感染国はインドネシアが20例と6割を占めています。また中南米での感染が4例(ブラジル2例、パラグアイ1例、グアテマラ1例)と増えています。マラリアは6例で、このうち5例がアフリカでの感染でした。ジカウイルス感染症は3例報告されており、感染国は全例が中南米(ブラジル2例、ブラジル以外1例)でした。
・今月の海外医療トピックス
1)4月25日は世界マラリア・デー
2000年4月25日にナイジェリアでマラリア撲滅会議が開催されたことを記念し、WHOはこの日を世界マラリア・デーに指定しています。
WHOの2015年のレポートでは、全世界でマラリアにより1年間で2億1400万の患者と43万8000人が死亡しています。ここ数十年でマラリアコントロールは前例のない成果をあげ、2000年以降マラリアによる死亡率は低下しています。また同レポートでは、2014年に土着のマラリア患者の報告がゼロとなった国としてアルゼンチン、コスタリカ、イラク、モロッコ、オマーン、パラグアイ、スリランカ、アラブ首長国連邦の8カ国があげられています。最近は、BOPビジネスにより、アフリカやアジアなどの最貧国の市場も注目されるようになってきました。そのような地域では、マラリアは現実的な問題であり必要な対策が求められることになります。兼任講師 古賀才博
参考:http://www.who.int/mediacentre/news/releases/2016/world-malaria-day/en/
2)性行為によるジカウイルス感染を予防するには
ジカウイルスは蚊に媒介されるだけでなく、男性感染者の精液にウイルスが潜んでいることがあるため、性行為でも感染します。今までに米国やカナダなど8か国で性行為によるジカウイルス感染が確認されています。このため、流行地域に旅行や出張で滞在した男性は、ジカウイルス病を発症していなくても、帰国後は安全な性行動(コンドームの使用など)をとるか性行為を自粛してください。日本の国立感染症研究所はその期間を「一般の旅行者は帰国後4週間」、「パートナーが妊婦の場合は妊娠期間中」と発表しています。
参考:http://www.nih.go.jp/niid/ja/id/2358-disease-based/sa/zika-fever/6372-zikara-5-160405.html
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