HIS、中国のOTAと合弁会社-訪日旅行など中国人の取込強化
エイチ・アイ・エス(HIS)と中国のOTAである同程国際旅行社有限公司(LY.com)は11月4日、合弁会社の設立に合意し、基本合意書を締結した。HISは新会社により、訪日旅行を中心に中国人旅行者の取扱拡大をはかる。また、LY.comはHISの海外拠点の観光素材を活用するとともに、中国人観光客に対するさらなるサービスの強化をめざす。11月中に日本で新会社を立ち上げ営業を開始する予定で、名称は「LY HISトラベル」となる見込み。HISによると、第3種旅行業を取得する計画だ。
両社によると、合弁会社は「観光素材の仕入れ拠点」との位置づけで、中国人の訪日中国人旅行者向けには、HISグループで訪日旅行を専門に取り扱うジャパンホリデートラベルから日本国内の観光素材を仕入れるほか、HISグループのハウステンボスやウォーターマークホテルなども活用する。また、中国人の日本以外への海外旅行向けには、HISの62ヶ国で展開する海外現地法人から旅行商品や観光商材を提供してもらう。さらに、訪中日本人旅行者向けに、LY.comから中国国内の商品の仕入れもおこなう。
新会社では仕入れた商材について、まずは2016年度上半期からBtoB事業として中国のOTAを始めとした旅行会社などに卸売していく。ジャパンホリデートラベルによると、現在、日本の観光素材を中国のOTA向けに販売しており、中国の全OTAが取り扱う商品の8割を占めている。新会社では現在の販路を活用しながら、中国のOTA以外の旅行会社にも販売する。さらに、両社のウェブサイトなどの販売チャネルを使ったBtoC事業も近い将来展開する計画だ。このほか、訪日中国人向けのコールセンターも24時間体制で運営する。
新会社の出資比率はHISが40%、LY.comが60%。代表取締役社長はLY.com海外目的地項目部CEOの魏慶鋒氏が務める。また、ジャパンホリデートラベル代表取締役の呉煜康氏が役員に就くほか、同社のスタッフも20名ほど新会社に出向する。
LY.comは2004年創立のOTAで、中国旅游研究所によると中国の旅行会社のなかでは第9位、OTAとしては第3位の規模。同社のアプリは15年9月末現在で8億回以上ダウンロードされている。観光地の入場券の予約数はオンライン業界でトップで、クルーズ旅行の年間取扱人数は中国旅行業界で第1位。また、中国のウェブチャットアプリ「WeChat」に独占的に航空券や中国国内の高速鉄道の販売サービスを提供している。
同日に開催した記者発表会でHIS代表取締役社長の平林朗氏は、合弁会社設立の理由の1つとしてLY.comの高い成長率を挙げた。LY.comによると、15年の取扱人数は1億人、流通額は300億元(約6000億円)を超える見通し。また、営業収入は14年は7億7000万元(約354億円)だったが、15年は57億元(約1140億円)、16年は165億元(約3300億円)、20年は826億元(1兆6520億円)を見込んでいる。
HISの海外支店での日本発の旅行者の受入事業と、支店が独自におこなう海外発のアウトバウンド事業、ミキ・ツーリストなどの関連会社の海外事業を含む「海外事業」の売上高は年間約2000億円。同氏によれば、ハワイやヨーロッパなどでの日本発旅行者による収入が大半を占めており、中国人の取り扱いはまだわずか。合弁会社により中国人のFITという、HISにとって「新しいターゲット」の取り込みをはかる。
平林氏は、新会社は「両社をつなぐ役割を持つ」と語り、明確な数字は明かさなかったが、新会社設立でHISのビジネスに「大きなインパクトがある」と語った。ジャパンホリデートラベルの呉氏も「HISは(日本への)FITの受け入れが強いが、中国国内ではまだ活かしきれていない」と話し「LY.comの特徴はFITに強いところ。合弁会社により、HISの持ち味が効果的に活かせるのでは」とメリットを強調した。
また、LY.com代表取締役社長の呉志祥氏は、中国の経済成長は中国人の消費が牽引しており、なかでも「旅行、観光が大変重要な要素となっている」と説明。特に、1980年代、90年代生まれの中国人を中心に、旅行により見聞を広めることは「必須という意識まである」と話し、今後、中国の経済成長率が低下しても旅行市場の成長は続くとの見通しを示した。今後はレジャー需要の取り込みに注力していく方針で、「世界中にさまざまな旅行商品を提供し、高い能力をもつHISの力を借りつつ、サービスの質を高めていきたい」考えだ。