観光立国推進ラウンドテーブル 参加者一覧と問題意識
参加者が発表した観光産業に対する問題意識(1)
大西雅之氏
鶴雅グループ代表
実際の観光産業が社会にどれくらい認識してもらっているか。旅行業と宿泊業だけでなく、情報、娯楽、サービス、運輸など、人が行き交うところはすべて観光産業に入る。広い範疇の業界であることを、もう一回組み立てなおす必要があるのではないか。
宿泊施設は毎年1000軒、2000軒単位でなくなっている。これは国民の「ノー」の表れだと思うが、私は日本のもてなしは世界に誇る商品であると思っている。このもてなしに対する報酬を払っていただける企業水準になり、販売価格もそれに伴ったものにならなくてはならない。宿泊産業の再構築を議論したい。
越智良典氏
株式会社ユナイテッドツアーズ 代表取締役社長
国際競争力の観点で問題提起がある。韓国やイギリスなど、諸外国では国家戦略で、サイモン・アンホルトの国家ブランド指数を導入している国がある。指数は「輸出、観光、文化、国民性、投資、遺産」という6つの要素で構成されるもので、それに基づいて観光戦略を作っており、競争をする中では日本も同じような形で共通の目標を作っていく必要がある。
安心安全の問題も重要。アルジェリアの人質事件では政府救援機が使用されたが、観光客が同じような事件に巻き込まれたときでも同様だろうか。いままでは自己負担で運営されている。本当に観光が重要な産業で、国のブランドに役立つと認識されているのか、今後は国の委員会等に切り込んでいきたいと思っている。
恩藏直人氏
早稲田大学 商学学術院 教授
人材育成ではどこの大学でも産学連携を進めており、「ランチパック」という商品開発などの成功例もある。化粧品業界、自動車業界、食品業界、いろんな企業とかかわる。そこで学生は当然、その業界、業態に興味を持つ。業界が大学に目を向け、単なるインターンではない深く踏み込んだ形で産学連携ができればと思う。
マーケティングの点では、観光産業は本当の意味のマーケティングを導入が必要だ。消費者調査や販売や営業への活用という、偏った分野での考えになっている。ぜひ、観光業界でも本来のマーケティングの役割、重要性を認識してもらえればと思う。
菊間潤吾氏
一般社団法人日本旅行業協会 会長
株式会社ワールド航空サービス 代表取締役社長
「観光立国=訪日強化」だけで議論が進んでいるが、2ウェイ・ツーリズムの確立は非常に重要。相互交流という観点で議論してほしい。旅行業界としては観光立国実現の中核として、エンジン機能をしっかり果たしたいと考えている。
旅行業界全体の課題としては経営基盤の強化だ。現行の法規制が国際競争の力をそいでおり、経営基盤を弱体化する方向性になっていると考える。例えばアウトバウンドでは取消料規定や日本独自の旅程保証制度があり、グローバルスタンダードから程遠い位置にある。インバウンドでは認証制度をつくるべきだ。JATAでは一定のハードルをクリアした事業者を認証して日本のクオリティのある旅行をプロモーションしていく方針だ。
佐藤真一氏
社団法人日田市観光協会 事務局長
観光立国といわれて久しいが、観光協会の立場で見るとなかなか進んでいない。戦略と組織が回っていないからだと認識している。また、産業として着地型は儲からないと言われるが、本気で取り組めば儲かると思う。利益を出す企業の増加の積み重ねで産業になると思っている。観光立国の振興でも産業のビジネス感覚という意味でも、新しいプレイヤーや意識改革、そして、それを支えるために人材育成も必要用件だ。
現場から思うのは、観光振興には地域がかかってくるが、地域は非常に扱いにくい。「観光・街づくり」とくくられ、定住人口と交流人口を増やすという大きな目標を掲げた以上、地域をどうコントロールしていくかは、大きな課題だと思う。
伊達美和子氏
森観光トラスト株式会社 代表取締役社長
観光を産業として発展させるためには観光業の価値を社会的に共有する必要がある。観光は投資産業であり、経済波及効果が生まれる。労働集約型で、雇用が創出される。付加価値産業であり、成熟社会に提供できものがある。そして地場産業という意味で、地域の経済発展で重要な位置にあることを共有することが大切だ。
一方で事業者側も体質強化に努力すべき。目標に達成するための戦術、戦略を練ることが経営である。予算の積み上げの結果、こうなったという結論が多いようだ。数字のメカニズムの因果関係が理解できるような教育のしくみが必要だ。
そして観光産業は投資産業であるが、投資できる余力がない旅館・ホテルが多い。投資が適うような税制の補助制度等を作ってほしい。
>>次ページは各参加者が発表した産業産業に対する問題意識(2)
>>イベントレポート「観光立国10年の課題-産業全体の問題点と課題を議論」本文はこちら