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大幅なキャンセルなし、安全の再徹底へ気運高まる-座礁事故後クルーズ販売

  • 2012年2月28日

さらなる成長のため、今一度安全確認を

クルーズは年々大型化し、昨年は22万トン超の客船が就航。乗客・乗組員あわせ定員は7500人以上だ では実際のクルーズ販売状況には、どのような影響があるだろうか。次にクルーズ商品を取り扱う旅行会社に聞いてみた。

 クルーズネットワーク代表の稲葉英雄氏は事故後の予約状況について、「若干のキャンセルが見受けられたが、その数は思ったほどではなかった」と語る。また、「今度乗る予定の客船では避難訓練はあるのか、あるとすればいつするのか」といった安全に関する問い合わせが増えたとも述べる。ただ、こうした状況はあくまでもリピーターについての話だ。ちょうどこれからクルーズに参加してみようと考えていた顧客の思いを挫くことになったとしても、それは表には現れない数字となる。そこが今回の事故の怖さでもある。

 元々、同社では顧客向けの説明会でボートドリルについても触れていた。しかし、それはあくまでも乗船後に船上で行なわれるボートドリルを補完するものでしかない。「日本人コーディネーターや添乗員が乗船する船では、日本語による丁寧な案内が行なわれているケースもある。しかし日本人コーディネーターの有無で安全性に違いが生じてはならず、今後はすべての客船で日本語の壁を意識せずにできないものだろうか」と意見をのぞかせる。

 クルーズのゆたか倶楽部社長の松浦睦夫氏も旅行会社の立場から、同じような危惧を抱く。「申し込み後のキャンセルはたいした数字ではなかったが、申し込みそのものをやめていたとしたら、実際に減った人数はわからない」。

業界向けの船内見学会なども活用して、船内設備を自身の目で確認したい  さらに事故を教訓とし、船会社には安全面の一層の強化を求めたいと語る。「クルーズ客船は大型化の一途をたどっている。もう一度大きな事故が起きる前に、安全についての意識を大いに高める必要があるだろう」(松浦社長)。

 確かに20年前のボートドリルはライフジャケットを持ち、多少の雨風があってもいざという場合に自分が乗り込むテンダーボード乗り場へと集合。そして係員が点呼を取るのが普通だった。それがいつのまにかライフジャケットを持参しなくてもいいようになり、集合場所も屋内のホールなどで済ませるようになった。そのため収納場所、集合場所を知らないまま下船する乗客も多くいるという。これではせっかくの安全策が無駄になってしまう。安全に対する意識を高めるためにも、堅実な方法をとるべきだ。

 コスタ・コンコルディアの事故後、安全性を高めるための動きは各方面で高まっている。大手クルーズ客船運航会社が加盟するクルーズ・ライン・インターナショナル・アソシエーション(CLIA)では、ボートドリルを出航前に実施することを義務付ける議論がされたり、EUでもさまざまな安全策が議論されている。不幸にして起こってしまった事故だが、これを契機に安全で素晴らしい船旅の良さを、より一層万全なものとしてほしい。




取材:竹井智