travelvision complimentary

ハウステンボス、澤田秀雄氏の挑戦-「未来都市」の実現に向けて(その1)

  • 2011年8月9日
2200億円を投じたインフラはさすがに見事

 2011年9月期中間期(2010年10月~2011年3月)で初めて黒字転換を果たしたハウステンボス(HTB)。初期の設備投資や立地の悪さがネックとなって創業以来赤字が続いていた窮状をいかにして脱したのか。そして、東京ドーム33個分という広大なキャンバスに何を描こうとしているのか。HIS代表取締役会長であり、HTB代表取締役社長として再建に向けて舵を取る澤田秀雄氏に聞いた。

▽賑わい創出と満足度向上から取り組み

 澤田氏は、着任時がすでに「1回目の危機」であったと振り返る。HTBは1992年の創業以来、18年間連続で赤字を計上していた。また、年間400万人を目標としていた来場者数も、1996年の380万人をピークとして200万人にも達しない年が続いていた。

HTB代表取締役社長の澤田秀雄氏

 こうした状況下で澤田氏は、まず基盤となるテーマパーク事業の再構築に着手。敷地の3分の1を無料ゾーンとし、有料ゾーンでの“賑わい”の創出に取り組んだ。これは、いわば有料ゾーンの“人口密度”を高めようとするものであり、同じ来場者数であったとしても仮に面積が半分になれば、単純にそれまでの2倍賑わっているように見える工夫といえる。

 また、見かけだけの賑わいではなく、限定したエリアに経営資源を集中投下し、来場者の満足度の向上に努めた。具体的には、有料ゾーンでミュージカルなどのエンターテイメント、ショッピング、グルメを充実。また、園内で閉鎖され営業できていなかった地区のリニューアルオープン、人気マンガ“ワンピース”とのタイアップ、花火や宝探しのイベントなど、多様な施策を矢継ぎ早に展開した。

 このほかにも、園内の自動販売機の価格設定を園外と同水準にしてみたり、人気のない飲食店を大胆に切り替えたりと、様々な対策を講じた。この結果、2010年4月からの1年間で来場者数は前年比23%増の174万人と大きく増加。宿泊費を含めた1人あたりの単価は1万円となり、澤田体制以前と比較すると約2000円増加。そして、売上高は13%増の113億8400万円、営業損益は17億8000万円の赤字から19億1600万円と黒字転換し、経常損益、純利益も黒字化した。

▽震災でキャンセル1万数千件

 HTBでの取り組みが2年目に入ろうとした3月11日、東日本大震災が起きた。発生後1週間で1万数千件のキャンセルが発生し、HISによる経営権承継後初めて来場者数が前年を下回る。特に全体の2割を占める外国人来場者数は3月、4月ともにほぼゼロに低迷。震災を「2回目の危機」とすれば、夏を迎えた今、昨夏にその前年の2倍集客していた外国人の需要減は、いかに成長を維持するかという点で「3回目の危機」として眼前に控えているという。

 とはいえ、澤田氏の賑わいの創出と満足度の向上という基本的な戦略にブレはない。そもそも、HTBの現状について澤田氏は「施設の充実などにより、内容的には昨年より1.5倍くらい良くなっている」としつつ、「点数を付けるとすれば、サービス面、内容面、面白さ、イベントの大きさや良さを考えると58点くらい」と説明。「これが70点くらいになればお客様の満足度も上がる」との考えだ。

▽ターゲットごとに施策展開し需要喚起へ

人気の高い「サウザンド・サニー号クルーズ」の船内

 新生HTBの戦略の特徴の一つは、ターゲット層にピンポイントで訴求しようとする点だ。テーマパークとして基本の客層であるファミリーに向けてはワンピースとのタイアップや、子どもたちが水遊びをできる“水の王国”など。また、シニア向けには、世界各国のフラワーショーなどで受賞歴のある造園師が集まる“ガーデニング・ワールドカップ”を、さらに「最も弱い客層」(澤田氏)である20代前半の男性にはAKB48のライブを開催した。

 これにより、例えば“ガーデニング・ワールドカップ”を開催した2010年10月の来場者数は80%増となり、AKB48のライブも「平日の一番人が入らない時、予想を上回る人数が来場した」。

 今夏も、まずはファミリー層に向けて山本寛斎さんとのコラボレーションで“ハウステンボス日本一の元気祭り”を開催。山本さんが自らのショーで使用した巨大な水鉄砲“ガトリング砲”をアトラクションとして設置したほか、土屋アンナさんのライブなどを予定。このほか、7月と8月の“世界花火師協議会”海外予選大会、10月の“ガーデニング・ワールドカップ”なども開催予定。シニア層に対しては、今年から近隣の温泉地に片道500円で運行しているバスをアピールし、観光との組み合わせでさらに需要を喚起したい考えだ。  

HTBの未来像(記事の続き)は次ページへ>>