2011年の出国者数予測、2.3%減の1625万人に下方修正-シニアの回復遅れる
財団法人日本交通公社(JTBF)主任研究員の黒須宏志氏は、7月21日に開催された海外旅行動向シンポジウムで、2011年の海外旅行者数予測を前年比2.3%減の1625万人に下方修正した。2010年12月時の予想は4.0%増の1730万人。今回の数値は、日本経済研究センターが発表した2011年の実質GDP予想値を、GDPと延べ旅行者数との相関であてはめて導いたもの。東日本大震災後、ビジネス渡航がいち早く回復し、震災による企業の海外展開や復興需要などの後押しなどでビジネス需要が主導すると推測。ビジネス需要が牽引した2010年に、GDPと延べ旅行者数に強い相関が表れたことから、予想の根拠とした。
震災後、旅行需要は4月22日に底打ち宣言がされ、ゆるやかに回復をはじめ、マイナス幅は一ケタ減でとどまった。9.11やSARSなど過去の危機では20%減から50%以上の減少となり、発生から約2ヶ月後で回復基調に転化したことに比べると、今回の危機の影響は「はるかに小さい」と話す。その要因として、海外や航空機搭乗への不安がないことが「これまでとまったく違う」とし、海外への脱出需要、ゴールデンウィークの駆け込み需要が押し上げたほか、航空座席数の減少が10%減程度であったこと、現在の市場が経験値の高い旅行者(H層)の比率が高いため、危機に対する耐性があったと分析する。さらに、今回の危機は戻りが遅いといわれるが、脱出需要とGWの駆け込み需要がなければマイナス幅は10%減を超えており、この2つの要因で減少率が少なくなっただけと補足する。
▽旅行志向は衰えずも、シニア層は不安定な動き
今後の展開については、消費者の意識として「心理的ショックを受けたにもかかわらず旅行者数が微減であったことは旅行志向が衰えていない証拠と見るべき。自信を持っていい」と強調。ただし、生活を見直す動きが強く「消費は一過性のものから蓄積になるような消費傾向に変化する」として、旅行については「自分の経験を積み増すような動きが出るのでは」と予想する。
また、客層別では昨年6月から横ばいで推移するシニア層の回復が遅れると予想。「要因は釈然としない」としながらも、大きな政局の変化時にシニア層の出国者数が減少していることから、政治を含む先行見通し感の良し悪しが、シニア層の旅行意欲に影響を与えているとの仮説を示す。一方、リーマンショック後に顕在化した20代女性は、今後も出国率の上昇が期待できるとし、若年やミドル世代のH層がリードする形が続くと、オンラインへのシフトやFIT化が加速すると予想。間際化が進んでいるのも、FIT化が進んでいることの表われだとした。
このほか、今後の需要に影響のある要素として、景気は2011年の第4四半期から2012年の第1四半期に復興需要で伸張し、GDPが2桁伸びる予想もされている。インバウンドは本復には時間がかかるが、そのため航空座席の供給量はやや余裕のある状態が続くとした。また、燃油サーチャージは次の改定で1ランク下がる見通し。ただ、最近の旅行商品は総額表示が多いことから「消費者はそこまで気にしないのではないか」と話した。