現地レポート:カナダ・ケベック州、王道ルートの新たな魅力
「王道ルート」モントリオールからケベックシティ
ケベック州の新たな素材と魅力再確認
カナダ国内はもとより、北米でも唯一のフランス語圏、ケベック州。北米におけるフランス文化の継承地として誇りを持ち、またカナダ国内でも独特の歴史と文化を伝える地だ。観光的には隣のオンタリオ州からケベック州内のモントリオール、さらにはケベックシティを結ぶ「メープル街道」が最大の目玉であり、またカナディアンロッキー、ナイアガラの滝と並ぶカナダ三大素材のひとつとして、このルートは夏から秋にかけての主要エリアのひとつとなっている。メープル街道のケベック州エリア、モントリオールからケベックシティまでの魅力を改めて検証してみたい。
自転車でのシティツアーや産業史跡など
生活を感じる新素材が登場
「体験する旅」は、カナダ観光局(CTC)が特に主眼をおいているテーマの1つだ。ケベック州も「北米におけるフランス文化の地」「北米唯一のフランス語圏」「400年以上に渡る歴史都市・地域」といった、この地ならではの特徴を活かし、さまざまな体験プログラムを提供している。
ケベック州を訪れるにあたり、拠点の1つとなるモントリオールはトロントから飛行機で約1時間。ケベック市観光局では都市ならではの楽しみをアピールしつつ、平均1泊程度の滞在日数を伸ばすことを目的に、今年から新素材として「サイクル・ツアー・モントリオール」を開始した。
これはモントリオールの観光名所をガイドとともにレンタサイクルで巡るもので、所要時間は基本的に約4時間。要望に応じて1日のレンタルも可能で、市内や郊外のモン・ロワイヤルなどを自由に巡ることができる。「モントリオールはサイクリングロードが整備されているので、安心して回れる」と、ケベック市観光局日本マーケット担当マネージャーのマルク・アンドレ・ジェム氏。この自転車ツアーはJTBカナダとともに日本語の地図を作成し、同社が今年からこのサイクリングをツアーに組み込んだ商品を販売している。
また、モントリオールから車で1時間半ほどのローレンシャン地方では近年、南部のバ・ローレンシャン地域の体験型観光素材の開発に取り組んでいる。その1つがバ・ローレンシャン地方の町、サントゥスタッシュを中心とする農業体験ツアー「シュマン・ド・テロワール」で、今年からピーアールを開始した。
この地域は粉挽き工場「ムーラン・レガレ」をはじめ、産業史跡の歴史保存地区となっており、18世紀のスタイルそのままの粉挽きの様子や、リンゴ栽培とシードル製造をおこなう農場、ワイナリー、チーズ工房などが残る。車やレンタサイクルで同地を巡りながら、昔ながらの面影を残す、素朴なケベックの農業生活に触れられる。サントゥスタッシュは100室ほどのホテルがあるほか、18世紀建造の歴史的教会もあるので、1泊するのも面白い。
日本人が開発したモントランブランに新カジノ
大自然を満喫するリゾートも
モントリオールから、1時間半ほど北上すると、ケベック州ローレンシャン地方の人気リゾート、モントランブランに着く。週末になるとモントリオールをはじめ、近隣から大勢の人々が、夏はハイキングやトレッキング、冬はスキーを楽しむため訪れる。
モントランブランはケベック州政府観光局やホテルをはじめ、日本の旅行会社が25年ほど前にメープル街道の宿泊地として開発に携わった場所で、現地のホテル関係者などは今なおそのことを忘れていない。3週間程度の秋の紅葉シーズンともなると、モントランブランのホテルのほとんどが日本人で埋まり、「夏と冬の間を埋める日本人客の重要度は依然高い。多くの送客をお願いしたい」と、現地関係者は口々に語る。
そのモントランブランには2009年にカジノがオープンした。スロットマシーンは約500台、テーブルゲームは20台を擁し、ドレスコードの厳しくないカジュアルさがピーアールポイントの1つ。冬はスキーウェアのままで入ることができる。最上階にあるレストランは地元でも評判が高く、レストランの食事のみで訪れる客も多い。ランチや滞在時の夕食時の利用のほか、MICEなどでも利用可能なクオリティだ。
賑やかなモントランブランをあえて利用せず、大自然に囲まれたリゾート地に滞在するという提案もできる。ローレンシャン地方のバカンス・トランブランや、オーベルジュ・ラック・トウローは文字通り自然に囲まれたリゾート・ホテル。何もせず、または湖や川でのカヌーを楽しみながら、カナダらしい休暇が過ごせる。オーベルジュ・ラック・トウローはワイナリーが充実しているほか、ハイエンドの客層には、専用セスナでのアクセスという手段も提案可能だ。
またバカンス・トランブランには原住民アツカミック族の小屋があり、中で火を囲みながら鹿肉のシチューなど、ジビエを使ったケベック料理を味わえ、またカヌー体験はインストラクターとともに巡るので初心者でも楽しめる。
ケベックシティからは新観光列車が登場
トロワ・リビエールには5ツ星レストランも
「日本人にとっては、ケベックは長時間かけて訪れる地だからこそ、高品質の素材で旅を楽しんでほしい」と語るのは、ケベック州観光局のマーケットアドバイザーのエレーヌ・フォルティエ氏。そのカナダらしさ、ケベックらしさ、高品質を併せた素材の一つとして、この9月に誕生するのが、ケベックシティから北のラ・マルベを結ぶ観光列車「ル・マシフ・ド・シャルルボワ」だ。
これは8両編成、528人乗りの観光列車で、ケベックシティからセントローレンス川沿いを北上し、ベ・サンポール、ラ・マルベまで140キロメートルを片道約4時間で移動する。車内は広々とした車窓を擁するモダンなデザインで、ケベック州の食材を使った料理も味わえる。運行は通年の予定で、夏の新緑や秋の紅葉、冬は凍ったセントローレンス川など、季節ごとに趣の異なる景観が楽しめるのも魅力だ。
コースは基本的にケベックシティ/ラ・マルベの日帰りで所要8時間から9時間だが、ラ・マルベには4ツ星ホテルの「フェアモント・ル・マノワール・リシュリュー」があるので、周辺でのハイキングやトレッキング、ゴルフなどを楽しみつつ、1泊するのもいい。列車の降乗は自由なので、日程に応じて利用したい。人数のまとまった大型のインセンティブツアーでは列車または車両の貸し切りも可能だ。運行開始は9月9日からで、2012年10月までの運行予定が発表されている。
モントリオールから北上し、ケベックシティから30分ほどの街、トロワ・リビエールもケベックシティに次ぐ、同州では歴史ある街の1つだ。ここでお勧めしたいのはケベック州唯一の5ツ星レストラン「ポワーヴル・ノワール」での食事だ。モントリオールやパリ、スペインで修行を積んだシェフが創り上げる料理は、メープルシロップなどケベック州の味覚をふんだんに盛り込んだ上品で洗練された味わい。舌の肥えた顧客も満足させられるクオリティだ。
「メープル街道」は日本人が育てた観光地
先人の努力生かし意欲的なカナダ販売を
今や日本のみならず、世界の市場に対して訴求力を持つ「メープル街道」をはじめ、ピーク時は年間約60万人を数えた日本人観光客数も、バブルやリーマンショックなどの影響で一時は年間約15万人まで落ち込んだが、昨年は25万人まで持ち直した。
2011年、CTCは各州観光局との「チーム・カナダ」のもと、ホールセラーを中心に業界一体となって、高品質、長期滞在、体験、冬季販売を軸にマーケティングをおこなう予定だ。目標数値30万人は修正を余儀なくされるものの、その8割から9割の人数をめざしてプロモーションに取り組むこととしている。
「カナダは遠いからこそ、安売りをするデスティネーションではない。消費者に行った価値があると思わせる、クオリティ重視の方向で取り組んでほしい」とCTCのモリーン・ライリー日本代表が語るとおり、旅行会社はパッケージのほか、SIT向け、オーダーメイドなど、多様なニーズに対応しつつ、商品に「価格が高くとも、十数時間をかけて訪れる価値のあるデスティネーション」としての説得力を持たせることが必要だ。
カナダ商品の定番であるメープル街道も、先人の軌跡を忘れず、後進は歴史を受け継ぎ、現地がプロモートする新素材を活かしつつ、これからの時代やニーズに合った+αを加えるなど、「また来たい」と思わせる商品に育てていかなければならない。先人がカナダに築いた歴史を守りつつ、新たな商品を造成していく意気込みで取り組みたい。
ITツールをフル活用し、ピーアール活動
CTCではこのほど、QRコードを利用した「シグナチュール・エクスペリエンス・コレクション」をプロモーション・ツールの一環として開始した。
これはYouTubeの動画を利用したピーアールの取り組み。携帯電話やスマートフォンでQRコードを読み取りCTCのYouTubeサイトにアクセスすることで、カナダ各地の体験アトラクションの動画が見られるというもの。「カナダで何ができるかを実際に見てもらうことで、潜在需要に訴えたい」(CTC日本代表のライリー氏)。
この「シグナチュール・エクスペリエンス・コレクション」は一昨年にアメリカで始め、2010年にヨーロッパでも配信を開始したところ、ドイツでは開始1週間で1万5000アクセスがあったという。CTC日本では今年からこのQRコードを日本の旅行会社が製作する旅行パンフレットに掲載し「旅行業界に対するプロモーションとして、サポートしていきたい」(ライリー氏)としている。
またCTCでは販促ツールとして3Dを利用したプロモーションDVDも作成。映像はカナダ全国の主要な観光地の3D映像が揃っており、今後映画館の予告やピーアールイベントの際に上演していく予定だ。このほかFacebookやTwitterなど、インターネット上でのピーアールを積極的に展開。消費者との距離を密にすることで「カナダをより身近に感じてもらい、誘致に繋げたい」としている。
取材:西尾知子