東北観光復興へ(3):ボランティアツアー、応援ツアーの可能性
震災から3ヶ月が経ち、観光客誘致のプロモーションを再開する動きも出てきた。少しずつ観光客が戻ってきているものの、本来の姿になるにはまだ時間がかかるのは必至だ。受入側だけでなく、送客側の働きかけも必要だろう。その一策として期待されているのが、ボランティアツアーや復興応援ツアーだ。特に、ボランティア活動と観光を組み合わせたボランティアツーリズムは政府が推進しており、販売する旅行会社も増えている。日本旅行業協会(JATA)が実施したボランティア活動の様子を交えながら、旅行会社が取り組む意義と可能性を考えてみたい。
▽連載記事
東北観光復興へ(2):集客の現状と課題-送り手・受け手の意思疎通を(06.16)
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「地域が通常に戻らなければ観光客も戻らない」
日本旅行業協会(JATA)ではこれまで、東日本大震災の被災地でのボランティア活動を計3回実施しており、計140名ほどが参加している。6月5日の活動では、宮城県災害ボランティアセンターの協力のもと、東松島市大曲地区の住宅地で道路側溝や家屋床下の泥かき、作業場の部品洗浄といった作業をした。
一行は前日の夜に都内を出発。作業時間は午前9時ごろから午後2時30分ごろまでで、50分ごとに10分の休憩と1時間の昼食休憩をとった。ボランティアセンター側の担当となった国際福祉ネットみやぎ・21広報担当の菅野龍一氏によると、「何度も来ていただきたいので、体に無理のないようにしている」のだそうだ。
側溝の泥はコンクリートの蓋を2人1組でどかし、シャベルで掘り出して土嚢につめ、床下の泥は腰をかがめて少しずつかき出す。水分を含んだ土はずっしりと重いが、いずれも狭い場所での作業になるため、重機ではできない。専門技術を持たない一般の人の作業は、人の手でないとできないものを中心にお願いしているのだという。
参加者からは、「早く復興してほしいという思いで来た。3ヶ月経っているが、まだできることがたくさんある」(国内旅行企画担当:男性)、「残骸の片付けなど力仕事しかないと思っていたが、必要な作業は個々の家によって異なり、私にもできることがあった」(海外旅行手配担当:女性)など、参加したからこそ気付いたことがあるようだ。
活動を視察し、自らも作業をしたJATA前理事長の柴田耕介氏は、地域に支えられて観光地があり、それに旅行業が恩恵を受けている。地域が通常に戻らなければ観光客も戻らない」とした上で「これまでの感謝とともに、復興後にまた地域の恩恵を受けていくことを、作業を通じて感じてもらえれば」と、旅行会社がボランティア活動をする意義を語る。
宮城は1日4000人のボランティア
1000人は旅行会社経由
ボランティアツアーには当初、現地団体などの拒否反応もあった。しかし、柴田氏によると「現在は現地でも多くの人に来てもらいたいという考えが増えている」と状況の変化を説明。菅野氏も「ボランティアをしようと思う人の方が遠慮している」と話す。
ボランティアの参加者だが、一時に比べると減少している。菅野氏によると、宮城県ではゴールデンウィークは1日約2万人だったが、現在は約4000人。このうち、ツアーや企業や団体のボランティア派遣といった旅行会社経由の人数は1000人前後だという。ボランティアをする場合は各地のボランティアセンターへの申請が必要だが、ツアーや団体は事前にまとまった人数の参加が分かり、作業の予定が立てやすいという。
被災地域は沿岸部の広範囲におよぶが、宮城県では現在のところ東松島や石巻、気仙沼などボランティアを受け入れる地域を限っている。人の手を入れる前の、重機での作業が必要な地域は対象になっていない。菅野氏は「まだまだたくさんの作業が必要」とし、「ボランティアをしながら旅行を楽しめる部分を入れるなど、参加しやすい工夫をしてきていただけるとうれしい」と、ボランティアツーリズムにも期待を寄せる。
旅行会社の取り組み、広がるツアーとその課題
旅行会社での取り組みも強まっている。例えば近畿日本ツーリスト(KNT)では、ボランティアツアーや現地の「復興市」などに参加する応援ツアーを設定。また、日本旅行ではボランティアツアーのほか、ひたちなか海浜鉄道の運行再開日に車両清掃の手伝いと1番列車に乗車するツアーや、人気の「わさお」をからめた青森・弘前への義援金付きツアーなど得意分野をいかした商品を出している。クラブツーリズムでも松島でのユニバーサルツアー「ドリームフェスティバル」を発売するなど、各社の商品内容も多様化しているようだ。このほか、クラブツーリズムでは福島県のツアー造成も検討しており、内陸部など被害の大きくない観光地への送客を課題として取り組む意向だ。
申し込み状況だが、KNTの6月10日のボランティア3日間ツアーには48名が参加。また、復興市参加ツアーは5月分が約80名、6月下旬のツアーには約120名が申し込んでおり、今後も継続する予定だ。参加者からも「変な言い方だけど、楽しかった」「また行きたい」との評価があり、復興市ツアーは「年齢的にボランティアは無理だが、買物が支援になるなら」という声も多い。また、クラブツーリズムの宮城県でのボランティアツアーは、計10本の設定で現在まで約250名を集客。20代から50代の女性が中心で、日によってはキャンセル待ちがあるという。
KNT広報課によると、同社でボランティアや応援ツアーを企画するのは、ECC事業本部カンパニーの各支店が多い。「震災の影響を受けて、企業・団体の従来のツアーに代わるビジネス需要の可能性として、ボランティア活動をする人を被災地に送りたい需要を掘り起こした」としている。ただし、旅行会社としての被災地支援の観点もあり、その結論としてボランティアツアーや被災地での買物ツアーを企画化した。多くの人々を被災地に送り、支援の手伝いを果たせるという使命感もあるという。
長期間の継続に向けて
一方、課題もある。その一つが、観光付きのボランティアツアーの需要喚起だ。取材をした旅行会社に集客状況を聞いたところ、ボランティア中心のツアーは販売後まもなく定員に達するのに比べると、観光付きツアーは需要が低いという。ボランティアへの参加意欲のある人は、直接的な支援への思いが強いようだ。また、この状況下での観光を自粛する向きもあるだろう。現地の観光が楽しめることや観光自体も支援につながることを上手に伝えながら、参加者の考えを分析し、意向に沿って修正していくことも必要だ。
ツアーの収益の確保の問題もある。このヒントになるのが、岩手県北観光の「ボランティアツアーの考え方」だ。同社では5月末までに親会社の岩手県北自動車とあわせて、約3200名のボランティアを送客している。被災地事情に精通した旅行会社として地元のニーズをくみ上げたツアーとしており、旅行代金は「通常の旅行と同様に参加者から費用をいただく」ことを表明。「経済的に成立する取り組みだからこそ長期的な継続が可能であり、被災地の復興に役立つ」としている。地元での宿泊のほか、観光客減少の影響を受ける土産物店への弁当の発注、地場産品販売店への立ち寄りなど、岩手への思いやりを念頭に企画をしており、地元の観光関係者からも継続した取り組みを望む声が多いという。
岩手県北観光によると、被災地域の旅行需要は6月に入って少しずつツアーの申し込みが入っているものの、それまでは観光ツアーはほとんどなかった。県内の居住者は自粛傾向が強いといい、被災地外の需要を送ることは重要だ。同社は東京発着のバスツアーだが、札幌や鹿児島、さらにソウルやシンガポールからの参加もあったという。ボランティアツアーや応援ツアーは総数から見れば少数かもしれないが、東北への送客を継続し、復興につなげる強い気持ちで取り組み、現地と自社に還元できるような収益を確保したい。