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東北観光復興へ(1):仙台、松島、平泉・視察レポート-通常観光が可能

  • 2011年6月15日
松島の遊覧船発着所。JATA視察の一行以外の観光客の姿も多い

 東日本大震災から約3ヶ月の6月5日、日本旅行業協会(JATA)は各国大使館と外国航空会社、政府観光局の希望者を募り、1泊2日の東北視察を実施した。仙台市内観光に欠かせない仙台城跡と、日本三景に数えられる松島、世界遺産入りが期待される岩手県平泉町の中尊寺と毛越寺といった文化遺産を視察し、仙台市の秋保温泉に滞在。いずれも、一般の観光が可能な状態にあるが、津波の被害が大きいエリアに隣接する松島、沿岸部に近い仙台城跡と、内陸部の平泉では状況が異なる。視察旅行に同行して見た観光地の状況とその後の追加取材を交え、レポートする。(全3回の掲載予定)


仙台城跡:崩落した石垣があるも入場可能

場内の建物の一部は修復中のものもあるが、営業している

 改めて述べるが、今回訪れた観光地はいずれも一般観光が可能である。ちょうど新緑の美しい時期だったこともあり、すがすがしい東北の魅力を肌で感じながら、自然と歴史・文化に触れる旅行を楽しむことができた。もちろん、東日本大震災の影響が目に入る箇所もある。ただし、その程度は各地で異なるので、観光地ごとに把握することが必要だ。一つの場所の状況が、東北全体に同じではないことを強調しておきたい。

天守台の石垣の一部は崩落の危険があるため、立ち入り禁止に

 さて、仙台城跡では一部の石垣が崩れたため、道すがら、崩落を防ぐためのブルーシートがかけられているのが目に入る。また、見もののひとつである伊達政宗の騎馬像へ行く際に脇を通る昭忠塔は上部が崩壊しているし、市内を見下ろせる天守台の石垣付近は崩落の危険を回避するため、一部に立ち入り禁止の柵が作られている。しかし、眺望は楽しむことができ、見晴らしは変わらない。場内は一部、修繕中であったり、休業する店舗もあったりするが、営業する店舗の方が多く、青葉城資料展示館も見学が可能だ。甲冑を着た伊達武将隊も写真撮影などで観光客を盛り上げている。

循環観光バス「るーぷる仙台」が仙台城跡への運行を6月1日から再開。満員乗車で観光客を降ろした

 また、秋保温泉は震災後に休業した旅館もあったが、秋保温泉旅館組合によると現在は加盟する宿泊施設はすべて営業している。しかし損壊している施設があるほか、地元産の食材が仕入れにくい状況がある。また、被災地の支援隊やボランティアを受け入れる施設もあるため、こうした内容はいずれも各施設に直接確認する必要があるとしている。

秋保温泉の旅館「左勘」

 なお、仙台市は沿岸部を中心に大きな被害を受けているが、現在の仙台駅前は人が行き交い、通常通りの様相だ。仙台駅から仙台城跡へ向かう途中に工事現場があったが、これは地震前に着工されていた地下鉄東西線の工事で、作業が再開されたという。仙台城跡の下に広がる青葉山公園には運動をする学生や地域の人々で賑わっていた。東北随一の都市に日常生活が戻っていることを感じて力強く思うとともに、被災地域と寄り添いながらも復興が進んでいることを実感する機会になった。


松島:観光船は定期運航再開、観光客も戻り始める

松島観光船の大型船。乗船している観光客の姿も見られる

 松島では、観光船をはじめ五大堂や瑞巌寺も通常通りの観光が可能だ。メインの観光船は4社のうち2社が運航を再開しており、今回乗船した松島島巡り観光船企業組合では、大型船の定期コースも震災前と同じ9時から16時まで、定時発で運航。団体向けの大型船、中型船、小型船の運航も再開している。景勝をつくる島々の損壊が気になるが、「影響が分かるのは我々でも2ヶ所くらい。普通のお客様には分からないだろう」(同企業組合理事の色川浩二氏)というとおり、乗船中も素晴らしい景色が楽しめた。

五大堂も通常通りの観光が可能

 ただし、大高森コースは津波による瓦礫が片付いていない区域があるため、運航を中止している。また、沿岸の国道45号線に立ち並ぶ土産物や飲食店には、損壊した店舗もあり、休業している店舗も目立つ。松島観光協会によると、店舗は少しずつ再開し、観光客の状況を見ながら営業。そのため、平日は閉めていても週末はオープンする店舗もあるという。

沿岸の国道45号線。土産物店も営業を再開してきているという

 今回訪問したのは6月6日月曜日の午前中。駐車場には観光バス2台が停まっており、観光を楽しむ人の姿が見られた。松島観光協会によると、ゴールデンウィーク(4月29日から5月8日)の観光客数は5万1300人で、前年の4分の1程度だったが、現在は観光の問い合わせが増えてきたという。5月28日に仙石線が高城町まで復旧したことに伴い、個人客を中心に戻ってきているといい、「遊覧船の乗船状況は運航当初の倍くらいに戻ったのでは」と、回復の兆しを話す。


平泉:中尊寺、毛越寺は地震の損壊なし

中尊寺金色堂。震災による損壊などはない

 一方、内陸部の岩手県平泉は震災による損壊などの被害を受けていない。平泉町観光商工課もまったく影響がないと説明する。中尊寺や毛越寺の観光中にも、観光地そのものに震災による影響を垣間見ることもなかった。観光客向けの売店も通常通りの営業をしている。被災を免れた観光地を結べば、震災の影響を感じずに旅行もできることが分かる。

境内にある白山神社。新緑のなかの散策は気持ちがいい

 ただし、観光客の減少という点では、仙台や松島と共通している。特に中尊寺と毛越寺には駐車場に団体バスがなく、観光中、団体客とすれ違うことはなかった。6月6日月曜日の午後3時ごろの訪問だったためかもしれないが、一般観光客は個人客のみ。平泉町観光商工課によると、震災後の観光客は激減しており、ゴールデンウィーク(4月29日~5月5日)は前年比85%減。外国人観光客はほとんど訪れなくなったという。

中尊寺近くの駐車場。6日月曜日の16時ごろ

 訪問者数の減少は、毎年20万人を集客していた5月3日の「東くだり行列」が中止になったことが影響しているというが、その反動を差し引いても5割程度。また、修学旅行の訪問も多いが、半数を占める北海道からの修学旅行が今年度、東北ではなく北海道内での実施になったことも影響している。

 なお、各観光地の状況は刻々と変化している。次回は、各地の復興へ向けた取り組みをレポートする。

取材:本誌 山田紀子