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現地レポート:西オーストラリア州、大地がもたらす教育旅行の魅力

  • 2011年4月22日
西オーストラリア州を学校教員と視察
大地に触れる教育旅行に産業ツーリズムの要素も


 教育旅行で人気のオーストラリアの中でも、大陸の半分を占める西オーストラリア州にはユニークな教育旅行の素材が豊富だ。大地は金や鉄鉱石といった天然資源の宝庫であり、自給率230%を支える巨大な食料庫でもある。日本との関係も深く、実は讃岐うどんに使われる小麦の9割は西オーストラリア産だ。この州を訪れると日本人に身近な製品の出所に触れることができ、おのずと「産業ツーリズム」の要素が加わるのが面白い。州都パースにとどまらない西オーストラリア州の魅力を、中学・高校の教員13名とともに視察した。
                      
                        
何もかもビッグなファームステイ
一大産業としての農業を実感


 ファームステイはオーストラリアの教育旅行で注目の要素だ。今回はパースから車で約3時間の内陸部にある、ケレベリンという地域を訪れた。巨大な農機具で展開する大規模農業は圧巻。特産は粘り気に富んだ白い小麦で、輸出先の第1位は日本だという。大麦などその他の穀物生産や、羊の飼育も盛んだ。

 参加者達はホストファミリーの歓迎を受けると、地平線まで続く敷地や、そびえ立つ穀物貯蔵庫を見せてもらった。また、温かい家庭料理や池でのエビ釣り、乗馬、カンガルー探し、スコーン作り、岩登り、星空鑑賞などで、素朴かつ雄大なオーストラリアの「田舎」を味わった。初めてファームステイをしたという教員は、「ホストの懐の深さに触れ、最後は涙のハグとなった。生徒たちにも農村や人間同士の根源的な交流を体験させたい。海外でできると視野が広がり、言葉の苦労があるだけに感動的」と印象を語る。

 ケレベリンのファームステイは旅行会社と地元のボランティアの女性が協働で紹介しており、現在登録しているのは80家族。商業主義に捉われない、ありのままの暮らしぶりを体験できる。過去には最大300人の修学旅行生を受け入れているが、ベストサイズは120人程度。1家族に2、3人ずつ、2泊または3泊が一般的だ。ベストシーズンは7月から9月。一面の牧草が青々として美しく、冬とはいえ寒すぎないため、羊の世話やフェンス作りなどの屋外作業を快適に楽しめる。

 一方、11月から2月は気温が46度にものぼる上、収穫の終わる2月頃はアクティビティも少ない。満足度を高めるには、最適な時期を選ぶことが重要だ。ベストシーズンの7月から9月は日本の夏休みにあたり、語学研修とあわせて活用したい。11月からの修学旅行シーズンには、内陸部ほど気温が上がらない州南部でのファームステイということも考えられる。



空前の資源ブームと驚異の自然
大地を感じるワイルドなドライブ


 広大な西オーストラリアでは距離の長い行程を詰め込まず、ポイントを絞るのがおすすめだ。もっとも移動時間は、車窓からこの土地の豊かさを知る良い機会ともなる。現在の西オーストラリアは天然資源による好況に沸き、人口が増え、発展の勢いに満ちている。住宅地を抜けながら、今回のガイドは高騰する給与水準や家の価格を教えてくれた。麦畑の彼方に風力発電所が見えれば、食料やエネルギー自給への取り組みを発見するきっかけにもなる。

 そんな風景を眺めながらパースを北上する道中には、教育旅行に適した素材が点在する。参加者に好評だったのは、オーストラリアの動物達と触れあえるパース郊外の「カバーシャム・ワイルドライフパーク」だ。園内で生まれたコアラやカンガルーは人に慣れており、撫でたり一緒に写真を撮ったりできる。オーナーは親日家で、団体にも柔軟に対応する。

 パースから車で約3時間のナンバン国立公園は、太古の奇岩群「ピナクルズ」がつくりだす不思議な景勝地。風化が進み、50年後には見られないともいわれている貴重な地形だ。まるで異世界に入り込んだようで一見の価値がある。時期によっては蝿が多いので、充分に事前説明をしたい。

 また、ピナクルズから程近い沿岸に広がるランセリン砂丘も絶景だ。真っ白な砂山のてっぺんからは、そりのように滑る「サンドボーディング」を楽しめる。裸足で砂にまみれながら遊べば童心に返り、良い思い出ができるだろう。

 ピナクルズとパースの中間、街の灯りや振動を一切遠ざけたブッシュの只中には、「重力研究所」と「ジンジン天文台」がある。「斜塔から重さの違う風船を落とす」、「音の速度を確かめる」といった物理の実験ができ、地元の学校からも校外学習に訪れる施設だ。夜は降るような星空を天体望遠鏡で観測する。理系校に提案したい。



「生徒が喜ぶ」ロットネスト島
活用しながら保護する環境


 パースからフェリーで約1時間30分のロットネスト島は、週末ともなるとサイクリングやビーチを楽しむ人で賑わう人気スポットだ。周囲40キロメートルの島全体がA級自然保護地区に指定されており、小さなカンガルーのような有袋動物クォッカが1万7000匹生息している。また、島の電力の約4割を風力でまかない、海水を淡水にする装置で水を自給し、ゴミのリサイクルを進めるなど、持続可能な暮らしへの取り組みでも知られる。

 年間50万人の訪問客があるこの島では、環境への負荷を配慮し、植林や海岸清掃のボランティア・プログラムを実施。ほかにも、クイズに答えながら島内をめぐる「アドベンチャーチャレンジ」や、海底に設置したパネルで魚の生態を学べる「シュノーケルトレイル」といった環境学習の素材を整え、教育旅行を受け入れている。昨年は130校が来島したという。

 学習要素も豊富だが、何よりの魅力はその美しい海とリゾート風の雰囲気かもしれない。ロットネスト島での一日は、今回の参加者にも「はずれがない」「生徒が喜ぶ」と評判だった。島内は一般車両の乗り入れを禁止しているので、サイクリングも安心だ。学校によっては教育旅行で遊泳させない方針もあるが、高速で海を駆ける「エコボート」に乗れば、海からイルカやアシカを見かけることも。島内には旧兵舎を利用した宿舎があり、宿泊も可能だ。






過ごしやすく日本人少ないパース
足回りのよさも利点


 「世界で最も美しい街」として知られるパースは、市内を一望するキングスパークをはじめ緑に溢れ、晴天が多くて過ごしやすい。また、近代的なビルに混ざって文化財に指定された歴史的建造物が並び、銀行や喫茶店、ホテルなどに活用されている。アメリカ西海岸のような明るさの中に、イギリス風のクラシックな文化が息づく街だ。

 オーストラリア東海岸の都市に比べて日本人が少ないため、特に語学研修に最適といえる。街中には「CAT」と呼ばれる無料の循環バスが3路線で運行しており、参加した教員は「修学旅行の自由行動でも動きやすい」と評価。通りは碁盤の目のように走り、中心部には歩行者天国となったショッピングストリートがある。

 教育旅行での見どころといえば、1899年にオープンした造幣局「パースミント」。ゴールドラッシュの際に金貨を造るために建設された、西オーストラリア繁栄の始まりを象徴する場所だ。現在は記念メダルを造っており、その工程や、高熱で金を溶かして実演する「延べ棒造り」を見学できる。

 パースから車で約30分の港町フリーマントルを拠点にするのも一案だろう。町は大都会のパースに比べるとこじんまりとした規模で、自由見学にも適している。市内には2010年に世界遺産に登録されたフリーマントル刑務所があり、囚人による開拓の歴史を学べるほか、日用品などを売るフリーマントル・マーケットでは地元っ子のやりとりを垣間見ることができる。港には、ロットネスト島まで約25分のフェリーが就航しており、アクセスも良い。雰囲気の異なる拠点の選択ができるのも、西オーストラリア州での教育旅行の魅力といえるだろう。









実際の授業風景を視察、地元のクラスに参加も

 今回の視察では、中学・高校に相当する公立校アトウェ
ル・カレッジで、語学研修生の授業を見学させてもらうこ
とができた。地元の生徒の日本語クラスに参加するという
授業で、パースの留学手配会社「ゴールドツアーズ&エデ
ュケーション」によるプログラムの一環だ。同社の手配は、
各学校20名までの少人数制や、地元の生徒と1対1でバディ
を組んでの交流、生徒宅でのホームステイを特徴としてい
る。見学した授業では、趣味を質問しあうなどの英会話を
練習中で、同世代同士のほほえましいコミュニケーション
が伺えた。

 また、州立エディス・コーワン大学では、語学研修生だ
けの特別クラスだけでなく、ローカルクラスに入ることが
可能だ。90ヶ国から留学生を受け入れており、構内を歩く
学生は国際色豊か。日本人は平均5%程度で、関西や九州
の有名大学から研修生が訪れているという。アトウェル・
カレッジもエディス・コーワン大学も近代的な新しい校舎
が備わり、学習環境は快適そうだ。



取材協力:西オーストラリア州観光局
取材:福田晴子