クルーズ、消費者と商材のマッチングが市場拡大の鍵
日本旅行業協会(JATA)と日本外客船協会(JOPA)は「クルーズ販売セミナー2011」を共催した。第1部ではクルーズの魅力や販売手法について紹介し、第2部では、日本船3社、外国船2社、旅行会社3社が集まり、顧客とクルーズ商品のミスマッチが起こっているのでは、という逆説を用いながらパネルディスカッションを実施。潜在需要が高く、将来性、成長性が見込まれるクルーズ市場について、販売する上でのテクニックと課題や可能性について話された。
旅行の目的にあわせてクルーズを紹介
クルーズは特別ではなく、旅行商品のひとつ
第1部の基調講演に登壇したJTB首都圏ロイヤルロード銀座総支配人の齋藤和宏氏は、「クルーズを売るのではなく、旅を売る。何に乗るかよりもどこに行くかが重要」と話し、旅行商品のひとつとして提案する必要性を訴える。そのため、ロイヤルロード銀座ではクルーズの商品説明会ではなく、あえてデスティネーションごとの説明会にクルーズを盛り込んでいる。これにより、クルーズ旅行を想定していなかった消費者に、目的やテーマを変えずに旅行の選択肢のひとつとしてクルーズを紹介できる。その上でクルーズを選んでもらうために陸上のツアーとの違いを明確に伝えることも重要だ。
例えば、陸上のツアーをハワイやカリブ、タヒチなどのリゾート型とヨーロッパの周遊型にわけて考えた場合、クルーズであれば両方の魅力を網羅できる。さらに、周遊型の陸上ツアーでは、移動するごとにホテルのチェックインやチェックアウトをする必要があるが、クルーズであれば乗船後、下船するまでチェックインなどの必要はなく、船の上では自由に時間を活用できる。こうしたクルーズ旅行の魅力を陸上のツアーと比較して伝えることで消費者がイメージしやすく、興味関心を持つことにつながる。
齋藤氏はまた、陸上のツアーだけでなく海の旅を知ることで旅行の選択肢が増え、「一度クルーズに行くことでパイの取り合いではなく全体で旅へ行く人が増える」と話し、「海外旅行市場の拡張につながる」との考えを示す。一方で、これは、一回目のクルーズ旅行の成功がリピーター化と、海外旅行市場拡大への第一歩を担っているともいえるだろう。
1度乗るとリピーターになるのがクルーズ
最初に間違うと2度と行かないのもクルーズ
第2部のパネルディスカッションでは、旅行会社による顧客とクルーズ商品のマッチングの重要性や、船会社のリピーター獲得に向けた取り組みや工夫について意見が出された。モデレーターを務めたPTSクルーズ&レジャー事業部PTSクルーズデスク次長の小泉芳弘氏は、「1度乗るとリピーターになるのがクルーズ。最初に間違うと2度と行かないのもクルーズ」と顧客と商品のマッチングがリピーター化に重要だと訴える。「どんなにいい船でもお客さまにとっていい船かはまったく別。何を求めているかを理解し、それにあうものを提供する」必要がある。
クラブツーリズムクルーズワールド旅行センターの岡本栄氏は、往復の航空券のみビジネスクラスやプレエコノミークラスにアップグレードする陸上ツアーがシニアに人気だったため、クルーズでも同様にビジネスクラスとカジュアル船の内側キャビンを組みあわせた商品を販売。すると、「フライトは楽しめたけど船旅は暗くて期待したものではなかった、という声があがった」という。「旅行代金を意識して商品を企画した点が反省点」と振り返る。
一方でクルーズ嫌いの顧客の苦手意識を払拭したことでリピーターにつなげた成功例も紹介。戦後の引き上げ船の思い出が強くドレスコードも面倒だという印象を持っていたシニア層の男性に対し、引き上げ船との違いや服装について細かく説明したところ、まず日本船のチャータークルーズに乗船し、続いて外国船のツアーにも参加したという。クルーズは単なる“船”と何が違い、何ができるのかを伝えることで、顧客がクルーズに求めるものを引き出し提案できると伝えた。
クルーズライン、特徴をいかした販売
リピーター獲得への取り組みも
キュナードラインを取り扱うクルーズバケーション営業担当の稲田隆太郎氏は、世界中で有名なクイーン・エリザベスは、名前は知られているが中身はなかなか知られていない、と述べる。これは、日本に寄港してメディアに取り上げられても最も高級な船室や商品ばかりが取り上げられることで“高い”イメージが根付いてしまうためと指摘。キュナードラインは現在も階級制を残すクルーズ客船で、高級な船室ばかりではない。そのため幅広い商品設定ができ、初心者向けに提案できるクラスもある。まずは、ゴールデンウィーク(GW)や年末年始、お盆などでのショートクルーズで体験してもらい、次は別の階級に乗ってもらうなど、リピーター化に期待する。
ディズニークルーズを取り扱う郵船トラベルクルーズ部クルーズセンター東京の大橋徳子氏は、メインの顧客層がハネムーナーだが、ファミリー層に手厚いサービスや施設が充実していることがセールスポイントと強調。ハネムーナーでクルーズを体験した人が将来家族や記念日に利用するなど将来のリピーター化を見込んでいる。
リピーターの獲得と同時に重要なのが、新規客の獲得だ。クルーズはリピーターの大半が60代、70代といった年配層のため、50代以下の新規客層の取り込みが必要となってくる。
昨年、レジェンド・オブ・ザ・シーズの横浜発着クルーズが話題になったロイヤル・カリビアン・インターナショナル(RCI)日本総代理店を務めるミキ・ツーリスト・クルーズセンターではまず、参加した日本人の80%が既存のリピーター層だった日本発着クルーズで、今後は新規顧客の取り込みをめざす。同社営業係長の糸川雄介氏によると、日本発着であればより気軽で、クルーズ=高いといったイメージを払拭できるという。また、地方都市への寄港も地方市場開拓や、インセンティブなどのグループの取り込みを強化し、ハネムーナーや学生団体といった若年層の取り込みで将来のリピーター増加につなげたい考えだ。
MICEに“ハマる”クルーズ
費用対効果の高さで企業へアピール
企業のインセンティブ旅行やイベントを担当するJTB法人東京では、クルーズをイベント会場、ユニークベニューとしてとらえ、企業へ提案している。同社の松長良博氏によると、MICEではクルーズを提案するのは珍しいため競合が少なく新規開拓がしやすいという。「クルーズMICE」と称して新しい切り口でイベントの提案しており、イベントの中でも表彰式やセミナーが多い。特に、インセンティブ市場の中で差別化する商材として有効で、「一見お金がかかりそうなのに、1泊あたり3食付いて、費用対効果が良い」と、クルーズの特長について紹介する。
デメリットとしてあげるのは、チャーターでない場合は会場が貸し切りにならないこと。オリジナルのパーティがしにくいという懸念につながる。ただし、カジュアルクラスの客船では、こうした課題に対応しているところもある。カジュアルクラスの大型船ではシアターの貸し切りや、ある一定条件を達するとレストランの貸し切りにも対応している。
このほか、受注率を高める戦略として、クルーズの映像や体験の活用をあげる。「映像と体験を駆使して営業すると、興味の度合いが違う」。また、オーガナイザーがMICE後に家族でクルーズを申し込むといった個人客へのリピーター化にもつながっているという。クルーズは様々なクラスやカテゴリーの客船があり、新しいMICEの素材として差別化がはかれる。MICE、クルーズの両面での新たな可能性が感じられた。
旅行の目的にあわせてクルーズを紹介
クルーズは特別ではなく、旅行商品のひとつ
第1部の基調講演に登壇したJTB首都圏ロイヤルロード銀座総支配人の齋藤和宏氏は、「クルーズを売るのではなく、旅を売る。何に乗るかよりもどこに行くかが重要」と話し、旅行商品のひとつとして提案する必要性を訴える。そのため、ロイヤルロード銀座ではクルーズの商品説明会ではなく、あえてデスティネーションごとの説明会にクルーズを盛り込んでいる。これにより、クルーズ旅行を想定していなかった消費者に、目的やテーマを変えずに旅行の選択肢のひとつとしてクルーズを紹介できる。その上でクルーズを選んでもらうために陸上のツアーとの違いを明確に伝えることも重要だ。
例えば、陸上のツアーをハワイやカリブ、タヒチなどのリゾート型とヨーロッパの周遊型にわけて考えた場合、クルーズであれば両方の魅力を網羅できる。さらに、周遊型の陸上ツアーでは、移動するごとにホテルのチェックインやチェックアウトをする必要があるが、クルーズであれば乗船後、下船するまでチェックインなどの必要はなく、船の上では自由に時間を活用できる。こうしたクルーズ旅行の魅力を陸上のツアーと比較して伝えることで消費者がイメージしやすく、興味関心を持つことにつながる。
齋藤氏はまた、陸上のツアーだけでなく海の旅を知ることで旅行の選択肢が増え、「一度クルーズに行くことでパイの取り合いではなく全体で旅へ行く人が増える」と話し、「海外旅行市場の拡張につながる」との考えを示す。一方で、これは、一回目のクルーズ旅行の成功がリピーター化と、海外旅行市場拡大への第一歩を担っているともいえるだろう。
1度乗るとリピーターになるのがクルーズ
最初に間違うと2度と行かないのもクルーズ
第2部のパネルディスカッションでは、旅行会社による顧客とクルーズ商品のマッチングの重要性や、船会社のリピーター獲得に向けた取り組みや工夫について意見が出された。モデレーターを務めたPTSクルーズ&レジャー事業部PTSクルーズデスク次長の小泉芳弘氏は、「1度乗るとリピーターになるのがクルーズ。最初に間違うと2度と行かないのもクルーズ」と顧客と商品のマッチングがリピーター化に重要だと訴える。「どんなにいい船でもお客さまにとっていい船かはまったく別。何を求めているかを理解し、それにあうものを提供する」必要がある。
クラブツーリズムクルーズワールド旅行センターの岡本栄氏は、往復の航空券のみビジネスクラスやプレエコノミークラスにアップグレードする陸上ツアーがシニアに人気だったため、クルーズでも同様にビジネスクラスとカジュアル船の内側キャビンを組みあわせた商品を販売。すると、「フライトは楽しめたけど船旅は暗くて期待したものではなかった、という声があがった」という。「旅行代金を意識して商品を企画した点が反省点」と振り返る。
一方でクルーズ嫌いの顧客の苦手意識を払拭したことでリピーターにつなげた成功例も紹介。戦後の引き上げ船の思い出が強くドレスコードも面倒だという印象を持っていたシニア層の男性に対し、引き上げ船との違いや服装について細かく説明したところ、まず日本船のチャータークルーズに乗船し、続いて外国船のツアーにも参加したという。クルーズは単なる“船”と何が違い、何ができるのかを伝えることで、顧客がクルーズに求めるものを引き出し提案できると伝えた。
クルーズライン、特徴をいかした販売
リピーター獲得への取り組みも
キュナードラインを取り扱うクルーズバケーション営業担当の稲田隆太郎氏は、世界中で有名なクイーン・エリザベスは、名前は知られているが中身はなかなか知られていない、と述べる。これは、日本に寄港してメディアに取り上げられても最も高級な船室や商品ばかりが取り上げられることで“高い”イメージが根付いてしまうためと指摘。キュナードラインは現在も階級制を残すクルーズ客船で、高級な船室ばかりではない。そのため幅広い商品設定ができ、初心者向けに提案できるクラスもある。まずは、ゴールデンウィーク(GW)や年末年始、お盆などでのショートクルーズで体験してもらい、次は別の階級に乗ってもらうなど、リピーター化に期待する。
ディズニークルーズを取り扱う郵船トラベルクルーズ部クルーズセンター東京の大橋徳子氏は、メインの顧客層がハネムーナーだが、ファミリー層に手厚いサービスや施設が充実していることがセールスポイントと強調。ハネムーナーでクルーズを体験した人が将来家族や記念日に利用するなど将来のリピーター化を見込んでいる。
リピーターの獲得と同時に重要なのが、新規客の獲得だ。クルーズはリピーターの大半が60代、70代といった年配層のため、50代以下の新規客層の取り込みが必要となってくる。
昨年、レジェンド・オブ・ザ・シーズの横浜発着クルーズが話題になったロイヤル・カリビアン・インターナショナル(RCI)日本総代理店を務めるミキ・ツーリスト・クルーズセンターではまず、参加した日本人の80%が既存のリピーター層だった日本発着クルーズで、今後は新規顧客の取り込みをめざす。同社営業係長の糸川雄介氏によると、日本発着であればより気軽で、クルーズ=高いといったイメージを払拭できるという。また、地方都市への寄港も地方市場開拓や、インセンティブなどのグループの取り込みを強化し、ハネムーナーや学生団体といった若年層の取り込みで将来のリピーター増加につなげたい考えだ。
MICEに“ハマる”クルーズ
費用対効果の高さで企業へアピール
企業のインセンティブ旅行やイベントを担当するJTB法人東京では、クルーズをイベント会場、ユニークベニューとしてとらえ、企業へ提案している。同社の松長良博氏によると、MICEではクルーズを提案するのは珍しいため競合が少なく新規開拓がしやすいという。「クルーズMICE」と称して新しい切り口でイベントの提案しており、イベントの中でも表彰式やセミナーが多い。特に、インセンティブ市場の中で差別化する商材として有効で、「一見お金がかかりそうなのに、1泊あたり3食付いて、費用対効果が良い」と、クルーズの特長について紹介する。
デメリットとしてあげるのは、チャーターでない場合は会場が貸し切りにならないこと。オリジナルのパーティがしにくいという懸念につながる。ただし、カジュアルクラスの客船では、こうした課題に対応しているところもある。カジュアルクラスの大型船ではシアターの貸し切りや、ある一定条件を達するとレストランの貸し切りにも対応している。
このほか、受注率を高める戦略として、クルーズの映像や体験の活用をあげる。「映像と体験を駆使して営業すると、興味の度合いが違う」。また、オーガナイザーがMICE後に家族でクルーズを申し込むといった個人客へのリピーター化にもつながっているという。クルーズは様々なクラスやカテゴリーの客船があり、新しいMICEの素材として差別化がはかれる。MICE、クルーズの両面での新たな可能性が感じられた。
取材:本誌 秦野絵里香