トップインタビュー:カナダ観光局日本地区代表のモリーン・ライリー氏
消費者の興味を引くために旅行会社を重視
カナダを訪れる理由を提案できる商品造成促進へ
このほどアルバータ州観光公社アジア太平洋地域担当ディレクターを経て、カナダ観光局(CTC)日本代表に就任したモリーン・ライリー氏。過去の在日年数はのべ4年におよび、流暢な日本語を繰るライリー氏はCTCの推進する「チームカナダ・コンセプト」の窓口でもあり、旅行会社のニーズを聞くことで相互関係を築いていくことに意欲を燃やす。これからの構想を聞いた。(聞き手:本誌編集長 松本裕一)
−1996年に日本人渡航者数が65万人とピークであったカナダですが、現状の日本市場をどのように見ていますか
モリーン・ライリー氏(以下、敬称略) 当時と現在を比較すると、まずCTC側のマーケティング方法がまったく変わっていなかったと思います。これまでのカナダは景色だけを見せる、紹介するというマーケティングでしたが、旅行者は今、旅行先の写真がほしいのではなく旅行の思い出がほしいという時代。つまり景色を見るだけの旅行スタイルから体験するスタイルに変わってきているのです。
また、十数年前は海外旅行すること自体が珍しかったですが、今はアジア諸国など3、4日間で行ける旅先にあふれており、誰でも気軽に旅行できる時代になりました。その反面、カナダは短期間で行ける場所ではないし、値段で勝負すれば必ず負ける。今はマーケティング方法を変えるべきときなのだと思っています。
そこで、CTCでは昨年からは体験を中心にさまざまな素材を紹介するよう転換し、その効果もあってか少しずつ数字が上がってきています。旅行会社のプランを見ても、今はただナイアガラの滝を見るだけでなく、ハイキングするなど体験型のアクティビティもありますよね。
−具体的にどのような方法をお考えでしょうか
ライリー 「チームカナダ・コンセプト」を推進していきます。これまでCTCだけでなく、カナダのそれぞれの州の代表が観光をプロモートしてきましたが、それではインパクトが弱かった。カナダ国内で旅行者を取り合うのではなく、カナダ全体としてより多くの旅行者を呼びこまなくてはなりませんから、ひとつの国としてカナダをアピールしていきたいわけです。
チームカナダはそれがコンセプトなので、窓口もひとつ。旅行会社の方々がそれぞれ個々の観光局に問い合わせるのではなく、カナダとしてすべてお答えできる体制を整えていきます。州をまたがる周遊旅行など新しい旅行企画をこちらから提案することも可能になると思います。
−この2年ほど、旅行会社重視の姿勢を打ち出されていますが、その理由、そしてこれまでの効果は
ライリー 1996年のピーク時に伝わったカナダのイメージは今でも生きていて、そのおかげか現在、カナダを訪れる熟年層は多い。しかし今後は、もっと若い人にアピールできるイメージも伝えなくてはならない。そのためにはまずそれを伝えるエージェントから、というのが旅行会社を重視する理由です。実際、旅行会社の方がカナダをよく知らないということもありますので、昨年はカナダに関する知識のトレーニングに力をいれました。お客様からの質問に答えられればより興味を引くことができますし、お客様の興味がなければパッケージツアーの内容も変わらない。まずそれがステップ1、最初の一歩だと考えました。
チームカナダ・コンセプトも旅行会社をサポートするために生まれたものです。2年前に開始して昨年は日本人訪問者が前年より19%増えたことからも、こうした戦略が功を奏しているのではないかと思います。ひとつの窓口ですべて解決するというこのコンセプトは旅行会社からも大変好評を得ていますので、これはこのまま続けていこうと考えています。
−日本市場向けの予算も増えたとのことですが、この先の展望をお聞かせください
ライリー CTCの年間の活動サイクルを、旅行会社のプランニングサイクルに合わせて変えていくつもりです。これまではこちらの動きが主体となっていましたが、旅行会社の企画時期に合わせなくては意味がないですから。
それから、もっと旅行会社のニーズが聞きたいですね。今までは我々が紹介したいものを旅行会社に提示するやり方だったため、旅行会社がどのような情報をほしがっているのかがわからなかったのです。旅行会社をリードするのではなく、サポートしていきたいと思っています。
オンラインのカナダ・スペシャリストプログラム(CSP)も、レベル2を開始します。レベル1がビギナー向けだったのに対し、レベル2からは州別の話、パッケージツアーの内容、アクティビティなど、とてもプロフェッショナルな内容になっています。
マーケティングについては、今年は消費者向けの展開はせず、トレードとメディアを中心に展開していく予定です。また、今年からカナダ農務省とのパートナーシップを締結し、カナダの食や食材をテーマにカナダの魅力をアピールしていこうという試みがあります。それから修学旅行とMICE、なかでも特にインセンティブに力を入れていくつもりです。
−旅行会社への要望はありますか
ライリー 要望があるのは日本側というより、カナダ側の旅行会社に、ですね。マーケットの重点地区として中国やインド、ブラジルなどが入ってきて、このところ彼らの興味は日本からそれていました。それが数年前からエア・カナダ(AC)の日本/カナダ間の便数が増えたり、デルタ航空(DL)のように経由便のアクセスがよくなったりしたことで再び盛り上がってきました。
しかし、そういう要素がなくても安定して人気を取り戻さなくてはならないわけですが、安いレートを提示することで興味を引くのではなく、カナダそのものの魅力で惹きつけなければなりません。サプライヤーにはもう少し企業努力をしてもらい、ただ値段を下げるなどの旧態依然としたやり方を変えていただきたいと思います。“カナダに来たくなる理由”をもっと考えていただきたいです。
−具体的なカナダならではのおすすめ体験などアイデアがありましたらお聞かせください
ライリー氏 北極圏での犬ぞりとか、ケベックシティのウィンターフェスティバルなどはおもしろいと思うのですが、パンフレットには入っていないですね。カナダの文化は単一ではないので、その多様性がおもしろいと思っています。それぞれ違う文化をもちながら、みんなとてもフレンドリー。いつでも誰かの家に集まってちょっとしたパーティがはじまる。すぐに楽器を取り出して演奏をはじめたり、スプーンを楽器に見立てて拍子をとったり。そういうウェルカミングな人の集まりがあるのがカナダの文化で、ぜひそれを体験していただきたいのですが、ただ、こういった人の集まりに参加することをどのように企画に盛り込むか、は課題ですね。
―路線誘致についてなにか戦略はありますか
ライリー 昨年は日本との直行便が3便あるエア・カナダ(AC)をフォーカスしましたが、ピークシーズンになると席が足りない状況ですね。そのため、今年からはまたほかの航空会社との提携を考えています。
たとえばDLはカナダ西部とのコネクションが非常によくなりましたし、アメリカン航空(AA)などのシカゴ便なら東部へもアクセスがいい。今年はそういうふうにパートナーシップを進めていくつもりです。
関空から直行便がなくても、DLのシアトル便を使えばブリティッシュ・コロンビア州(BC州)も近いですし、シアトルからならフェリーを使ってビクトリア島に行くこともできます。飛行機だけでなく、いろいろなルートでカナダにアクセスする方法を提案していきたいですね。
−2011年の目標をお聞かせください
ライリー 今年は渡航者30万人達成という目標がありますが、私としては数値目標というより旅行会社との提携を深め、ニーズに応えていける体制を整えていくという目標をもっています。
あと、もう少し若々しく、おもしろいカナダのイメージを打ち出していきたいですね。カナダは平均年齢が若くて、若いファミリーや学生がとても多いのです。若い人が多く活気があるので修学旅行や語学旅行で訪れる方にも十分楽しめるところなのです。
中国やインドという新市場が入ってきた今も、日本市場がビッグマーケットという扱いに変わりありません。ロッキーは今でも日本がメイン市場ですし、現地のサプライヤーも日本人客が戻ってくるポテンシャルを高く評価しています。カナダのイメージを変え、また旅行会社をサポートする体制を築き上げることができれば、きっと目標が達成できると思っています。
―ありがとうございました
<過去のトップインタビューはこちら>
カナダを訪れる理由を提案できる商品造成促進へ
このほどアルバータ州観光公社アジア太平洋地域担当ディレクターを経て、カナダ観光局(CTC)日本代表に就任したモリーン・ライリー氏。過去の在日年数はのべ4年におよび、流暢な日本語を繰るライリー氏はCTCの推進する「チームカナダ・コンセプト」の窓口でもあり、旅行会社のニーズを聞くことで相互関係を築いていくことに意欲を燃やす。これからの構想を聞いた。(聞き手:本誌編集長 松本裕一)
−1996年に日本人渡航者数が65万人とピークであったカナダですが、現状の日本市場をどのように見ていますか
モリーン・ライリー氏(以下、敬称略) 当時と現在を比較すると、まずCTC側のマーケティング方法がまったく変わっていなかったと思います。これまでのカナダは景色だけを見せる、紹介するというマーケティングでしたが、旅行者は今、旅行先の写真がほしいのではなく旅行の思い出がほしいという時代。つまり景色を見るだけの旅行スタイルから体験するスタイルに変わってきているのです。
また、十数年前は海外旅行すること自体が珍しかったですが、今はアジア諸国など3、4日間で行ける旅先にあふれており、誰でも気軽に旅行できる時代になりました。その反面、カナダは短期間で行ける場所ではないし、値段で勝負すれば必ず負ける。今はマーケティング方法を変えるべきときなのだと思っています。
そこで、CTCでは昨年からは体験を中心にさまざまな素材を紹介するよう転換し、その効果もあってか少しずつ数字が上がってきています。旅行会社のプランを見ても、今はただナイアガラの滝を見るだけでなく、ハイキングするなど体験型のアクティビティもありますよね。
−具体的にどのような方法をお考えでしょうか
ライリー 「チームカナダ・コンセプト」を推進していきます。これまでCTCだけでなく、カナダのそれぞれの州の代表が観光をプロモートしてきましたが、それではインパクトが弱かった。カナダ国内で旅行者を取り合うのではなく、カナダ全体としてより多くの旅行者を呼びこまなくてはなりませんから、ひとつの国としてカナダをアピールしていきたいわけです。
チームカナダはそれがコンセプトなので、窓口もひとつ。旅行会社の方々がそれぞれ個々の観光局に問い合わせるのではなく、カナダとしてすべてお答えできる体制を整えていきます。州をまたがる周遊旅行など新しい旅行企画をこちらから提案することも可能になると思います。
−この2年ほど、旅行会社重視の姿勢を打ち出されていますが、その理由、そしてこれまでの効果は
ライリー 1996年のピーク時に伝わったカナダのイメージは今でも生きていて、そのおかげか現在、カナダを訪れる熟年層は多い。しかし今後は、もっと若い人にアピールできるイメージも伝えなくてはならない。そのためにはまずそれを伝えるエージェントから、というのが旅行会社を重視する理由です。実際、旅行会社の方がカナダをよく知らないということもありますので、昨年はカナダに関する知識のトレーニングに力をいれました。お客様からの質問に答えられればより興味を引くことができますし、お客様の興味がなければパッケージツアーの内容も変わらない。まずそれがステップ1、最初の一歩だと考えました。
チームカナダ・コンセプトも旅行会社をサポートするために生まれたものです。2年前に開始して昨年は日本人訪問者が前年より19%増えたことからも、こうした戦略が功を奏しているのではないかと思います。ひとつの窓口ですべて解決するというこのコンセプトは旅行会社からも大変好評を得ていますので、これはこのまま続けていこうと考えています。
−日本市場向けの予算も増えたとのことですが、この先の展望をお聞かせください
ライリー CTCの年間の活動サイクルを、旅行会社のプランニングサイクルに合わせて変えていくつもりです。これまではこちらの動きが主体となっていましたが、旅行会社の企画時期に合わせなくては意味がないですから。
それから、もっと旅行会社のニーズが聞きたいですね。今までは我々が紹介したいものを旅行会社に提示するやり方だったため、旅行会社がどのような情報をほしがっているのかがわからなかったのです。旅行会社をリードするのではなく、サポートしていきたいと思っています。
オンラインのカナダ・スペシャリストプログラム(CSP)も、レベル2を開始します。レベル1がビギナー向けだったのに対し、レベル2からは州別の話、パッケージツアーの内容、アクティビティなど、とてもプロフェッショナルな内容になっています。
マーケティングについては、今年は消費者向けの展開はせず、トレードとメディアを中心に展開していく予定です。また、今年からカナダ農務省とのパートナーシップを締結し、カナダの食や食材をテーマにカナダの魅力をアピールしていこうという試みがあります。それから修学旅行とMICE、なかでも特にインセンティブに力を入れていくつもりです。
−旅行会社への要望はありますか
ライリー 要望があるのは日本側というより、カナダ側の旅行会社に、ですね。マーケットの重点地区として中国やインド、ブラジルなどが入ってきて、このところ彼らの興味は日本からそれていました。それが数年前からエア・カナダ(AC)の日本/カナダ間の便数が増えたり、デルタ航空(DL)のように経由便のアクセスがよくなったりしたことで再び盛り上がってきました。
しかし、そういう要素がなくても安定して人気を取り戻さなくてはならないわけですが、安いレートを提示することで興味を引くのではなく、カナダそのものの魅力で惹きつけなければなりません。サプライヤーにはもう少し企業努力をしてもらい、ただ値段を下げるなどの旧態依然としたやり方を変えていただきたいと思います。“カナダに来たくなる理由”をもっと考えていただきたいです。
−具体的なカナダならではのおすすめ体験などアイデアがありましたらお聞かせください
ライリー氏 北極圏での犬ぞりとか、ケベックシティのウィンターフェスティバルなどはおもしろいと思うのですが、パンフレットには入っていないですね。カナダの文化は単一ではないので、その多様性がおもしろいと思っています。それぞれ違う文化をもちながら、みんなとてもフレンドリー。いつでも誰かの家に集まってちょっとしたパーティがはじまる。すぐに楽器を取り出して演奏をはじめたり、スプーンを楽器に見立てて拍子をとったり。そういうウェルカミングな人の集まりがあるのがカナダの文化で、ぜひそれを体験していただきたいのですが、ただ、こういった人の集まりに参加することをどのように企画に盛り込むか、は課題ですね。
―路線誘致についてなにか戦略はありますか
ライリー 昨年は日本との直行便が3便あるエア・カナダ(AC)をフォーカスしましたが、ピークシーズンになると席が足りない状況ですね。そのため、今年からはまたほかの航空会社との提携を考えています。
たとえばDLはカナダ西部とのコネクションが非常によくなりましたし、アメリカン航空(AA)などのシカゴ便なら東部へもアクセスがいい。今年はそういうふうにパートナーシップを進めていくつもりです。
関空から直行便がなくても、DLのシアトル便を使えばブリティッシュ・コロンビア州(BC州)も近いですし、シアトルからならフェリーを使ってビクトリア島に行くこともできます。飛行機だけでなく、いろいろなルートでカナダにアクセスする方法を提案していきたいですね。
−2011年の目標をお聞かせください
ライリー 今年は渡航者30万人達成という目標がありますが、私としては数値目標というより旅行会社との提携を深め、ニーズに応えていける体制を整えていくという目標をもっています。
あと、もう少し若々しく、おもしろいカナダのイメージを打ち出していきたいですね。カナダは平均年齢が若くて、若いファミリーや学生がとても多いのです。若い人が多く活気があるので修学旅行や語学旅行で訪れる方にも十分楽しめるところなのです。
中国やインドという新市場が入ってきた今も、日本市場がビッグマーケットという扱いに変わりありません。ロッキーは今でも日本がメイン市場ですし、現地のサプライヤーも日本人客が戻ってくるポテンシャルを高く評価しています。カナダのイメージを変え、また旅行会社をサポートする体制を築き上げることができれば、きっと目標が達成できると思っています。
―ありがとうございました
<過去のトップインタビューはこちら>