取材ノート:旅行業界活性化のために必要なこととは?−JATA経営フォーラム
2月15日に開催されたJATA経営フォーラムの全体パネルディスカッションのテーマは、「旅の新しい価値創出で、いきいき旅行業!」。モデレーターにはトラベル世界常務取締役の渡辺孝雄氏、パネリストとしてワイバード代表取締役の山本幸正氏、ダイヤモンド・ビッグ社「地球の歩き方」編集本部副本部長の奥健氏、そして流行仕掛け研究所代表の島田始氏が登壇し、業界環境や市場が多角化するなかで旅行会社が収益向上するための方策を探った。
一次情報に基づく専門性を
パネルディスカッションでは、それぞれのパネリストによる5分程度のプレゼンテーションをもとに議論するという方法がとられ、一番手にはバードウォッチングを専門とする旅行会社ワイバードの山本氏が弁を振るった。
山本氏によると、現在は業務多忙や派遣添乗員の利用の影響で「旅行会社の人間が旅行できない状況」であり、旅行会社でありながら現地のことを知らないスタッフが多いと指摘。「現場は荒れて」おり、ツアーオペレーターの話だけを聞いてデスクの上だけで企画を造成することは不可能だという。山本氏自身は社長となった今でも添乗に出ることもあり、下見も旅行会社の社長や重役としてではなく自腹で現地へ行き、旅行者の立場に立って見てこそ現場の本当の様子がわかると主張する。
ただし、会社員であるだけに思うように時間をとれない事実を問われると、「独立起業を!社長になれば自由です」と発言し、笑いを誘っていた。だがこれが山本氏の考える旅行業活性化の糸口である。
山本氏によると、料金を下げることによる量販は大手旅行会社にしかできないが、あるテーマを専門特化することはどんな小さな会社にもできる。実際、山本氏は起業した際、日本のバードウォッチングの現状を見て、ビジネスチャンスを直感したという。単にメジャーではないという理由だけでなく、ガイドの質がマレーシアやコスタリカのプロのバードガイドとはまったく違ったからだ。プロのバードガイドを養成し、バードウォッチングの専門会社となることで成功を手にした。海外はもちろん、日本の現状を自ら視察して気付いたポイントをビジネスに活かしたのである。
山本氏は「会社の大きさは関係ない。自信のある商品を作っていれば必ずお客様はついてきてくれる」といい、小さくても専門性の高い独自商品を作る旅行会社が増えれば、旅行業界は活性化すると見る。
ほかとの違いを提案して
ダイヤモンド・ビッグ社の奥健氏はまず、近年同社から発行されたガイドブックのなかから3つの成功例を挙げた。マラソンのビッグブームに乗って発売された「世界の走り方」では、旅先でもマラソンをする人に役立ちそうな情報が満載。このほか、韓流スターとのふれあいが感じられるという新しい視点で制作された「韓流トラベラー」、20代の女性を重点ターゲットにしぼり、雑誌感覚で読める「aruco」といった具合に、ひとつのテーマかターゲット層を厳密に絞った本が好調な売れ行きを見せているという。これまでに発行されてきたガイドブックと違った視点が大きな反響を生んだ例だ。
現地情報ならネットでいくらでも閲覧できる昨今、「ほかのガイドブックと一線を画し、現地でどう遊び、どう過ごすかを提案することに血道をあげてきた」という奥氏。旅行会社に対し、「なぜ人気の旅先にメインコンテンツがなく、アクティビティの部分がオプションになっているのか」と疑問をなげかけた。
これに対し、山本氏は「(旅行会社側に)知識がなく、細かいことはガイドブックまかせ、現地のことはオプションにして現地の業者まかせにしている」と指摘。島田氏も「お客様やガイドブックの方が、専門性が高い」と同調する。
とはいえ、はじめから目的や専門知識を求めてガイドブックを購入しているわけではなく、特に20代女性向けの『aruco』を購入した人のなかには、自分が何をしたいのかわからないままとりあえずガイドブックを手にする人も少なくないという。さらに、書き手(ライター)の名前を見て購入を決める人もいるといい、「旅行商品も作り手(企画者)の名前や顔がわかれば活性化するのでは」と提案した。似たような商品が氾濫し、どの商品を購入するか決め手に欠ける現状を打破するヒントとなりそうだ。
企画力と決定力をもって
出版大手のマガジンハウスなどでプロデューサーとして活躍した経歴をもつ島田氏によると、「旅行業と出版業は似ている」。ほかの業界では技術が進歩していくのに対し、仕事内容が変わらず進化がない点が似ているのだという。旅行会社の場合、これまでの安全で安心な旅先だけを企画・手配するのは「ノーリスク・ハイリターン」のやり方。だが潜在的な旅行者は7000万人ともいわれているにもかかわらず、業界が不況であることからも従来のスタイルでは立ち行かなくなってきていることを示しているという。
また、若い人が旅行しなくなったといわれて久しいが、若者はいまでも海外に出かけていると主張。たとえばドイツにワールドカップ観戦にでかけたとしても「ドイツ旅行にいった」という人がいないだけだと述べた。
現状の“安全なスタイル”である商品、つまり素材をそのままの状態で売るだけではホテルなどが自ら販売をはじめてしまい、旅行会社は存在価値がなくなる。そこに利用者の得になるものを加えなくてはならないと島田氏はいい、ハウステンボスを自らの手で作り直したエイチ・アイ・エス(HIS)の例を挙げ、「リスクを負うことも必要」だとも説く。
安心、安全と定評のある旅先のツアーを次々と造成するのは自分たち(旅行会社)のためであり、旅行者のためではない。モデレーターを務めたトラベル世界の渡辺氏が「“利益をだすツアー”というのは直行便がなく、政府観光局やガイドブックもなく、ビザの取得が困難などの自分では手配が難しいもの」というように、島田氏も「お客様の“困った”を解消するような商品づくりを」と述べ、これまでのスタイルからの脱却を提案した。
さらに、「旅行業界は環境適応業界であり、時代に求められているものをいかに早くつかめるかが重要」といい、企画造成から商品化までのスピード感の重要性を説いた。そのためには失敗を恐れず企画担当者に決定権を与えることなどにも触れた。
それぞれ違った立場のパネリストから提案された活性方法をヒントに、旅行業界に新風を吹き込みたい。
一次情報に基づく専門性を
パネルディスカッションでは、それぞれのパネリストによる5分程度のプレゼンテーションをもとに議論するという方法がとられ、一番手にはバードウォッチングを専門とする旅行会社ワイバードの山本氏が弁を振るった。
山本氏によると、現在は業務多忙や派遣添乗員の利用の影響で「旅行会社の人間が旅行できない状況」であり、旅行会社でありながら現地のことを知らないスタッフが多いと指摘。「現場は荒れて」おり、ツアーオペレーターの話だけを聞いてデスクの上だけで企画を造成することは不可能だという。山本氏自身は社長となった今でも添乗に出ることもあり、下見も旅行会社の社長や重役としてではなく自腹で現地へ行き、旅行者の立場に立って見てこそ現場の本当の様子がわかると主張する。
ただし、会社員であるだけに思うように時間をとれない事実を問われると、「独立起業を!社長になれば自由です」と発言し、笑いを誘っていた。だがこれが山本氏の考える旅行業活性化の糸口である。
山本氏によると、料金を下げることによる量販は大手旅行会社にしかできないが、あるテーマを専門特化することはどんな小さな会社にもできる。実際、山本氏は起業した際、日本のバードウォッチングの現状を見て、ビジネスチャンスを直感したという。単にメジャーではないという理由だけでなく、ガイドの質がマレーシアやコスタリカのプロのバードガイドとはまったく違ったからだ。プロのバードガイドを養成し、バードウォッチングの専門会社となることで成功を手にした。海外はもちろん、日本の現状を自ら視察して気付いたポイントをビジネスに活かしたのである。
山本氏は「会社の大きさは関係ない。自信のある商品を作っていれば必ずお客様はついてきてくれる」といい、小さくても専門性の高い独自商品を作る旅行会社が増えれば、旅行業界は活性化すると見る。
ほかとの違いを提案して
ダイヤモンド・ビッグ社の奥健氏はまず、近年同社から発行されたガイドブックのなかから3つの成功例を挙げた。マラソンのビッグブームに乗って発売された「世界の走り方」では、旅先でもマラソンをする人に役立ちそうな情報が満載。このほか、韓流スターとのふれあいが感じられるという新しい視点で制作された「韓流トラベラー」、20代の女性を重点ターゲットにしぼり、雑誌感覚で読める「aruco」といった具合に、ひとつのテーマかターゲット層を厳密に絞った本が好調な売れ行きを見せているという。これまでに発行されてきたガイドブックと違った視点が大きな反響を生んだ例だ。
現地情報ならネットでいくらでも閲覧できる昨今、「ほかのガイドブックと一線を画し、現地でどう遊び、どう過ごすかを提案することに血道をあげてきた」という奥氏。旅行会社に対し、「なぜ人気の旅先にメインコンテンツがなく、アクティビティの部分がオプションになっているのか」と疑問をなげかけた。
これに対し、山本氏は「(旅行会社側に)知識がなく、細かいことはガイドブックまかせ、現地のことはオプションにして現地の業者まかせにしている」と指摘。島田氏も「お客様やガイドブックの方が、専門性が高い」と同調する。
とはいえ、はじめから目的や専門知識を求めてガイドブックを購入しているわけではなく、特に20代女性向けの『aruco』を購入した人のなかには、自分が何をしたいのかわからないままとりあえずガイドブックを手にする人も少なくないという。さらに、書き手(ライター)の名前を見て購入を決める人もいるといい、「旅行商品も作り手(企画者)の名前や顔がわかれば活性化するのでは」と提案した。似たような商品が氾濫し、どの商品を購入するか決め手に欠ける現状を打破するヒントとなりそうだ。
企画力と決定力をもって
出版大手のマガジンハウスなどでプロデューサーとして活躍した経歴をもつ島田氏によると、「旅行業と出版業は似ている」。ほかの業界では技術が進歩していくのに対し、仕事内容が変わらず進化がない点が似ているのだという。旅行会社の場合、これまでの安全で安心な旅先だけを企画・手配するのは「ノーリスク・ハイリターン」のやり方。だが潜在的な旅行者は7000万人ともいわれているにもかかわらず、業界が不況であることからも従来のスタイルでは立ち行かなくなってきていることを示しているという。
また、若い人が旅行しなくなったといわれて久しいが、若者はいまでも海外に出かけていると主張。たとえばドイツにワールドカップ観戦にでかけたとしても「ドイツ旅行にいった」という人がいないだけだと述べた。
現状の“安全なスタイル”である商品、つまり素材をそのままの状態で売るだけではホテルなどが自ら販売をはじめてしまい、旅行会社は存在価値がなくなる。そこに利用者の得になるものを加えなくてはならないと島田氏はいい、ハウステンボスを自らの手で作り直したエイチ・アイ・エス(HIS)の例を挙げ、「リスクを負うことも必要」だとも説く。
安心、安全と定評のある旅先のツアーを次々と造成するのは自分たち(旅行会社)のためであり、旅行者のためではない。モデレーターを務めたトラベル世界の渡辺氏が「“利益をだすツアー”というのは直行便がなく、政府観光局やガイドブックもなく、ビザの取得が困難などの自分では手配が難しいもの」というように、島田氏も「お客様の“困った”を解消するような商品づくりを」と述べ、これまでのスタイルからの脱却を提案した。
さらに、「旅行業界は環境適応業界であり、時代に求められているものをいかに早くつかめるかが重要」といい、企画造成から商品化までのスピード感の重要性を説いた。そのためには失敗を恐れず企画担当者に決定権を与えることなどにも触れた。
それぞれ違った立場のパネリストから提案された活性方法をヒントに、旅行業界に新風を吹き込みたい。
取材:岩佐史絵