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取材ノート:次世代の旅行動機を掴め−ゲームが仕掛ける移動と市場への効果

  • 2011年1月25日
 ゲームから旅行が生まれるという新しい流れが起きている。ゲームが人の移動を促し、団体のバスツアーも開催された。個人がITによって交流し、バーチャルとリアルが融合する時代、人々は何を面白がり、どのように旅行に誘われるのだろうか。財団法人日本交通公社(JTBF)常務理事の小林英俊氏は、「今、人気があるものを探ることで世の中が見えてくる、人が何を求めているかが分かる」という。昨年12月下旬に開催された第20回旅行動向シンポジウムでは、約158万人が会員登録する携帯電話の無料ゲーム「コロニーな生活☆PLUS」(コロプラ)を切り口に、ITから始まる次世代の旅行市場について議論された。本日から2回にわたり、その内容を掲載する。
                        
                        
◆ゲスト講師
冨塚 優氏(リクルート執行役員/旅行カンパニー 飲食情報カンパニー カンパニー長、
      ゆこゆこ代表取締役社長、ワールドメディアエージェンシー代表取締役社長)
千葉功太郎氏(コロプラ取締役副社長)

◆コーディネーター
小林英俊氏(JTBF 常務理事)
久保田美穂子氏(JTBF 主任研究員)



リアルと融合して移動促す
ゲームに見る「ハマる仕掛け」


 コロプラは、携帯電話のGPSツールで自分のいる場所を登録して遊ぶ、位置情報ゲーム(「位置ゲー」)だ。ユーザーは1キロを実際移動するごとに仮想通貨「プラ」を得て、その通貨を資金として自分だけのバーチャルの街(コロニー)を育てて楽しむ。2003年のサービス開始以来、ユーザー数はここ1、2年で158万人に急増した。昼間は1秒間に70回の位置登録があり、ユーザーの総移動距離は77億キロ、これは地球から冥王星への距離も超えるという。

 コロプラ取締役副社長の千葉功太郎氏によると、「位置ゲー」のコンセプトは「『位置×エンターテイメント』で日常を楽しくする」こと。旅行も移動もエンターテイメントと考え、「地域とゲームを連動させ、モノを動かさずに人を動かすことで地域活性化をめざす」という。コロプラには、人を移動に駆り立てるさまざまな仕掛けがある。ユーザーは「育成」や「収集」、「コミュニケーション」といった要素にはまるという。

 たとえば、場所ごとに仮想の「おみやげ」を設定。ユーザーが札幌へ行って位置登録をしたなら、移動距離に応じてプラを獲得でき、ゲームの世界で仮想的にカニを購入できる。さらに仮想だけでなく、本物の店舗が絡んでくることが特徴だ。足を運ぶ価値があると厳選した全国の老舗や名店86店舗と提携し、買い物をした人だけがもらえるカード「コロカ」を作成。これについては、月に300件から400件の申し込み希望や問いあわせがあるという。また、現地でしか手に入らないコラボレーション商品を作り、バーチャルとリアル両方のアイテムの収集欲を移動の動機につなげる。加えて、行った地域の地図が塗りつぶされる「スタンプ帳」でも、全地域を制覇したいという「コンプリート欲」を刺激する。

 コロプラはソーシャル性の強いゲームで、遊び方が分からなくてもインターネット上で質問をすると上級者が初級者に教えてくれるという。そのような双方向の交流も楽しみの一つ。千葉氏は、コミュニケーションできるユーザーが現実の「ご近所さん」に限定されているため、ゲーム上でも地域で助けあうような感覚があると分析する。

 また、育てた街に突然「隕石」を降らせ、1キロ以上移動することで回避できるといった仕掛けでも、遊びながらの移動を促している。千葉氏によると、ゲームではあえて理不尽な「ストレス」を設定することで、それを脱した時の「報酬」がくせになるという。


バーチャルが生んだリアル市場
観光業界に及ぼす効果


 ゲームからはじまった移動は、観光業界にどう影響しているだろうか。リクルートが運営するじゃらんネットは2009年、コロプラのユーザーを対象に九州で実証事業としてバスツアーを開催した。1泊2日で、料金は羽田発が4万4800円、福岡発が2万2800円。このころはまだ、会員数が20万人程度であったが発売後24時間以内に完売し、2回の実施で計114名が参加した。若い参加者には団体バス旅行に行ったことのない人も多いが、千葉氏は、「団体バス旅行という古くて新しいコンセプトにこだわった」と述べる。コロプラを共通の話題として、一人での参加が3割に上り、女性の一人客の比率も高いという。

 リクルート執行役員/旅行カンパニー 飲食情報カンパニー カンパニー長の冨塚優氏は、通常の客単価が3000円代のおみやげ店で、同ツアーの参加者はその約5倍の買い物をしたと言及。おみやげ購入がゲーム上でのアイテムゲットにもつながることが、「せっかくここまで来たから」という購買意欲を上げていると語る。

 このほか、全国405軒のホテルと提携し、宿泊すると都道府県の「コロカ」と「コロ旅マップ」がもらえる宿泊プランも、じゃらんネットで販売。月1300万円程度の売り上げがあるという。「マスに対してより、ある限られたターゲットに刺さるものをいくつ重ねられるか」と富塚氏。「『A』が好きな人が1万人いればその1%で100人。この『A』『B』『C』『D』合計でいくらになるか。そうしていかなくてはじゃらんネットを伸ばせない」と続ける。


市場の事実を受け止め
これからの旅行のヒント学ぶ


 コロプラ以外にも、ゲームが生む需要がある。久保田氏はコナミの恋愛シミュレーションゲーム「ラブプラス+」にちなんで「熱海ラブプラス+現象(まつり)キャンペーン」が昨年開催された、熱海の事例を紹介。スタンプラリー参加者だけで1500人が熱海に集まったほか、ホテル大野屋では宿泊客が400名から500名となり、夏のおみやげの売り上げの3分の1以上が「ラブプラス+」関連だったと報告した。

 携帯電話では移動と関連したゲームやサービスが近年多数登場しており、観光経路を案内する「奈良おもてなしナビ」や、友人と観光情報を交換できる「セカイカメラ」、ゲームの「ケータイ国盗り合戦」などがある。小林氏はこれらに対し、「旅行業界にとって面白い展開」との見解を示している。

 小林氏は、ゲームから生まれた反響が現実の観光市場を動かしている現象を、「まずは事実として受け止めるべき」と強調する。ゲームと旅行はどちらも、「一回体験するとはまる」もの。はまるポイントは人によってさまざまだが、「ゲームは人が何にはまるかを考え抜かれてつくり込まれている」一方で、「旅行はそこまで考えてきただろうか」と、JTBF主任研究員の久保田美穂子氏は疑問を投げかける。ゲーム業界の動向をヒントに、旅行業界の課題と可能性をあらためて認識したい。


取材:福田晴子